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電子投票のすべて
2002年9月掲載

海外事例について

 海外の電子投票の動向について、我が国に先駆けて実施している先進的な国々の事例をレポートする。
 米国の事例については、2000年大統領選挙におけるフロリダでの混乱は記憶に新しいところであるが、本稿では米国の投票方式に関する制度の背景や近年の動向についてまとめる。また、ベルギーでは磁気カードを利用したシステム、ブラジルでは政府の一元調達による大規模なシステムの導入が行われたが、これらの投票方法の具体をまとめる。

[米国]

  1. 2000年大統領選挙
  2. 米国で利用されている機器と制度

[ベルギー]

  1. 背景と目的
  2. 機器の特徴
  3. 投票の手順

[ブラジル]

  1. 背景と目的
  2. 機器の特徴
  3. 投票の手順


[米国]

 今から丁度2年前の第43代米国大統領選挙では、選挙結果が判明するまで1ヶ月以上もが費やされた。フロリダ州Palm Beach郡の選挙結果を巡り、世界中のメディアの目が向けられた。そこで用いられた方法は「パンチカード」方式と呼ばれる投票方式であった。パンチカードは、投票用紙の該当する候補者に対応する箇所に穴を空けるものであるが、穿孔くずが空けたはずの穴をふさいでしまうことがあり、人手による確認作業が必要となった。最終的には、全国の総得票数では上回っていたゴア候補の敗北宣言により、選挙戦は事実上の幕を閉じた。

 米国で利用されている機器にはいくつかのタイプがある。

米国での選挙の投票手段
投票手段 特徴
Paper ballot いわゆる自署式の投票形式。
Mechanical lever machine ボードに候補者名、政党名が印刷されており、それぞれの欄に設けられた小レバーを、選挙人が選択して倒す。全ての選挙についての選択が終了したら、当該選挙人の投票を確定するための大レバーを倒す。それにより、各候補者の得票数が加算される。
Punch cards カード(投票用紙)に記された各候補者に対応する穴(パンチ)を開けることにより、候補者を選択する。
Mark sense カード(投票用紙)に記された各候補者に対応する欄を選択して塗りつぶすことにより、候補者を選択する。
Direct recording electronic ボタンやタッチパネルに表示された各候補者に対して、投票者が直接機器を操作することにより、候補者を選択する。

 米国は連邦政府のもと、各州政府が独立した行政体を運営している。選挙運営についても同様であり、投票時に利用する方式は、各州、各郡が独自に方式を採用・決定してきた。一方で、技術革新が進み、投票システムも複雑化してくると、各州や地方選挙当局が機器を導入する際の採用条件や調達のための統一的な基準を策定する必要性が生じてきた。1990年1月には、コンピュータを利用した、パンチカード、マークシート、及び直接記録方式による投票方式による投票システムの標準化のガイドラインである「Voting System Standards(投票システムの標準化)」が、連邦選挙管理委員会(FEC)により策定された。また、2002年には動向の変化を踏まえて、この基準が見直され、通信回線の利用に関する条項や、導入時の検査基準等を盛り込んだ新しい基準が策定された。

Voting System Standards(投票システムの標準化)
2002年4月

概要
第1章 性能基準
第1節 イントロダクション
第2節 機能的な能力
第3節 ハードウェア
第4節 ソフトウェア
第5節 電気通信
第6節 セキュリティ
第7節 品質保証
第8節 コンフィグレーション管理
第9節 資格試験の概要>
付録A - 用語
付録B - ドキュメント
付録C - 利便性

第2章 検査基準
第1節 イントロダクション
第2節 技術的なデータ・パッケージ
第3節 機能性検査
第4節 ハードウェア検査
第5節 ソフトウェア検査
第6節 システム・インテグレーション検査
第7節 コンフィグレーション管理と品質保証検査
付録A - 資格検査計画
付録B - 資格検査報告書
付録C - 資格検査設計基準
原文は http://www.fec.gov/pages/vssfinal/vss.html を参照のこと。

 また、連邦政府は、フロリダでの票の数え直し等、2000年大統領選挙の一連の反省を踏まえて、「HELP AMERICA VOTE ACT OF 2001(米国投票促進法案)」という法律を成立させた。法律の主な内容は以下の通りである。

「HELP AMERICA VOTE ACT OF 2001」の主な内容
  • 2002年11月の選挙に間に合うように、パンチカードシステムの交換のために州や郡に対して、総額4億ドルの資金を投入
  • 選挙の手続等に関する情報交換のための委員会を立ち上げ
  • 州が有権者の正確なリストを構築し、維持するために22億5千万ドルの資金を投入
  • 「異なる選挙システムに対して『投票』の定義を明確にする」など、選挙システムのための最小限の基準策定


○投票システム導入の変化〜メリーランド州の事例
 具体的な導入事例として、メリーランド州の場合を見てみよう。2000年大統領選のときは直接投票方式を採用していた郡・市は Baltimore のみであったが、2002年の投票では、Allegany、Dorchester、Prince George's、Montgomeryの4つの郡・市で、新たに直接投票方式を採用する動きが見られている。


出典:メリーランド州ホームページより作成
http://www.elections.state.md.us/citizens/voting_systems/index.html

 このうちAllegany, Dorchester, Prince George's の3つの地域は、前回までの選挙ではは「AVM」と呼ばれる「レバー方式」の投票方式が利用されていた。「レバー方式」は古い方式であるが、現在では新規で導入されることはなく、更新時には電子的な方式に変更されてきている。レバー式の買い替えは、上記「HELP AMERICA VOTE ACT OF 2001」の対象にもなっている。

 また、同法を踏まえて、「パンチカード方式」が全廃されている。前回までの選挙では、Montgomery は90万人弱の人口を抱える地域であるが、パンチカードによる投票が行われてきた。これが直接投票方式に代わっている。また、不在者投票でパンチカードを採用していた地域も、すべて「マークシート方式」に変更されている。
なお、同州で採用されいている機器(AccuVote-TS)の具体は以下のサイトで確認することができる。

 このように、米国では、紆余曲折を経て、電子投票の利用が一般的になりつつあるものの、フロリダでは電子投票の導入にも拘わらず、先日行われた知事選に出馬する候補者を決める予備選において、係員の誤操作や運営のトラブル等から混乱が生じた、との報もある。


[ベルギー]

 ベルギー国民は選挙が義務となっている。1999年の上院選の時は9割を超える投票率であった。
 かつてベルギーにおいて利用されていた投票用紙は、模造紙大の投票用紙であるため開票にかなりの時間を費やしていた。また世間のコンピュータ化への流れや、欧州連合加盟国出身の非ベルギー国民に対する投票権の拡大による有権者数の増加などにより、コストや手間の削減への期待から、投票の電子化の必要性が高まった。

 ベルギーの電子投票は、タッチペンを利用している。また記録媒体としては、フロッピーディスクを利用しているが、バックアップとして投票者ひとりずつの投票内要を磁気カードに記録している。

ベルギーの電子投票概要
項目 概要
方式(名称) タッチペン方式
有権者規模(年) 7,343,466人(1999年)
利用実績 1994年から利用
利用範囲 1999年選挙時、325万人が利用
電子機器導入の決定主体 導入には同一小郡内(2〜3市町村で構成)の全議会での可決が必要
値段 投票装置一式 55,000BF (約18万円)
電子投票箱 65,000BF (約22万円)
投票情報の記録 フロッピーディスク、及び磁気カード
投票情報の担保 磁気カードによる保存
開票所への送致 フロッピーディスクの送致

以下に投票の流れを示す。

1)準備段階

  • 候補者情報の登録
    内務省が記憶装置を作成する。作成後、規定の期限内に当該事務所所長に、候補者情報等の入った記憶装置が与えられる。

2)投票時

  • 投票カードの交付
    選挙人は身分証明書を提示し、投票管理者用端末で磁気カードの初期化を実施する。投票所入場券と引き換えに磁気カードが配付される。同時に投票者数をカウントする。
  • 記載
    投票者が投票ブースに入り、磁気カードを投票用端末に挿入する。フランス語、オランダ語の選択画面が表示され、言語を選択する(ベルギーではフランス語、オランダ語が公用語である)。スクリーンの指示に従い、タッチペンにより候補者選択を行う。選挙人が投票した個々の内容は磁気カードに保存される。
  • 投票
    全ての投票について選択を完了した後、磁気カードが投票用端末から引き抜かれる。
  • 投票データの保存
    選挙人は電子投票箱に赴き、カードを投票所所長に返却する。投票所所長が電子投票箱に投票内容が保存された磁気カードを挿入する。磁気カードから、電子投票箱に投票内容が書きこまれる。カードは回収され、投票箱に保存される。

3)開票段階

  • 投票箱回収
    オリジナルのフロッピーディスクが開票所に収集される。
  • 投票集計
    集計システムにより集計が実施される。
  • 票の保管
    オリジナルのフロッピーディスクのコピーが作成される。また、バックアップとして磁気カードによる保管を行なう。磁気カードの入った投票箱は票の数え直しを行わない限り、そのまま市町村に保持される。記憶装置や磁気カードは、選挙の有効性が正式に認められるか、あるいは無効が決定されると、内務省の立会いのもと、抹消される。

[ブラジル]

ブラジルでは、1994年の選挙において、有権者の一人が投票所より投票用紙を持ち帰り、特定候補に「○」をつけ、次の有権者がその用紙を投票し、また投票用紙を持ち帰る連鎖方式の違反事件があった。脅迫や買収等への対策が緊急の課題となっていた。
こうした不正を排除するため、また有権者の政治参加の意欲を上げ、投票率をアップさせることを目的として、ブラジルでは電子投票の導入に踏み切った。

 ブラジルの電子投票は、テンキー方式の端末を利用している。また記録媒体としては、フロッピーディスクを利用しているが、バックアップとして投票者ひとりずつの投票内要をレシートのような紙片(ジャーナル)に打ち出し、記録している。

ブラジルの電子投票概要
項目 概要
方式(名称) テンキー方式(Urna Electronica)
有権者規模(年) 106,976,088人(1998年)
利用実績 1996年地方統一選挙から利用
利用範囲 1996年地方統一選時、57都市、3,300万人が利用
電子機器導入の決定主体 国(一括発注)
値段 1台につき、1,000米ドル程度
投票情報の記録 フロッピーディスク、紙片
投票情報の担保 紙片(ジャーナル)による保存
開票所への送致 最寄りの開票点検委員会へフロッピーディスクを直接送致、そこからオンラインで州都の地方選挙裁判所本部に送致

以下に投票の流れを示す。

1)投票段階

  • 投票用紙交付
    投票人が投票所係官に選挙民登録証、又は身分証明書を手渡しする。
  • 投票
    投票人が投票端末に赴く。入力端末(テンキー端末)の操作で候補者の選択を入力し投票を行う。
    まずは市長選 [PREFEITO] を実施する。入力端末モニターに市長候補者それぞれに付与された2桁の候補者番号を入力する。モニターには同候補者の写真、氏名、番号、所属党が表示される。正しければ緑色の確認ボタン [CONFIRMA] を押す。間違った番号を入力した場合には、訂正のボタン [CORRIGE] を押してやり直す。白票を希望する場合には、白いボタン [BRANCO] を押す。正しい投票が終わると、1回電子音が鳴り、市長投票は終了する。
    市会議員選 [VEREADOR] も同様の手順で続けて投票を実施する(市会議員の候補者番号は2桁の政党番号と3桁の候補者個人の番号、計5桁のコード番号である)。
    市長投票、市議会議員投票が終わると、モニターに「終了」が表示され、2回電子音が鳴り、投票は完了する。電子投票機からは、市長候補者名、市長の候補番号(2桁のコード番号)、市議会議員候補者名、市議会議員候補者の番号(5桁のコード番号)が紙片に打ち出され、投票内容は担保される。最後に、投票所係官から選挙民登録証(又は身分証明証)を返却してもらう。

ブラジル電子投票端末のイメージ

ブラジル電子投票端末のイメージ

  • 投票データの保存
    システム内に組みこまれたフロッピーディスクに保存。同時に、バックアップとして個々の票が紙に印刷され、端末の後部から排出され、保存される。

2)開票段階

  • 投票箱回収
    各入力端末から投票内容が保存されたフロッピーディスクを取り出す。フロッピーディスクは封筒に入れられ封をされ、開票点検委員会に運ばれる。
  • 投票集計
    開票点検委員会にて、フロッピーディスクからコンピュータに移され、そこからオンラインを介して各州の集計システムに送信される。
  • 票の保管
    データが破損した場合、紙に印刷された個票を読む。
社会公共システム研究グループ
研究員 松原 徳和
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