国内のシステム開発動向
1. 自書式投票におけるシステム利用
自書式投票では、開票時に、いかに効率よく大量の投票用紙を集計するかが課題である。一方で、参院選の「非拘束名簿方式」のように、制度が煩雑化するにしたがって、開票作業にも手間がかかってしまう。少しでも開票業務の負担を軽減するために、様々な機器が開発されてきた。自書式投票では、投票用紙の分類や読取等の作業を効率的に行うためのシステムが導入された。
自書式投票におけるシステム化
機械化のポイント |
概要 |
投票用紙の集計 |
開票時に投票用紙の枚数を数える。 |
記号式投票時の分類、
読取集計 |
OCR光センサーにより読取る。最高裁判所の国民審査投票の認識・分類・計数や、記号式投票にも対応可能。 |
自書式投票用紙の分類、読取集計 |
投票用紙に書かれた候補者名や政党名など、投票者の手書き文字を読取り分類する。 |
また、上記のシステム化以外でも、投票者に一人一枚の投票用紙を発行する発券機や、投票者名簿の電子化、バーコードの導入等、様々なシーンで選挙事務効率の向上のため、システムが開発・導入されてきた。
このように、自書式投票の場合でも、システムの介在する余地はあるが、「紙」というアナログな手段を利用している以上、どうしても人の目で確認する作業が付きまとってしまう。
2. 電子投票制度確立前夜
現在の電磁的記録式投票制度が確立する前から、国内のベンダーは様々なアイディアを凝らし、電子投票システムの開発に臨んでいた。
電子投票協業組合((株)政治広報センター、(株)NTTデータ、(株)ビクターデータシステムズ、(株)セキュアテックで構成)では、「操作、運用が簡単で安全性が高いシステム」の構築を目指し、試作機の開発を行ってきた。現在のシステムが完成するまでに、数々の調査、研究、実証実験等を実施してきた。
富士通機電(現在の富士通フロンテック)は、マークシートの採用と自書式投票の投票箱にあたる部分を電子化した電子投票システムを開発した。投票者にマークシートで候補者を選択させ、候補者選択済みのマークシートをタッチパネルのついている投票箱に挿入する。投票内容の確認画面が画面上に現れ、投票者自らが画面にタッチすることにより、投票内容の確認を行う。この方式のメリットとしては、既存の自書式記号式投票に似ていることから、投票者にも大きな変化を強いることがない。
また、沖電気工業では、人の目の虹彩を利用した認証技術の採用により、本人性の確認を確保する、等のアイディアが検討された。
3. 各社の開発事例
その後、選挙人が直接機器を操作することによって投票行為を行う「直接投票方式」の方向が定まり、法制面での整備や技術基準(「電子投票システムに関する技術的条件及び解説」)を踏まえつつ、各社が開発を開始した。
現在、国内の各社が開発しているシステムは、上記のガイドラインに準拠するように開発されているため、投票から開票の流れにおいては概ね同一であると考えられるが、筐体の大きさのほか、システム構成、カードの利用、画面入力、候補者選択画面、カードの回収、バリアフリー対応等の機能の差異がある。
電子投票機の機能面での差別化には以下のようなポイントが考えられる。
電子投票機の機能比較
項目 |
電子投票機の機能面での比較ポイント |
システム構成 |
・スタンドアローン型
・クライアント/サーバ型 |
カードの利用 |
・ICカード利用
・磁気カード利用 |
画面入力 |
・タッチペンの利用
・指でパネルをタッチ
・テンキーの利用 |
候補者選択画面 |
・候補者名の一覧表示
・各候補者にあらかじめ番号を付し、番号による選択
・50音からの選択 |
カードの回収 |
・投票終了後、カードがはきだされ退出時に回収
・投票終了後、投票機がカードを回収 |
バリアフリー対応 |
・音声ガイダンス
・専用キーパッド |
現在、新見市で実用化された電子投票機以外でも、国内のベンダーがシステム開発を実施している。各社のシステムの特徴を下表に整理する。
国内の主な開発元とシステムの特徴
出典:各社のパンフレット等をもとに整理、順不同
開発元
「システム名称」 |
主な特徴 |
投票機の仕様、大きさ等 |
電子投票普及協業組合
「電子投票機VT25」 |
- 全国初の新見市市長、市議会選挙で使用された
- 入力装置にはタッチペンを利用
- 電磁的記録媒体にはコンパクトフラッシュを採用
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幅: |
350mm |
奥行: |
350mm |
高さ: |
前面部102mm
背面部180mm
(ポール部除く) |
重量: |
約8.8kg |
画面: |
15型 |
カード: |
ICカード |
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東芝
「地方自治体向け電子投票箱」 |
- 候補者の選択画面は、候補者数に応じて「候補者名の一覧表示」「番号による選択」「50音からの選択」等のインターフェイスが可能
- 親しみやすいデザイン
- 電磁的記録媒体は1,000人まで対応可能
- 投票カードは機械が吸いこみ回収
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幅: |
450mm |
奥行: |
600mm |
高さ: |
前面部100mm
背面部350mm
(ポール部除く) |
画面: |
15型 |
カード: |
磁気カード |
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NECシステムテクノロジー
「選挙管理システム」 |
- 不在者投票システムなど、他の選挙事務管理システムとの連携
- カードは非接触のICカードを採用
- 第2、第3段階も考慮した拡張性
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幅: |
450mm |
奥行: |
350mm |
高さ: |
150mm |
重量: |
約6kg |
画面: |
10.4型 |
カード: |
ICカード |
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ムサシ/富士通
「Tellac EM100 シリーズ」 |
- 富士通と選挙ビジネスのノウハウを持つ株式会社ムサシによる共同開発
- 投票所内はクライアント/サーバ方式、投票所のサーバにおいて、投票データを蓄積
- 電磁的記録媒体には専用メモリカートリッジを採用
- カードはIC、磁気カードに対応
- 操作オプションとして、ヘッドホン音声ガイド、テンキー操作卓、タッチペン等が利用可能
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NTT東日本
「(電子投票システム)」 |
- NTT独自の暗号技術を利用、選挙人のプライバシーを保護
- 開票作業は複数人の合意により実施
- 各投票所から集められた投票データをシャッフルする機能
- 電磁的記録媒体にはコンパクトフラッシュを採用
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幅: |
420mm |
奥行: |
440mm |
高さ: |
230mm |
重量: |
7kg |
画面: |
15型 |
カード: |
ICカード |
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また、日立製作所は、「二次元バーコード」を利用したシステムを開発した。候補者の一覧とそれに対応するバーコードの書かれた紙を記載台に置き、選挙人は印刷されているバーコードをスキャナで読み取る。このシステムは、候補者が大人数になった場合でも、画面をスクロールする等の手間がなく、一覧性が確保できる
4. システム開発の今後
システム開発における今後の大きな課題のひとつに、投票所から開票所の「オンライン 化」がある。オンライン化が実現すれば、投票終了から開票までの電磁的記録媒体の送致にかかる時間や手間がすべて省かれることから、開票時間のさらなる削減効果が期待できる。
総務省が想定している電子投票の第2段階は「オンライン化」を前提としたシステム であることから、新見市における電子選挙の総合的な評価を踏まえて、オンライン化に向けた検討にも拍車がかかることとなろう。
各ベンダーも、オンライン化を見越したシステム開発を開始している。「オンライン化で投票事務のさらなる効率化が実現する。ただし、オンライン化を実現するためには、法制度はもとより、通信手段の選定・確保、ネットワーク上の投票データのセキュリティ確保、保守運用手順等、技術面、運用面も併せて検討する必要がある。(NTT東日本法人営業本部 大竹課長)」
また、任意の投票所から投票を可能とした電子投票システムを実現させるためには、個人認証手順や投票の秘匿性の担保などが課題となり、今後更なる検討が必要となろう。
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社会公共システム研究グループ
研究員 松原 徳和 |