人流ビッグデータを活用した都市計画策定支援― 住民の生活課題と来訪者対応が交差するエリアにおけるEBPMの実践 ―
2026年09月10日
株式会社情報通信総合研究所(以下、当社)は、首都圏の自治体より、人流ビッグデータを活用した都市計画・地域計画の策定支援業務を受託し、GPS人流データ・SNSデータ・住民アンケートを組み合わせた分析に基づく政策提言を実施いたしました。本稿では、本件の概要と支援内容をご紹介いたします。
案件概要
| 発注者 | 首都圏の自治体 |
| 業務分野 | 都市計画・地域計画の策定支援(まちづくり分野) |
| 当社の役割 | プロジェクト統括(業務設計、データ分析、報告書作成、政策提言) |
| 活用データ | GPS人流データ、SNSデータ、住民アンケート |
| 実施体制 | 当社(分析・提言)、NTTグループのパートナー企業(ビッグデータ提供) |
| 受託経緯 | 競争入札により受託 |
背景と課題
対象エリアは、駅周辺に、性格の大きく異なる2つの地区が共存する、全国的にも特異な地域です。一方は一戸建て中心の閑静な住宅街であり、生活に必要な施設の不足や、運転免許返納後の高齢者の日常生活への対応が課題となっていました。他方は、全国から来訪者が集まる大規模集客施設を擁する地区であり、周辺道路の混雑への対応と、来訪者に向けた地域の魅力創出が求められていました。
このように、住民の生活課題への対応と来訪者への対応という性質の異なる2つの政策課題を同一エリアで扱う必要があり、従来型の統計調査のみでは実態の把握に限界がありました。発注者は、客観的なデータに基づく政策立案(EBPM:Evidence-Based Policy Making)を志向し、ビッグデータを活用した実態把握と政策提言を求めていました。

支援内容
(1)データ特性を踏まえた分析設計
本件では、特性の異なる3種類のデータを課題に応じて使い分け、組み合わせる分析設計を行いました。GPS人流データは、数百万から数千万サンプル規模で人の移動・回遊を常時自動的に把握できる一方、行動の意図や感情の把握には適しません。SNSデータは、利用者の率直な感情や不満の把握に強みがある一方、統計的な代表性には限界があります。。住民アンケートは、設問設計により必要な項目を直接把握できる一方、回答者の記憶に依存します。こうした各データの長所と限界を整理したうえで、政策課題ごとに最適なデータの組み合わせを設計しました。

(2)複数データのクロス分析による課題の構造化
単一のデータでは把握できない実態を、データの掛け合わせにより明らかにしました。例えば、GPS人流データと住民アンケートの組み合わせでは、住宅街の住民の多くが直線距離で最も遠い大型商業施設まで買い物に出掛けている実態をGPSデータで把握するとともに、運転免許返納後の買い物時の交通手段が未定である住民が多いことをアンケートで確認しました。この2つの分析結果を重ねることで、高齢化を見据えた買い物支援策の優先度が高いことをデータで裏付けています。
また、住民アンケートとSNSデータの組み合わせでは、駅前で物産展等が開催された場合の立ち寄り意向が高いことをアンケートで確認する一方、SNS分析からは、駅利用者の投稿に疲労・混雑・営業時間に関する不満が多いことを把握しました。これを踏まえ、「疲労時・混雑時でも立ち寄りやすく、夜間も利用できる」という場所特有の条件を織り込んだ施策設計を提言しています。
(3)EBPMと官民協議に資する提言の作成
分析結果はSWOT分析等の手法により構造化し、エビデンスに基づく政策立案に活用できる形で報告書・提言として取りまとめました。あわせて、大規模集客施設を運営する民間企業との協議材料として、施設周辺の駐車場や道路の利用実態データを整理し、低稼働の駐車場の住民向け活用をはじめとする、官民連携による課題解決の選択肢を提示しました。
成果
第一に、発注者が従来認識していなかった実態を、データによって可視化しました。例えば、大規模集客施設周辺の道路が通勤時間帯に多く利用されている実態を定量的に示し、発注者から高い評価をいただきました。第二に、データに裏打ちされたSWOT分析および提言について、政策立案時の説得力を高めるとともに、地区の開発に深く関わる民間企業との交渉・協議にも有用であるとの評価をいただきました。第三に、本件で確立した支援の枠組みが他の自治体・地域の案件へも展開が進んでいます。
実施体制の特色
本件は、ビッグデータを保有するNTTグループのパートナー企業と当社が初めて協業した案件です。パートナー企業がGPS人流データ等のビッグデータ提供を担い、当社がプロジェクト統括として業務設計・データ分析・報告書作成・政策提言を担う役割分担を確立しました。
プロジェクトの推進にあたっては、パートナー企業との対面でのディスカッションの場を設け、対象エリアと類似する特性を持つ他エリアとの比較分析を深めたほか、共通のコラボレーション環境を整備することで、報告書提出直前の修正作業も共同編集により円滑に進めました。この体制は、「可視化(見えなかった課題の把握)」「構造化(課題の主体・場所・内容・要因の整理)」「優先順位付け(優先施策のデータに基づく決定)」「合意形成(データによる意思決定の迅速化)」という4つの価値を自治体に継続的に提供できる枠組みとして機能しています。

今後の展開
本件で確立した支援アプローチ――ビッグデータを政策立案・協議に活用できる価値へ転換すること、特性の異なる複数データを組み合わせること、データ保有企業との連携体制を構築すること――は、既に複数の自治体・再開発エリアの案件へ横展開が進んでいます。当社は今後も、人流ビッグデータをはじめとする多様なデータとICT分野の知見を掛け合わせ、地域の政策課題の解決とEBPMの実践に貢献してまいります。
本件に関するお問い合わせ
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