ホーム > Global Perspective 2011 > |
2011年11月29日掲載 |
2011年10月25日、シンガポール情報通信開発庁(IDA: Infocomm Development Authority)はモバイルペイメント促進に向けたNFCインフラを構築していくコンソーシアムを結成したことを発表した。今回はNFCモバイルペイメント導入に向けたシンガポールの国家としての取組みと導入パターンについて考察してみたい。 NFCモバイルペイメントに向けたコンソーシアム政府当局IDA主導のもと、以下の7社でコンソーシアムを結成する。 SIMメーカー/システム構築・運営 銀行 サービスプロバイダー 今回のNFCインフラ構築は、IDAが主導している「Next Generation e-Payment 世界最大のSIMメーカーである「Gemalto」が加盟し、TTP(Trusted Third Party)の構築と運営を行う。また、シンガポールでは生活インフラとして普及している非接触カード「EZ-Link」が加盟しているのは今後の普及・拡大への弾みになる可能性を秘めているだろう。 シンガポールでは、2002年からEz-Linkが提供するIC乗車カードが非常に有名でMRTやバスに利用できるほか、セブンイレブンなどのコンビニエンスストアでも利用できる。2008年からは、「CEPAS」と装いを新たにした。(CEPASとは、Contactless ePurse Application の略称)Ez-linkの時から既に1,000万枚以上が発行されている。 今回のNFCインフラ構築に向けてシンガポールの多くの店舗もPOS端末をNFC対応にする必要がある。VisaやMasterCard、Ez-linkが提供する「CEPAS」にも対応した端末とする。 シンガポールでは、2010年に通信事業者Starhubらが中心となってNFCモバイルペイメントの大規模なトライアルを実施していた。今回は政府当局であるIDAが主導で、全通信事業者が参加している。これによって、ユーザの利便性は向上するだろうが、通信事業者としての差別化はなくなるだろう。 国家主導のNFCモバイルペイメント導入へ政府主導のNFCモバイルペイメント導入としては、2011年3月には韓国で韓国放送通信委員会 (KCC) が打ち出した韓国でのNFC活性化を目的とした 「Grand NFC Korea Alliance」 を発足させた。 今回のシンガポールも政府当局が主導して国家プロジェクトとしてNFCによるモバイルペイメント導入を推進しようとしている。 韓国、シンガポールともに国家としてICTに注力していることでは特筆すべき国である。韓国では2002年から開始した韓国電子政府のポータルサイトが有名である。シンガポールも1999 年に開始した電子行政ポータルサイト「eCitizen 」が有名である。今回のNFCによるモバイルペイメント導入も政府主導のICT取組みへの一環であろう。 シンガポール政府機関IDAとコンソーシアム7社がNFC導入に向けて4,000万シンガポールドル(約24億円)を投資する。各社の内訳は公表されていないが、単純に政府と7社(合計8団体)で割ったとして1団体・企業が負担するのは500万シンガポールドル(約3億円)である。今回コンソーシアムに参加している企業の売上・利益から見ても大きな額ではない。 シンガポール政府が過去に投資してきたICTインフラ構築に比べると今回の4,000万シンガポールドルは小額である。例えば、シンガポールでは2009年までに、15 億シンガポールドルを投資して、全政府機関(国防省を除く)のパソコンとネットワーク環境の統一化を図ることとしてきた。(各政府機関にまたがる新たなICT サービスの導入にかかる時間・コスト・互換性が軽減することを目的。また政府機関がサイバー攻撃にあった際には最新のウィルス対策ソフトが各機関に一斉に対応することが可能となる) 政府主導でICTが積極的に導入されているシンガポールにおいてNFCを活用したモバイルペイメント導入は普及に向けて大きな加速をする可能性が高い。さらに、シンガポールにはEz-link社による「CEPAS」が既に1,000万枚普及しており、MRTやコンビニエンスストアでの決済などで、ほとんど全てのシンガポール人が利用したことがあるだろう。そして携帯電話の普及率も160%と非常に高い。 今回のNFCを活用したモバイルペイメント導入に向けた下地はほぼ揃っている。また、国家、政府が主導することによって、まさにNFCモバイルぺイメントが「公共的社会インフラ」の一部になりうる可能性がある。 シンガポールというと日本人は大型ショッピングセンターでの買い物をイメージしがちだが、現地の人々が利用する一般的な店舗やレストランではまだ現金で買い物、支払いをするところが多い(図1)。今後はユーザの店舗での利便性、使いやすいインターフェース、対応する端末、セキュリティなどを解決すれば人口規模からみても急速に拡大するだろう。一方で上述のように通信事業者間でのサービスの差別化は難しくなる。通信事業者がどのような戦略でNFCを活用したモバイルペイメントに取り組んでくるか注目していきたい。
(図1) 一般的なシンガポールのショッピングモール(左)と
町のレストラン(左) NFCモバイルペイメント導入の各国でのパターンNFCモバイルペイメントを導入するパターンとして、主に以下の5パターンがある(図2)。それぞれに考えられる主な特徴、メリット・デメリットを列挙してみたい。
(図2) NFCモバイルペイメント提供のパターン
(筆者作成) 画像をクリックすると拡大して表示します。 どのパターンがビジネスとして成功し、どのパターンが危険かは、各国の市場環境や関係するプレーヤーによって異なるので一概には言えない。
例として、パターン2の日本におけるNTTドコモがイニシアティブを取って、関連企業を巻き込むケースを考察してみたい。 2005年2月にはJR東日本とともに「モバイルSuica」の導入に向けた推進を発表した。NTTドコモはモバイルペイメントのインフラ普及を優先させるため、自社ユーザのみが利用できる「囲い込み戦略」を行わず他社にもシステムや商標権をライセンスし、KDDI、ソフトバンク等の端末でも「おサイフケータイ」として利用できるプラットフォームを提供した。 シンガポール携帯電話事情 最後に、シンガポールの携帯電話事情についてみてみたい。 1.SingTel 2.StarHub 3.M1 StarhubがNFCモバイルペイメントのトライアルを開始してから約1年が経過する。シンガポール国民の期待に応えられるようなモバイルペイメント導入に向けた政府当局IDAとコンソーシアム7社の動向に今後も注目していきたい。 【参考動画:CommunicAsia 2011(シンガポール)でのIDAによるNFCデモ】 (参考) |
▲このページのトップへ
|
InfoComニューズレター |
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。 InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。 |