2.PHS
(1)PHSサービスいよいよ開始 −スタートは予想に反して不調
95年7月、首都圏及び北海道においてPHSの公衆サービスがスタートした。サービス前のキャンペーンでは「予約をしたお客様には、自宅の電話番号と同じ下4ケタがつけられます」といった、電気通信サービスでは他に例を見ない、電話番号をセールス手段としたプロモーションが見られた。
サービス開始前には「月額使用料3,000円、平日昼間の通話料3分間30〜50円」とも、「いや、その倍の料金を取っても、十分ユーザーはつく」ともいわれたPHSの料金であるが、結局のところ、「月額使用料2,700円、平日昼間の通話料3分間40円」と、妥当なところに落ち着いた。通話料について詳細に言えば、「(a)通話時間に応じた料金+(b)1通話ごとに課金される定額料金(10円)」といった2本建てになっている。この(b)の料金が、低収入な商売といわれるPHS事業にとって貴重な収入源となっているのであるが、反面、例えば「今から帰る」等の一言程度の通話では、かえって自動車・携帯電話の方が安くなってしまうという現象も生じている。
鳴り物入りでサービス開始されたPHSであるが、7月には事前予約分を併せて8.7万の新規加入を獲得したものの、8月には3万、9月には2.3万の新規加入しか得られなかった。10月には首都圏・北海道以外の地域でのサービス開始、及びアステルグループのサービス開始もあって22.3万の新規加入を記録したが、11月には12.1万、12月には13.4万、1月には9.8万と、同じ月の自動車・携帯電話の新規加入数に比べると1/4程度の数字しか達成できなかった。
PHSの不調の原因としては、以下のような原因が挙げられる。
- サービス・エリアが狭い。また、サービス・エリア内であっても通話できないスポットがかなりある。事業者によっては、開業時に用意したエリア・マップを大幅に作成し直したところもある。
- PHSから自動車・携帯電話、国際電話への通話ができない。
- 自動車・携帯電話事業者が、料金の値下げや地下街へのエリア展開を行ったため、PHSの優位性が薄れた。
一方で、PHSのプロモーションにつられて販売店を訪問した顧客が、店員に携帯電話とPHSとの違いを説明されて、携帯電話を購入するといった皮肉な現象が発生した。
(2)PHSの巻き返し−安売り重視か、サービス重視か
PHS事業者は、上記のようなPHSの欠点をカバーするため、96年に入ってから以下のような施策を取り始めた。
- [加入数獲得のための施策]
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NTTパーソナルグループは、96年2月1日に新規加入料及び通話料を値下げした。他の2グループは、現在のところこれに追随する動きはない。これによって、NTTパーソナルグループは、新規加入料や、「隣接区域内及び20kmまで」及び「30〜60kmまで」の通話に関して、他の2グループより優位に立っている。
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「自動車・携帯電話と異なり低収入の事業であるから、事業者が販売店に販促費(インセンティブ)を積み増して、販売店がそれを端末値下げに回すといった事象は起こらないだろう」というのが、PHSサービス開始前の予想であった。しかし、PHSの加入数が思ったように伸びないことから、DDIポケット電話グループでは96年に入ってから、販促費の積み増しに踏み切った(一説には1台2万円ともいわれる)。
さらに、DDIポケット電話グループでは販促費の性格を改め、プロモーションとして人員派遣やノボリ、チラシの配布を原則として実施せず、販促費をそのまま販売店に手渡して、自主的に使用できるようにした。
これにより、DDIポケット電話グループのPHSの安売りが開始され(安売りの要因としては、メーカーが売れない端末の処分を図ったこともある)、DDIポケット電話グループ総計で、2月には21.1万、3月には25.9万と、他の2グループを大きく引き離す新規加入を得た。とにかく加入数を得ることを重要とするのがDDIポケット電話グループの戦略であるが、これには賛否両論がある。
- [エリア拡大のための施策]
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PHSはもともと、固定電話に接続されたコードレス電話機を屋外に持って出ても使用できることをコンセプトに開発されたもので、屋内での使用はPHS公衆サービスによるのではなく、あくまで固定電話によることしか想定されていなかった。ところが、PHSの事業化に当たって、PHSサービスは固定電話の事業者とは別会社にて提供することになったため、PHS事業者の立場としては屋内でのPHS電話機による利用がいくら増えても、その通話料は固定電話事業者のもので、自社の収入増に結び付かないというジレンマがあった。
屋内でのPHS公衆サービスを可能にするため、PHS事業者は屋内用基地局(事業所用)及び屋内用アンテナ(家庭用)を開発した。
事業所用としては、NTT中央パーソナルが室内基地局(10mWの低出力で、オフィスフロアの場合半径100mをカバーする)を開発し、一定の条件(例:PHSを何十台か契約)のもとに、設置の公募を行っている。また、アステル東京も同様の基地局を開発中で、当初はアステルの株主各社に売り込んでいく方針である。
家庭用としては、NTTパーソナルグループが、家庭屋内用小型アンテナ「パルディオ・ホームアンテナ」を発売している。これは、窓際に設置して、PHS公衆サービスの電波を増幅して家庭内でも届くようにするためのものである。新しく電話を引こうとするユーザーにとっては、固定電話に比べて加入時必要費用が1/10程度で済むPHSは魅力となる。
- [つながらない場合の補完手段]
- 着信転送サービス及びボイスメール(留守番電話)サービス
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PHSのカバレッジは携帯電話と比べてまだまだであるし、設備投資の効率の面から、人口密集地を外れた場所のカバーは今後あまり期待できない。そのため、エリアから外れた場合の補完手段として、着信転送サービス及びボイスメール(留守番電話)サービス等が考えられる。アステル東京は、他の2社に先駆けて95年12月に留守番電話サービスと着信転送サービスを開始した。NTTパーソナルグループも、96年2月1日の料金値下げと同時に留守番電話サービスを開始。残るDDIポケット電話グループについては、導入の予定はあるものの、スケジュール的には未定である。
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NTT中央パーソナルは、3月から、PHSとポケットベルとの一体型端末「PXP」(ピーバイピー)を発売している。PHSが電波の届かない場所にいる場合、自動的に端末に内蔵されたポケットベルを呼び出す仕組みである。PHSの狭いカバレッジを、信頼性では実績のあるポケットベルでカバーすることを目的としている。料金面では、月額使用料はNTT中央パーソナルのPHSサービスとNTTドコモのポケットベルサービスの合算となっているが、契約時必要費用を単純な合算よりもの手数料等は、PHSとポケットベルを個別に申し込むより1,000円安い4,500円となる。
一方、アステルグループも、今春からテレメッセージ各社と提携して同種の一体型端末を発売する。
以上を見てみると、安売り戦略でとにかく加入者を獲得してしまおうとするDDIポケット電話グループの戦略と、サービス面で増収を図ろうとするNTTパーソナルグループ及びアステルグループの戦略の違いがはっきりする。95年度末のPHS累計加入数でみれば、NTTパーソナルグループ39万、DDIポケット電話グループ77.6万、アステルグループ34万、合計150.6万となり、加入数ではDDIポケット電話がトップに立っている。
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