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Global Perspective 2011
2011年5月20日掲載

ドイツテレコム:Mobile Walletへの取組み

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2011年2月15日、ドイツテレコムは2011年中に"Mobile Wallet" (日本でいうところの「おサイフケータイ」)を導入することを発表した。
2011年中にドイツとポーランド、2012年にはアメリカ、オランダ、チェコでの導入を予定していると発表した。(但し、アメリカに関しては2011年3月20日に米国通信事業者AT&Tに買収されたとの報道があったので、今後の展開については不明)

 ドイツテレコムのユーザはNFC搭載の携帯電話を用いて、商品、イベントのチケット、電車チケットの購入ができるようにする。NFCサービスのセキュリティ確保は、端末、SIMカードによって対応し、そのために、国際標準の決済システムを導入する予定だ。その他にも、盗難・紛失時に遠隔からロックができるアプリケーションも導入する予定だ。(NTTドコモでいうこところの「おまかせロック」のイメージ)

 ドイツテレコムでは、"Mobile Wallet" としてドイツテレコム独自のモバイルペイメントサービスだけでなく、銀行や鉄道会社、イベント会社、さらには小売店でも利用できるように連携してサービスを提供していく予定だ。

 コンタクトレスサービス開発・展開において、ドイツテレコムは海外市場も視野に入れている。
アメリカで2010年11月にアメリカの通信事業者AT&T、Verizon、T-MobileでNFC推進のためのジョイントベンチャーであるISISが結成された。AT&TがT-Mobile USAを買収したので、今後はISISの動向にも重ねて注目したい。
欧州においては2011年にドイツとポーランドで共通のNFCサービス展開に向けたプラットフォームを展開し、2012年にはオランダ、チェコへ拡大していく予定だ。

 ドイツテレコム(T-Mobile)は世界的に展開している通信事業者である。以下がドイツテレコムの海外で展開している通信事業者である。(2011年3月現在)

・ドイツ:T-Mobile Deutschland
 ・同国シェア:約32.6%(2位)

・オーストリア:T-Mobile Austria GmbH
 ・100%子会社
 ・同国シェア:約31%(2位)

・クロアチア:T-Mobile Croatia (T-Mobile Hrvatska d.o.o.)
 ・100%株式保有
 ・同国シェア:約44.6%(1位)

・チェコ:T-Mobile Czech Republic, a.s.
 ・60.77%株式保有
 ・同国シェア:約40.3%(1位)

・マケドニア:T-Mobile Macedonia
 ・100%株式保有
 ・同国シェア:約60.9%(1位)

・ハンガリー:Magyar Telekom NyRt.
 ・59.21%株式保有
 ・同国シェア:約43.3%(1位)

・モンテネグロ:T-Mobile Montenegro
 ・100%株式保有
 ・同国シェア:約37.6%(2位)

・オランダ:T-Mobile Netherlands B.V.
 ・100%株式保有
 ・同国シェア:約23.3%(3位)

・ポーランド:PTC Polska Telefonia Cyfrowa Sp.z o.o.
 ・97%株式保有
 ・同国シェア:約29%(3位)

・スロバキア:T-Mobile Slovensko
 ・51%株式保有
 ・同国シェア:約40%(2位)

・英国:T-Mobile UK
 ・100%株式保有
 ・同国シェア:約20.6%(3位)

・アメリカ:T-Mobile USA, Inc.
 ・100%株式保有
 ・同国シェア:約11.7%(4位)
 ・2011年3月20日、AT&Tが390億ドルで買収すると発表

 通信事業者の他にも、アジア、中南米を含めて全世界で展開するシステム開発会社の「T-System」も有名である。

 「ドイツテレコムにとって、ペイメントシステムは同社の成長のキーになるので、この分野への投資は引き続き実施し、ドイツ国内外に拡大していく。モバイルペイメントにはとてつもないポテンシャルがある。通信事業者だけでなく世界のネット企業、銀行、交通機関にとっても重要であり、お客様には便利で安全なサービスを提供していく。」と同社Thomas Kiessling氏は語っている。
ドイツテレコムは、2010年5月に、インターネットペイメントサービス会社「Click & Buy brand」を買収し、"Mobile Wallet" 展開への足場を固めていた。今後ドイツテレコムは通信事業以外の新たな分野としての"Mobile Wallet" およびNFCを成長の柱として期待している。

 ドイツテレコムは、ドイツで他の通信事業者であるボーダフォンやO2ドイツとも提携してモバイルペイメントを推進するために既に働きかけているとのこと。
現在欧州では他の通信事業者もNFCのトライアルを実施しているが、ポーランド・ウクライナで開催予定の2012年の「European Football Championship(UEFA EURO 2010)」でのスタジアムへのアクセスとしてNFC搭載の携帯電話の活用を予定している。

 オランダにおいては、他通信事業者、現地銀行と提携して"Mobile Wallet"を推進する予定だ。これは2010年9月にオランダの通信事業者(KPN、ボーダフォン、T-Mobile)と銀行(ING、ABN AMRO、Rabo Bank)が共同でNFCを推進することを発表していた。
英国T-Mobileは英国Orangeとのジョイントベンチャー「everything everywhere」がNFCによるモバイルペイメントへの取組を2011年1月末に発表したばかりだ。こちらとの提携や関係については一切述べられていない。

 現在、欧州では様々な通信事業者がモバイルペイメントの取組を表明しトライアルを実施しようとしている。決済が絡むとなると国境を越えての提供はシステム、為替、法律、商習慣等が異なるから非常にハードだろうが、ドイツテレコム(T-Mobile)のように欧州各地で事業を展開する事業者には、提供エリア、グループで歩調を合わせてもらいたいものだ。その方がユーザにとっても同社にとっても利便性、スケールメリットがあるはずだ。
フランスOrangeは昨年末にNFCへのコミットメントを表明し、イギリスでも来年のオリンピックに向けてNFCへの動きが加速している。
欧州最大の市場であるドイツにおいて、ドイツテレコムがNFC、”Mobile Wallet”への取組を表明したことのインパクトは欧州の今後のNFCとその周辺産業に与える影響も大きいだろう。
2011年2月21日、GSMAは世界の16の通信事業者がNFCを商用化するだろうと発表した。ドイツテレコムも含まれている。ドイツテレコムの今後のNFCおよびMobile Walletへの取組みに注目していきたい。

 2011年のMWCで、今回のNFCのデモをサムソン端末で実施していた。
モバイルペイメントの他にサッカースタジアムへの入場ができるデモだ。(下記動画参照)

 リリースしてから約3ヶ月が経つ。その後、アメリカT-Mobileの買収などもあり、ドイツテレコムの本件に関するその後の動きが報じられていない。今後の動きには引き続き注目していきたい。

本情報は、2011年5月10日時点のものである。

【参考動画:MWCでのドイツテレコムのNFCデモ(2011年2月)】

【参考:過去にNFCに対する取組を表明している通信事業者に関するレポート】

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