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情報通信 ニュースの正鵠
2010年8月10日掲載

「五感通信」が実現する30年後の近未来社会

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 今から10年ほど前のこと、総務省は「五感情報通信技術に関する調査研究会」を立ち上げ、情報通信の新たな可能性を模索していた。

 従来の情報通信は、電話やラジオのように聴覚に訴えるもの、そして、テレビやインターネットのように視覚(+聴覚)に訴えるものに限定されてきた。したがって、その他の五感、「触覚」、「嗅覚」、「味覚」を利用した情報通信技術の開発を、世界に先駆けて進めれば、国際競争力の確保につながるというのが同研究会の指摘だ。

 研究会の結果をまとめた報告書には、以下のような技術開発ロードマップが示されている。

図表1 五感情報通信技術の技術開発ロードマップ
図表1 五感情報通信技術の技術開発ロードマップ
出典:「五感情報通信技術に関する調査研究会」 報告書 概要

クリックで画像を拡大します。

 これによれば、今年、2010年は「五感通信のプロトタイプの実現」時期になっているのだが、まさに先週、その先駆けになりそうな発表が行われた。

 それは慶応大学の「触覚を伝える」手術支援用ロボットである。

(慶応大学の報道発表へのリンク)
http://www.st.keio.ac.jp/news/20100805_001.html

 手術支援ロボットはすでに、内視鏡手術などに使われているが、患部に触れた感触を医師に伝える機能を追加することによって、より繊細な治療を可能にするという。

 「触覚を伝える」と言ってもピンと来ない方も多いかもしれないが、情報通信技術の進歩は、モノの手触りを伝えることを可能にしつつある。

 ここ1〜2年、ICT関連のイベントでは、触覚通信に関連する展示が目立ち始めていた。今回手術ロボットを発表した慶応大学の研究についても、昨年7月のワイヤレス・ジャパンのドコモブースに「触力覚メディア」という名前で展示されていたので、体感された方もいるのではないだろうか?

写真1 2009年7月のワイヤレスジャパン・ドコモブース
写真1 2009年7月のワイヤレスジャパン・ドコモブース

 私も実際に試してみたが、はなれた場所にあるボールの弾力性やガラス瓶の硬質な感触が確かに伝わってきた。

 この技術が今後さらに進歩して、触覚を正確に伝えることができるようになれば、通信回線との組み合わせによって、さまざまな可能性が広がる。

 製品の肌ざわりまで伝える「バーチャル・リアリティ・オンライン・ショッピング」、にぎり名人による「バーチャル出張にぎり鮨」、世界的な名医による「遠隔手術」、といった具合だ。

 前述のロードマップによれば、五感コミュニケーションが本格的に実現するのは、2030年。あと20年もあれば、十分に実現可能な気がしてくる。

 一方、嗅覚や味覚はどうだろうか?

 報告書では、触覚通信とくらべて、嗅覚通信や味覚通信は、より実現が難しいと指摘されている。例えば、匂いの分子種は40万種以上もあり、仮に、匂いを正確にセンシング出来たとしても、通信先で、同じ匂いを再現することは極めて困難である。

 しかし、ロードマップには、2040年頃、「脳への直接アクセスによる五感コミュニケーションの実現」と記されている。脳の研究が進み、嗅覚や味覚の仕組みが詳細に解明されれば、匂いや味そのものを再現しなくても、脳にその刺激を直接伝えるという選択肢が生じるというわけだ。

 今から30年後。触覚、嗅覚、味覚を含めた、フル五感通信が実現したとすると、人々の生活は、現代とはかなり異なったものになる可能性がある。


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