ホーム > Global Perspective 2014 >
Global Perspective 2014
2014年9月22日掲載

Googleは新興国スマートフォン市場を制することができるのか?:普及のカギは端末メーカーと価格競争

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
副主任研究員 佐藤 仁

2014年9月15日、Googleがインドで「Android One」を搭載したスマートフォンがインドで販売されることを発表した(※1)。

「Android One」は、2014年6月に行われたイベント「Google I/O 2014」で構想が発表された。新興国を中心にまだスマートフォンを持っていない「次の50億人(next five billion)」向けに、低価格なスマートフォンを提供することを目指している。

インドの有名地場メーカーから販売される「Android One」スマホ

今回の「Android One」を搭載した端末はインドの地場メーカーMicromax、Karbonn、Spiceから販売される。日本では馴染みのないメーカーだろうが、現地では積極的なキャンペーンも行っており、Micromax、Karbonnはインドでの携帯電話出荷の上位にランクインする非常に有名なメーカーである。端末ではAndroid4.4を搭載し、1.3GHzクアッドコア、1GBのRAM、4GBストレージ、4.5インチFWVGA(480x854)ディスプレイ、バッテリーは1700mAh。ハードウェアの共通スペックでリファレンスモデルを用いることでコストを抑えている。そのため高機能な端末には向いていない。メーカー側が独自に搭載したい機能などに制限はあるが、それでも「価格が安い」方が重要という新興国市場向けである。

「Android One」端末写真

(出典:Google)

これらの端末は9月15日からインドにて6,399インドルピー(約105ドル)で販売開始されている。また、インド最大手の通信事業者Airtelと提携して、利用者はAirtelのSIMを購入し「Android One」を利用すると、ソフトウェアアップデート利用限定のパケット使用料6ヵ月間無料、特定のGoogle Play上のアプリのダウンロードのパケット無料(月200MBまで)がついている。

(表1)インド市場における携帯電話出荷台数のうち、
フィーチャーフォンとスマートフォンの比率(赤がスマートフォン)

(表1)インド市場における携帯電話出荷台数のうち、フィーチャーフォンとスマートフォンの比率(赤がスマートフォン)

(出典:IDCインド)

未開拓の新興国スマートフォン市場を取りたいGoogleとそのライバル

Googleの「Android One」スマートフォンは2014年末までにインドネシア、フィリピン、バングラディッシュ、ネパール、パキスタン、スリランカで販売が予定されており、Googleとしてはインド以外の新興国市場も視野に入っている。新興国でも国によってスマートフォンの普及率は異なるが、インドでは携帯電話出荷のうち、スマートフォンが占める割合はまだ30%程度である。
その背景は、まだフィーチャーフォンの方が遥かに安いからである。スマートフォンは中古でも50ドル程度から、新品でも100ドルくらいする。これはインドだけでなく新興国市場の特徴である。

フィーチャーフォンではGoogleにとってはほとんどビジネス(収益)にならない。GoogleはAndroidをスマートフォンのOSとして無償でメーカーに提供して、Android端末を普及させることで、そのスマートフォンを利用している利用者がGoogle検索、YouTubeでの動画閲覧などGoogleのサービスを利用してもらうことによって、そこから得られる情報を元に広告を配信していくビジネスモデルである。Googleにとって新興国のユーザー基盤は重要な収入源である。

Googleは今までも新興国市場向けにはGmailやGoogle検索が無料で、リンク先から有料になるサービス「Free Zone」(下記参考)や、ネットワーク普及率が低い地域において安価に構築する手段として気球を活用する「Project Loon」などに取り組んできた。

一方で、「Firefox OS」を提供しているMozillaは2014年2月に「25ドル」のスマートフォンを出していくことを明らかにしている。そしてインドでは2014年8月にはSpiceから「Firefox OS」を搭載したスマートフォン「Spice Fire One Mi-FX 1」を2,299ルピー(約38ドル)で販売開始し、9月には地場メーカーIntex Technologiesから「Cloud Fx」が1,999ルピー(約33ドル)で販売開始された。30ドル台は、まさに新品のフィーチャーフォンの最安値の価格帯である。スマートフォンで30ドルだから機能は見劣りするが、それでも最低限の機能は備えている。現在、端末が安価という理由からフィーチャーフォンでなく、スマートフォンを購入している新興国のユーザーにとっては、スマートフォンの中でも、100ドルよりも30ドルの安い方を選択する可能性が高い。今回の「Android One」は105ドルであるから、インドのような新興国市場においては、まだ「安い端末」とは言えない。もっと安くないと購入できない層がたくさんいる。そして彼らにとって、Googleのサービスやアプリケーションが利用できることは「二の次」である。まず安く購入できることがプライオリティである。

普及のカギはスマートフォン開発をしてくれる端末メーカーと価格競争

インドでは地場のメーカーが台頭しており、競争が激しい市場なので「Android One」を搭載して端末開発をするメーカーが多い。実際に、上記の3社以外にもAcer、アルカテル、ASUS、HTC、Intex、Lava、Lenovo、パナソニック、Xolo、そしてクアルコムがパートナーとして名乗りを上げている。インド市場の競争は激しく80以上のメーカーが携帯電話、スマートフォンを提供している。実際にSpiceやIntexなど「Firefox OS」のスマートフォンも、「Android One」のスマートフォンも開発するメーカーは多い。また新興国には地場メーカーがたくさん存在している。

廉価版スマートフォンは粗利率が低く「薄利多売」であることから、メーカーとしてはどちらかだけに絞るのではなく、両方とも開発することが想定される。多くの新興国においてはスマートフォン購入時のプライオリティは「価格」である。機能やデザインにそれ程の大差がないのであれば、少しでも安い端末が選ばれる。メーカーとしては安い端末では利益は薄いが、それでも出荷台数は多いことから製造を行う。新興国のメーカーは、「利益率は高いが、出荷台数が少ないハイエンド端末」はリスクが高いので製造を嫌う。新興国のメーカーにとっては、そのようなハイエンド端末は「売れるか、売れないかわからない」から「賭け」なのである。フラグシップモデルとして数台を用意するだけで十分である。

現在は「Firefox OS」の端末の方が安いが、今後は「Android One」スマートフォンも低価格化が進むだろう。新興国のスマートフォン市場ではこれから「端末の価格競争」になり、資金力の強いメーカーのみが新興国でも生き残れるだろう。そしてOSを普及させたい両陣営にとっては、どこのメーカーがどれだけの端末を出荷してくるかにかかっている。そして、どこかの時点でメーカーは売れ筋を見極めて「Android One」か「Firefox OS」のどちらかに集中していくだろう。

先進国においてはスマートフォンのOSはAndroidとiOSが95%以上で、Androidが85%以上を占めている。つまりGoogleの圧勝である。
新興国のスマートフォン市場は、すでにAndroidのスマートフォンも普及してきているが、本格的な競争はこれから競争が始まる。

(参考)

【参考動画】
「Android One」

*本情報は2014年9月16日時点のものである。

※1 Google(2014) 15 Seop 2014, “For the next five billion: Android One”
http://googleblog.blogspot.jp/2014 /09/for-next-five-billion-android-one.html

このエントリーをはてなブックマークに追加
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。