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2011年1月14日掲載 |
ネットによる映像配信の隆盛を受けて、伝統的な意味での「テレビ」は消滅するであろうという指摘が、ここ数年、現実感をともなって語られるようになってきた。 ところで、このような状況をいまから20年以上も前に予言していた人物がいることをご存じだろうか。 その人の名はジョージ・ギルダー。レーガン大統領時代の経済政策「レーガノミックス」を支えたと言われる1981年の著書“"Wealth and Poverty”などで知られるエコノミストだが、1989年に著した“Microcosm: The Quantum Revolution In Economics And Technology”と、翌年の“Life After Television”において、テレビの消滅を予言した(注)。 同氏は両著作の中で、「テレビ局に集中していた知能が家庭内の安いパソコンに移動」し、「個人が映像信号を意のままに操作し、拡大、縮小、再生、録画、あるいは編集までできるようになるだろう」と予言した。 ギルダー氏の指摘はこうだ。コストの高い真空管と無線周波数を使った旧来のアナログテレビシステムは、必然的にトップダウン型にならざるを得なかった。しかし、トランジスタの発明と、集積回路(IC)技術の進歩は、1ドルの単価で真空管100万個に匹敵する能力を提供可能とした。また光ファイバを使ったデジタル伝送を利用すれば、膨大な量のデータを情報を損なうことなく伝送・記憶することもできるようになる。これらの技術進歩の結果、従来のようなトップダウン型のテレビシステムは魅力を失い、ユーザ側でさまざまな操作が可能な双方向メディアになると予想したのだ。同氏はそれを「テレコンピュータ」という言葉で表現した。 1989年〜1990年といえば、一般的にはまだ、インターネットがその存在すら知られていなかった時期である。その段階で、技術進歩による当然の帰結としてテレビの消滅を予想していたのだから慧眼というほかない。 ところで、今年のCES(Consumer Electronics Show)においては、サムスンやLG電子が「スマートテレビ」を提唱して、大きな注目を集めた(ICR研究員の眼「CESレポート2」参照)。 「スマートテレビ」という言葉には厳密な定義はないのだが、サムスンやLG電子が提供しようとしているサービスには以下のような機能が含まれる: 《スマートテレビが提供する機能》
ユーザの側にさまざまな選択肢を提供するスマートテレビは、ジョージ・ギルダーが予言した「テレコンピュータ」のような双方向性をテレビに与えるとともに、ホームネットワークのコントロール機能を付加することで、テレビをいまいちど家庭内電化製品の主役の座に押し上げようとするものである。いまやテレビ受像機の製品分野において世界のトップブランドとなったサムスン、LGにとってそれは、テレビ市場での競争力をテコにしてあらゆる家電を売り込もうとする企てでもある。 業界関係者の方ならよくご存じのように、「テレビをインターネットに接続する」という試みは目新しいものではないし、これまでの取り組みは、どちらかというと「失敗」と位置づけられるものが多い。しかし、高速ブロードバンドの普及、ネット上のコンテンツの充実、ユーザ側のネット・リテラシーの向上、テレビ以外のネット接続製品の増加などの背景を考えあわせると、過去のインターネットテレビとは異なり、今回の「スマートテレビ」がブレイクすることは十分あり得る。 レーガノミックスの功罪はさておき、テレビの将来像に関するジョージ・ギルダーの予言は、的中する可能性が高いと言えそうだ。 (注)紹介した各著作の邦訳は以下の通り: |
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