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情報通信 ニュースの正鵠
2011年8月26日掲載

アップル・ジョブズCEO引退のインパクト

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 8月24日、アップルは、スティーブ・ジョブズ氏がCEOの座から退くことを発表した。同氏は会長職に就き、後任のCEOには現COOのティム・クック氏が就任する。

 スマートフォン、タブレット、音楽プレイヤーにパソコン。さまざまな製品分野で大きなシェアを持つアップルのトップが引退するとあって、世界中のメディアが、その影響を推し量ろうとしている。

 やはり多いのは、カリスマ経営者退任後のリーダーシップを不安視する声。ジョブズ氏といえば、経営危機に陥っていたアップルを復活させ、世界一のICT企業にまで成長させた、いわば「奇跡の経営者」。誰が後を継ぐとしても、現時点で見劣りするのは致し方ないところ。

 一方で、あまり大きな影響はないのではないかと指摘するアナリストもいる。

 「iPhone、iPadの急成長に加え、パソコンのMacまで売上を伸ばしているアップルの製品ポートフォリオは盤石であり、ジョブズCEOが退任してもその勢いは止まらないだろう」とか、「後任のクック氏は、健康不安を抱えるジョブズ氏の代わりに、これまでも実質的なCEOを務めており、リーダーシップに不安はない」という意見である。

 しかし、「誰がCEOを務めるのか」ということはもちろん大事だが、「ジョブズ氏が今後、どの程度業務にコミットすることが可能か」ということの方が、むしろ重要かもしれない。

 アップルにおけるジョブズ氏は、いわゆる「経営者」としての役割以外に、2つの大きなミッションを担っていた。

 一つ目は、実質的な製品のチーフ・デザイナーとしての役割。

 「自分でバッテリーを交換できないのは不便」、「外部接続のインタフェースが貧弱」、「メモリーをもっと増やして欲しい」、など、アップル製品に対するユーザの不満はいろいろある。しかし、アップルがそうしたユーザの声を製品に反映させることはほとんどない。個々の要望を積み上げていっても、魅力的な製品にならないと考えているからだ。

 では、何を基準にモノづくりをしているかというと、自分たちの「直感」である。そしてその直感の最終判断はジョブズ氏が行う。2007年に発売して、その後のアップルの急成長を支えたiPhoneも、数度にわたるジョブズ氏の「ダメ出し」を経て販売されたといわれている。

 もう一つは、製品を発表する際のプレゼンターとしての役割。

 アップルの製品発表が毎回メディアで大きく取り上げられるのは、ジョブズ氏の「魔法のような」プレゼンテーションが、製品の魅力を最大限に伝えることに成功してきたからだ。アップル製品が、その完成度の高さで人気を博しているのは事実だが、それらを爆発的なヒットにつなげる上で、ジョブズ氏のプレゼンテーションが果たしてきた役割は大きい。

 Macintoshでパソコンにグラフィカル・ユーザ・インタフェースを導入し、iPodで音楽流通の仕組みを変え、iPhoneでケータイのビジネス・モデルを変貌させ、iPadで家庭用情報端末の新スタンダードを示したアップル。好き・嫌いは別として、現代人が満喫しているデジタル・ライフのあり方に、最も大きな影響を与えた会社の一つであることに、異論を唱える人は少ないであろう。

 そのアップルで、カリスマ経営者と、実質的な「チーフ・デザイナー」、そしてプレゼン上手な「トップ・セールスマン」が、同時に一線を退くとしたら、その影響を過小評価すべきではない。


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