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情報通信 ニュースの正鵠
2011年8月16日掲載

“Yes, we can !”が“Hey, we might”へ
〜オバマ大統領再選の切り札は映画?〜

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 8月6日付けのニューヨークタイムズ・オンライン版(NYTimes.com)に掲載されている、Maureen Dowdさんのコラム“ダウングレード・ブルース(Downgrade Blues)”が面白い。

 タイトルからも予想できる通り、同コラムは、米国債信用格付け引き下げの話から始まるのだが、すぐに、オバマ大統領の不甲斐なさに対する嘆きに変わる。

 その中に以下のような一文がある。「“Yes, we can !”が“Hey, we might”へと変わってしまった」

 言うまでもなく“Yes, we can!”はオバマ大統領が2008年の選挙戦において用いたスローガン。当初はあまり注目されていなかった同氏が、選挙戦のなかで支持層を徐々に拡大していった様子を記憶している人も多いだろう。「Yes, we can !(我々には出来るんだ!)」というスローガンは、サブプライムローン問題や泥沼化するテロとの戦いなど、さまざまな困難な課題を抱え、自信喪失気味のアメリカ国民に訴えかけるキラー・メッセージとなった。

 それが今や“Hey, we might”に変わってしまったというのだ。ニュアンス重視で日本語に訳すと「ねえ、僕達出来るのかなあ?」といったところだろうか。“Yes, we can !”のような力強さは微塵も感じられない。

 国債の格付け引き下げについては、2010年の中間選挙で躍進した、いわゆる“ティーパーティー系議員※”を批判する声もあるが、「“Yes, we can !”が“Hey, we might”へと変わってしまった」というフレーズは、アメリカ国民のオバマ大統領に対する期待感の変化を、うまく表現していると思う。

 2008年11月にオバマ氏が大統領選挙に勝利した時、多くのアメリカ国民は、この新しいリーダーが、アメリカが直面している難しい問題に立ち向かうのに相応しいと考えた。しかし今では様相が随分変わってしまった。就任当初は70%を超えていた支持率も、40%前後に低迷している。今のままだと来年の大統領選における苦戦は必至だ。

 オバマ氏といえば、「中毒」と揶揄されるほどのケータイ好きであること、選挙戦においてネットやケータイを上手に活用したキャンペーンで莫大な個人献金を集めたこと、医療制度改革の一環として「電子カルテ化の推進」を打ち出したことなどがよく知られている。そのため、オバマ大統領の就任にともない、政府による情報通信の活用が大きく進むのではないかと期待が寄せられていた。

 実際、いくつか進展もある。オバマ政権発足後のアメリカ政府は、さまざまなウェブ・ツールを活用して、情報発信を行ったり、国民の意見を集める取り組みに積極的な姿勢を示している。2010年3月にはブロードバンド展開に関する中長期プラン「全米ブロードバンド・プラン」も公表した。

しかし、政権が変わると政策も一変するのがアメリカ。来年の大統領選で共和党候補が勝利すると、これらの取り組みも尻すぼみになっていく可能性がある。

 ちなみに、冒頭に紹介したコラムでは、ホワイトハウスがキャスリン・ビグロー監督の映画に期待をかけていることが指摘されている。「ハート・ロッカー」でアカデミー賞を受賞した同監督は現在、ウサマ・ビンラディン氏殺害をテーマにした映画を制作中。公開予定日の2012年10月12日は、大統領選の直前である。苦戦が予想されるオバマ陣営にとって、絶好のタイミングで追い風になるのではないかというわけだ。(ちなみに、今年の5月にウサマ・ビンラディン氏殺害を発表した際に、大統領の支持率は一時的に6割近くまで上昇した)。
 
 ネットを活用することで2008年の大統領選を闘い抜いたオバマ陣営。今回は、「映画の力を活用して再選」ということになるのであろうか?

※草の根保守運動「ティーパーティー」の支持を受けた議員のこと。2010年の中間選挙で共和党躍進の原動力となった。同選挙の結果、下院で少数政党に転落した民主党は、その後の政権運営で保守派への妥協を余儀なくされている。今回の国債格付け引き下げについても、そうした保守派の抵抗に原因があったとする意見もある。例えば、民主党のジョンケリー上院議員等が「これはティーパーティ・ダウングレード」だと発言している。


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