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情報通信 ニュースの正鵠
2011年1月20日掲載

「内向き」というより「冷静」なのが最近の若者

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 米国への留学者数の推移などをとらえて「最近の若者は内向きだ」という論調が、昨年頃から目立つようになってきた。

 私は数年前から文教大学などで非常勤講師を務めているのだが、その経験からいうと、今の大学生は「冷静なので、その結果、行動が内向きに見えている」のだと思う。

 大学で私が担当しているのは「情報社会論」。情報通信の発達が社会にどのような影響を与えるのかについて考えるというのが講義のテーマである。その授業の中で、最新の製品やサービスを時々紹介するのだが、そうするとたいてい「新製品にはしゃぐ私と、それを冷静に見つめる学生たち」という構図になってしまう。

 例えば、昨年iPadが発売された時、発売日に入手した私は翌週の授業に持って行って披露した。「みんなうらやましがるかなあ」と思っていたら、学生たちの反応は淡々としたもの。なかには「先生うれしそうですね」と冷やかすものまでいる。

 学生のひとりに「君は欲しくないの?」と聞いたら、「いい製品だとは思いますけど、買うかどうかは電子書籍の動向を見極めてからですね」ときた。

(注)発売直後から多くの電子書籍が購入可能となったアメリカとは違い、日本では出版業界の反発などから、先行きが不透明であった。

 3Dテレビの時も同じ。「技術が進歩すると、いずれすべてのテレビ番組が3Dになるかもしれない」という私に対し、「ニュース番組とかを3Dにする必要性を感じません」とか「片方の目が不自由な人もいるから2Dも残すべきだと思います」など、良識的な意見が相次いだ。

 「新しいモノや面白そうなモノにすぐに飛びつく無邪気さ」や「あとさき考えない無鉄砲さ」は、「若者の特権」と言うよりは、経済成長が続き、将来が楽観視できる時代環境が育む精神性なのではないだろうか。

 そう考えると、海外留学者数が減少しているとしても驚きではない。

 私は1989年に大学を卒業したいわゆる「バブル世代」なのだが、その頃はまだ、アメリカやヨーロッパに対する憧れがあったし、「海外留学で語学を身につけてグローバルに活躍したい」という曖昧な希望を多くの学生が持っていた。

 しかし最近は状況がかなり違う。アメリカやヨーロッパ諸国は憧れの地というよりは、日本同様に課題を抱える先進国の一つでしかないし、1〜2年留学したからといってみんなが語学堪能になるわけではないこともわかっている。また、企業が評価するような一流大学への留学は容易ではなく、海外生活で身につけた自己主張の強さが伝統的な日本企業ではむしろ嫌われる可能性があることも学生は承知している。ましてや「まだ働きたくないからとりあえず海外留学でもしておこう」という、いわゆる「モラトリアム留学」をしようものなら、帰国後の就職活動で苦労することは目に見えている。

 学生たちにとって、現在の環境の中で「海外留学を目指さない」というのは、「内向き」というよりは「冷静な判断」の結果なのだと思う。

 最近の若者は、とても周囲に気をつかい、必要以上に自己主張しない傾向があるので、おとなしく見えるのは事実だが、「おとなしく見えること」と「行動力がないこと」はイコールではない。仮に、多くの企業において「留学経験がキャリアアップに直結する」ようになったり、留学経験を活かして成功する人達が増えてくれば、賢明な学生たちは海外留学を目指すであろう。

 若者たちの行動が「内向き」になっているのだとすれば、それは「内向きな行動をとっておいた方が安全」という社会の構造を反映している側面があるのではないだろうか。


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