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ユーザーの求める電子マネー(3)

(1999.12)


[前回までの記事]
 ユーザーの求める電子マネー(1)
 ユーザーの求める電子マネー(2)

さらなる機能・サービス追加の要望


さらなる機能・サービス追加の要望
●「カード」としての電子マネーカード
 電子マネーカードを「カード」とみなした時、他のカードとの融合が考えられる。

・他のカードとの融合
 最近はさまざまなお店が手軽に会員証やポイントカードを発行するので、いつのまにか多くのカードがたまってしまっている。ここで、実際どのくらいのカード(紙製も含む)を持っているかを筆者の場合を例に調べてみた。
 確かに、これらのカードが全て統合されて多機能のカード1枚となれば持ち運びが楽で便利である。しかし、それぞれの使用頻度や重要度に差があるので、必要なカードだけを選択して1枚のカードに収容することができれば、より便利である。
(→未来の財布売り場にて)

表2:カードの種類と所持枚数(筆者の場合)

・非接触型ICカードとの融合
 現在、接触型ICカードと非接触型ICカードが開発されており、電子マネーとしてどちらが生き残るのか、またはどう棲み分けるのか、という議論がなされている。どちらの方式にも長所・短所(注1)があるので、どちらか一方とするのは難しいだろう。しかし、ユーザーとしては1枚のカードであらゆるところで何にでも使えるようになってほしい。相手によってカードを使い分けなければならないのは煩わしい。
 これはアイディアで技術的な裏付けはないが、接触型ICカードの電子マネーの残高表示機に非接触型への変換機能をつけられないものだろうか。つまり、基本は接触型ICカードでこれ単体でも使えるが、残高表示機へ挿入すると非接触ICカードとして使えるというものだ。もちろん、残高表示機のON/OFFスイッチにより、非接触機能もON/OFFとすることができる。これならば1枚のカードで両方に無理なく使えるのではないだろうか。
(注1:非接触ICカードをそのままポケットに入れておくと、カードリーダーを持ったスリによってポケットの外からカード内の情報が知らぬ間に盗まれてしまう(ピックポケット)という問題がある)

●「マネー」としての電子マネーカード
 電子マネーカードを「マネー」とみなした時、他の決済サービスとの融合が考えられる。

・他の決済サービスとの融合
 ものを買ったときの支払い以外にあらゆるのサービスを利用できることが望ましい。考えられる決済サービスとしては、下記のものが挙げられる。これらを融合し、全てにおいて使える電子マネーが望まれる。
  • 公衆電話
  • 高速道路
  • 携帯電話
  • 自動改札

・振りこみ手数料の節約
 現在、銀行で振りこみをすると手数料がかかる。例えば、ある銀行では最低でも105円(自行あて1万円未満)、最高で630円(他行あて電信扱い現金3万円以上)かかる。しかも、通常時間帯以外の利用であったり、他行のカードを使った場合、105円や210円がさらにかかる。これは何とかしたいところである。
 幸い電子マネーには、「転々流通」の機能を持っているものがある。電子マネーカードから他の電子マネーカードへ直接電子マネーを移すことができる機能である。このようなコストのかからないルートでお金の移動を実現できないものだろうか。このようなサービスとか代行ビジネスとかはないものだろうか。多分、現在では法的規制か何かに引っかかるとは思うが。

●「器」としての電子マネーカード
 電子マネーカードをお金などを入れる「器」とみなした時、さまざまな機能が考えられる。

・鍵つき電子財布
 従来、電子マネーは少額決済用と位置付けられてきたが、むしろ多額の現金を運ばなくてもすむという特徴もあるのではないか。つまり、現金輸送トランクの代わりになるのではないか。  例えば、リアルのお店で何十万円かの買い物をする時を考えると、
  • 貯金があるのでクレジットの必要はない
  • デビットのように人前で暗証番号を入力することはやりたくない
しかし、
  • 銀行で多額の現金をおろしてお店まで持って来るのも危険で不安
といった場合、「電子マネーという財布」に入れて持ち運べば便利で安全なのではないか。
 もちろん、この電子マネーは本人以外は使えないように鍵をかけられるようにしておく必要がある。それと同時に、面倒な手間をかけずに安全性を確保することが望ましい。例えば、残高表示機に挿入するだけで鍵かかかり(自動ロック)、取り出すときにだけパスワードを入力するようにすれば、現在のスーパーキャッシュの方式より簡便でありながら、安全性を確保できるだろう。
 また、将来的には指紋認証等でセキュリティを高めることも考えられる。この場合、預金口座よりお金を電子マネーへチャージする際にチャージ機で本人の指紋も登録し、暗号化して電子マネーのICチップに記録する。これによりこの電子マネーはロック(指紋認証ロック)され、お店で使うときは本人の指紋がなければこの電子マネーへチャージしたお金は使えないようにする、といったことも考えられる。
 なお、ひとつの電子マネーカードの上にロックのかかった領域(金額)とロックなしの領域(金額)の両方を作り、ロックを付けずにチャージした分は、同じ電子マネーカードにチャージされていてもそのまま使えるとすれば手軽でさらに便利である。

・音声読み上げ機能つき残高表示機(福祉分野への利用)
 目の不自由な人にとって、現金を数えるのは困難な作業である。電子マネーならば、その残高を残高表示機で読み上げるようにすることができるだろう。これにより、電子マネーは現金よりも便利なものとなるだろう。

・未来の財布売り場にて
 未来の財布売り場ではガマグチなど売っておらず、さまざまなデザインを施したICカード、つまり電子財布が売られている。それぞれ収容できる機能(決済機能に限らない)や数・容量が異なり、自由に選ぶことができる。最初からそのお店の会員カード機能とおまけのポイントが収容されているお買い得品もある。もちろん、多く収容できるものは高価であり、セキュリティもしっかりしたものになっている。最高機種の電子財布においては、メーカーがセキュリティの品質保証をしており、もし破られて被害が発生した場合にはメーカーが補償することになっている・・・ということになるのも間近ではないだろうか。

●「記憶装置」としての電子マネーカード
 電子マネーカードを「記憶装置」とみなした時、以下のような機能追加が考えられる。

・定期券の自動更新
 乗降駅、期間等の情報を記憶させており、期限が切れたら自動更新機で電子マネーを使ってボタンひとつで自動更新ができれば便利だろう。

・公衆電話でメール確認できるテレカとして
 外出先でメールを読みたいという要望は今後ますます増えるだろう。しかも、携帯電話やPHSのメールではなく、自分のPCで普段使っているメールを読みたいという要望はあるだろう。
 電子マネーカードで、IDもパスワードもプロバイダへの電話番号も全てICに記憶させ、公衆電話の液晶ディスプレイでメールを確認することができれば便利だろう。しかも、簡単な文章(「私はOK。あとは○○部長に承認を得るように。」等)もICに記憶させておき、返信できるようであればさらに便利だろう。

・株取引したときの内容が記録されるテレカとして
 トレーディングは1分1秒が勝負である。外出先でもトレーディングをしたいというニーズはこれからますます増えるだろう。しかし、公衆電話で売買の指示をすると取引の証拠がこちらに残らず、食い違いが発生する可能性がある。このようなトラブルを避けるために、電子マネーを使って公衆電話でトレーディングをすると、その売買指示がその電子マネーカードに記録させることができれば便利だろう。

・外出先の公衆電話で申し込みができるテレカとして
 電子マネーカードにはあらかじめ住所氏名連絡先などを記憶させておくことができるので、外出先の公衆電話など住所氏名を打ち込めない場合にも申込が可能ではないか。
 例えば、将来的にテレビで「インターネットオークションニュース」を放送するようになった時、それを外出先でたまたま見た場合でもそのオークションに参加することができるようになるだろう。

・家計簿
 購買履歴が電子マネーカード上に残り、後でパソコンで読み込んで家計簿とすることができると便利だろう。なお、この機能を追加する場合、現在のスーパーキャッシュのように購買履歴は10件だけとするのではなく、より多くの履歴を記録できるようにする必要がある。また、購買履歴はより詳細に記録でき、購入店舗、連絡先電話、お店のURLなども記録されることが望ましい。パソコン上でURLが表示されたところをクリックすると、そのお店のホームページにアクセスし最新情報を入手できたり、問い合わせができるようにすれば、お店にとってもメリットがあるだろう。
 さらに、予定額を設定しておいて、それをオーバーすると警告を発して、使いすぎをしないですむようにすれば、より便利である。

・製品保証書
 この購買の記録は製品保証書の役目も果たすこともできる。購入日時、購入店舗に加え、購入商品の製造番号も記録させればこれが証拠になり、正確に1年間の保証が受けられる。従来のように保証書をしまいなくしたため1年以内でも有償修理、とならずにすむだろう。

・電子チケット
 電子チケット自体は既に実現されているが、これからは単にインターネットでチケットを購入できるだけでなく、それ以上のメリットが望まれる。
 しかも、このような「趣味」の分野では、金銭的なメリットよりも他の人が手に入れられないものが手に入るという「差別化」によるメリットが適するのではないか。
 例えば、チケットをオンライン購入したときに「デジタル・キー」が送られ、電子マネーカードに記憶される。そしてこの「デジタル・キー」があれば、他では手に入らない写真データをダウンロードできたり、オンラインショップで一般販売の前に新譜を購入できるようにするということが考えられる。
 また、会場では電子チケットのお客と一般のお客とを差別化し、電子チケットのお客専用の列を設けて並ばずに入れるといった優遇措置を取ると良いだろう。さらに、そのカードを会場の入り口の端末に挿入すれば画面上に表示されて自分の席がすぐわかり、しかも座席にスポットライトが当たって入場音楽が鳴り響くサービスを提供すれば、他の人たちに対して「優越感」を味わうことができるので、利用のインセンティブになるのではないか。  このように考えると、電子チケットの方を値段を高くする、というビジネスモデルも成り立つかもしれない。

●レジ以外のところをもっと
 レジなどの小銭の準備も通信インフラも充分なところでの決済よりも、小銭の調達が難しく、かつデビットやクレジットができないオフラインの部分、つまりタクシー・バスなどの乗り物やデリバリ(配達)先、屋台・自販機などでの電子マネー決済の促進をもっと重点的に展開してはどうか。

●逆転の発想
 これまでは、口座(またはクレジット)があって、それに電子マネーカードがくっついていた。逆に、まず使いきり型の電子マネーカードを配布し(デリバリの際などにお得意様にプリペイドカードとして売ると良い)、後からそれに好きな口座なりクレジットなりを括り付けてチャージもできるようにするという普及のストーリーもあるのではないか。まず電子マネーの利便性を面倒な手続き無しに体験してもらい、その後で手続きをしてもらうのが良いのではないか。

●お店にとってのメリットはどうなんでしょう?
 余計なお世話かもしれないが、お店にとってのメリットはどうなんでしょう?現金のハンドリングコストとの損益分岐点、顧客囲い込みの効果は?

●もっと楽しく!
 電子マネーももっと遊びの要素を取り入れてほしい!
 パソコンでも、機能仕様一覧表を見て悦にいる人もいるかも知れないが、実際はスケルトンの5色という見栄えで多くの人に受け入れられているものもある。
 電子マネーも日常的に使われるものになるのであるならば、「親しみ」「楽しさ」「遊び感覚」がほしい。かわいいキャラクターとか作ってほしい。
 実験であっても「技術主導」に陥ることのなく、一般の人が日常的に使えるものを提供してほしい。

●「現金って、電子マネーが使えない場合の非常手段でしょ?」
 将来的にはこのように言えるようになってほしい。さらに、未来の経済学の教科書で現代の貨幣経済が「通信インフラの発達していなかった時代の原始的決済手段であり、本質的には物々交換にすぎないものであった。」と表現されるようになってほしい。
(マーケティング・EC研究グループ 藤生 崇則)
e-mail:fujiu@icr.co.jp

(入稿:1999.11)

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