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2002年8月掲載 |
電子投票のアウトライン
今回実施された電子投票について、新聞やニュースなどでその概要は周知の読者も多いと思う。しかし、背景を含め、その全体像は必ずしも整理されて伝えられていないように感じられる。 |
時期 | 内容 |
1999年7月 | 総務省(旧自治省)「電子機器利用による選挙システム研究会」設置 |
2000年8月 | 「電子機器利用による選挙システム研究会」中間報告 |
2000年12月 | 「地域IT推進のための自治省アクション・プラン」に「電子機器利用による選挙システムの検討」が盛り込まれる |
2001年6月 | 「e-Japan2002プログラム」に「地方選挙における電子投票」が盛り込まれる |
2001年12月 | 「地方公共団体の議会の議員及び長の選挙に係る電磁的記録式投票機を用いて行う投票方法等の特例に関する法律」(電磁記録投票法)公布 |
2002年2月 | 「電子機器利用による選挙システム研究会」報告 |
2002年2月 | 「地方公共団体の議会の議員及び長の選挙に係る電磁的記録式投票機を用いて行う投票方法等の特例に関する法律」施行 |
2002年6月 | 岡山県新見市の市議会議員および市長選挙においてわが国初の電子投票が実施される |
上記の電磁記録投票法で可能となった電子投票の特徴は、要約していえば、地方選挙を対象とし、投票所に投票機を設置して行うものである、という点である。
(1)形態
電子投票とは、投票情報を電子的に記録する形態の投票を言う。ただ、その形態にはさまざまなものが考えられる。国では電子投票を次の3つの段階で捉えている。
電子投票の3つの段階
出所:「電子機器利用による選挙システム研究会中間報告書」(総務省(旧自治省))をもとに作成
電子投票というと、他の電子政府・電子自治体の取り組みがそうであるように、当初からインターネットを活用するもの(第3段階)と思われがちであるが、今回導入された電子投票は、投票所に電磁的記録式投票機を設置して行う第1段階のものである。
利便性を考えれば、インターネットで投票できることを望む声は強いだろう。しかし、そのためにはクリアすべき課題が多くあり、諸外国でも第1段階のものは既に導入が進められているが、インターネットを利用したものは、試行的なものを除き、正式な導入は行われていない。たとえば、DDos(Distributed Denial of Service)攻撃のおそれ、意思に反した投票を強要される懸念があるなどの点が課題となる。特に後者は技術的な解決のむずかしい根深い問題である(これらの点は次回以降の記事で詳しく触れる)。
(2)対象
今回導入された電子投票は、地方公共団体の議会の議員または長の選挙が対象となる。つまり地方議会議員選挙および、知事、市町村長選挙である。いきなり全国規模の選挙になる国政選挙に導入することはリスクを伴うため、まず地方選挙から導入するという考えである。なお、国政選挙に関しては、過去に記号式投票が廃止になっている。背景には議員の間で自書式投票にこだわる意見が根強いという話も聞かれ、今後国政選挙導入が実現するかどうかが注目される。
また、対象となる投票も投票日当日の投票所における通常の投票だけを対象としている。不在者投票、点字投票、郵便投票、仮投票などの特殊投票は対象外となっている。このうち、不在者投票は特に対象に加えることが望まれるものである。現行の公職選挙法上は、票として認められるのは選挙日当日に選挙権がある選挙人によるものに限られる。電子投票による不在者投票については、「投票の秘密」を守りながらその票の有効性を確認することがむずかしい、と判断されたため見送られたものである(この点は次回以降の記事で詳しく触れる)。
今回可能となった電子投票は、以下のような手順で行われる。本人確認は従来と同様、ハガキと選挙人名簿との照合により行い、投票用紙のかわる投票カード(トークン)を渡す。この投票カードにより選挙権のある選挙について一人につき一票だけの投票が許される。投票はタッチパネルなどにより、選挙人の意思を確認しながら間違いのないよう行う。
なお、従来の自書式の場合には記名しない、いわゆる「白票」を投じることが可能であった。電子投票の場合には「投票しない」というボタンがあり、これにより事実上の「白票」を投じることができる(選挙制度上は正式には「白票」という概念は存在しない)。
実際の投開票の模様は、「新見市の電子投票レポート」に詳しく報告した。
電子投票の流れ
電子投票のメリットはどのような点にあるのだろうか。先に示した3つの段階別に整理した。
各段階別メリット整理表
第1段階 | 第2段階 | 第3段階 | |
選挙人サイドに対するメリット |
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選挙事務サイドに対するメリット |
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その他のメリット |
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第3段階と比較すれば、第1段階の電子投票のメリットは限られるかも知れない。しかし、開票の迅速化や疑問票・無効票の減少、バリアフリー対策が可能などの効果が期待できる。
特に、開票の迅速化の効果は非常に大きいといえる。我々も新見市の開票に立ち会ったが、そのパフォーマンスを見せつけられた(「新見市の電子投票レポート」参照)
経済的な観点については、第1段階や第2段階では、開票事務にかかる経費の削減効果(時間外手当など)が大きいが、反面、機器の導入や運用にかかるコストが大きいため効果は得にくい。実際、新見市の場合にはコストの増加分の方が多かった。
経済面も含め、(特に選挙人に対する)より一層大きなメリットを得るためには、第3段階の電子投票の実現が望まれる。
今まで見てきたように、今回導入された電子投票は、その形態や対象をとって見ても限定的なものといえる。電磁記録投票法自体が「当面の措置」と位置づけられているように、今回の電子投票は、あくまで仮の姿といえる。新見市をはじめ、今後導入を予定している団体(表参照)における導入と検証を踏まえ、今後、対象とする選挙の拡大や形態の見直しについて検討が進められるものと考えられる。
今回の電子投票はスタートラインに着いたばかりのものであり、今後の一層の発展が期待される。
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