2017年4月27日掲載 ICT利活用 農業×ICT

R&Dの取り組み~鳥獣害対策を例として:NTTサービスエボリューション研究所



NTTグループが推進する農業×ICTの取り組みの最後は、NTT研究所です。NTT研究所では(1)ネットワーク上で動くコミュニケーションサービスやアプリケーション、(2)ネットワークの基盤技術、(3)将来を見据えた基礎研究の3領域の研究を担っています。NTTは世界最先端のネットワークを提供していますが、それはR&D組織であるNTT研究所の成果に基づいたものです。この成果を今、農業分野に適用して新サービスを展開しようと取り組んでいます。

農業分野における実績:情報通信技術の応用

これまでもNTTグループでは農業にR&Dの技術を活用してきました。例えば、通信用レーザとして研究開発したレーザガスセンシング技術があります。このレーザガスセンシング技術を活用すると、食品に含まれる水素、酸素、炭素の安定同位体比から動植物の産地や種類を推定できるそうです。NTTはここに着目し、食品からガスを発生させてそれにレーザ光を照射し、その結果から食品の産地を特定するのです。現在、NTTの社員食堂で商用化に向けた実験を行っています。

NTTグループの農業ICTソリューションの例

NTTグループの農業ICTソリューション

NTTのR&D技術は他にもたくさんあります。上図は農業ソリューションにおけるR&D技術を整理したものです。「NTTグループの農業×ICT戦略(1):グループ連携の推進」で紹介した920MHzの無線技術といった先端技術も活用されています。また、2016年6月には農機大手のクボタとNTTグループとが連携しましたが、その連携協定では農機や営農支援システムを高度化するために研究所の人工知能やIoT技術を活用するとしています。

このように数あるR&D技術のなかで今回注目したのは人工知能の取り組みです。NTTの人工知能研究は音声認識や自然言語処理・知識処理、感覚情報処理の分野で今のように注目される前からの研究蓄積があります。それに加えて、ディープラーニングやIoT領域における東大発のベンチャー企業とも協業しています。人工知能研究の領域は多岐にわたりますが、これまで開発した技術群の総称として「corevo」というブランド名を発表しています。corevoには4つの領域があり、以下のとおり、それぞれに構成技術・モジュール群があります。

  • 「Agent-AI」コンタクトセンターや高齢者支援などで活躍する人間の意図や感情を理解する
  • 「Heart-Touching-AI」スポーツの上達やメンタルウェルネス向上などを支援し人間らしさの本質にせまる
  • 「Ambient-AI」ヘルスケアや交通制御などの中核にあり、IoTの頭脳としてセンサの知能化を司る
  • 「Network-AI」地球規模の全体最適化など巨大システムを超分散リアルタイム処理で支える
corevoを構成する4種のAI

corevoを構成する4種のAI
出所:NTTニュースリリース NTTグループのAI技術「corevo」によるコラボレーションを展開
http://www.ntt.co.jp/news2016/1605/160530b.html#a1

それではNTTグループでは、corevoをどのように農業分野に活用しようとしているのでしょうか。NTTグループの農業への取り組みと今後の方向性について、NTTサービスエボリューション研究所の大橋二大氏にお話しをうかがいました。

NTT研究所の農業への取り組み

-農業への取り組みを教えてください。

NTTサービスエボリューション研究所 大橋二大氏

NTTサービスエボリューション研究所の大橋二大氏

大橋(敬称略):NTTの研究所では、農業に取り組む体制が昨年整備されました。この組織で、農業のテーマや課題に対して、研究所技術の適用可能性を検討しています。研究所では、IoTを活用した各分野での取り組みのテーマや方向性をまとめましたが、そのなかで農業分野は「儲かる産業化」「農業経営者・従事者の増」をテーマにしています。取り組みの方向性として、「営農の見える化」「トラクターの高度化」「農業生産基盤整備(農業用水門)」「鳥獣害対策」の4つがあります。これらの方向性は農林水産省の研究基本計画と技術動向に沿った形になります。その中でも、鳥獣害の被害額は年間200億円と公表されており、明確な市場があるものと想定し、このテーマに注力しています。

-NTTの鳥獣害対策の内容を教えてください。

大橋:テーマは「見えない柵」です。位置情報、赤外線、近接監視等の各種センサーやカメラを搭載したロボット等を圃場に複数設置し、動物の侵入を検知すると、各種センサーの検知情報やカメラで撮影した画像をクラウドに送信します。出没時間、場所、種類、大きさ、個体数などから、侵入した動物が害獣か否かをAIが判断し、害獣である場合は、ロボットやドローンなどの機器を活用してその動物が苦手とする音や光、においなどを出して威嚇し、追い払います。しかもロボットやドローンは連携することができます。例えばロボットが動物を威嚇し、ドローンが追い払うといった具合です。まさに「見えない柵」です。

また、同じ動物に同じ対策を続けると動物も慣れてしまい、威嚇効果が減少していきます。そこで、AIの学習機能により、動物の慣れ具合に対応した別の威嚇手段を選択、威嚇することにより、動物の慣れにも対応します。

こうした機能を実現しているのが、クラウド対応型インタラクション制御技術「R-env:連舞」になります。「R-env:連舞」は、複数のロボットやIoT機器などを組み合わせて連携させるための仕組みを提供する技術になります。この技術を鳥獣害対策に活用することで、各種センサーやデバイス、ロボット、AIといった高機能なロボットやIoT機器の連携による鳥獣の生態に応じた威嚇・追い払いの範囲をさらに拡大させていくことができ、人、農業、動物が共存できる社会を創ることが可能になると考えています。

 

鳥獣害対策の概要(出所:NTT R&Dフォーラム2017資料)

鳥獣害対策の概要(出所:NTT R&Dフォーラム2017資料)

-NTTが農業に取り組むメリットは何でしょうか。

大橋:NTTでは、これまでネットワーク技術、サーバ・クラウド制御技術、AI技術などの様々なICT関連技術の研究開発を行ってきました。これらの活動を通して培った様々な技術を用いて、センサーデータ等の収集、サーバ・クラウド上での収集データの分析、分析結果に基づいたデバイス等の制御に至るIoTに関わる一連の流れを一気通貫で提供することが可能となり、この点が強みだと考えています。この強みである、IoTに関わる一気通貫でのサービス・機能を、ICTを活用した営農支援や精密農業といった農業分野にも積極的に展開していくことで、NTTグループの新たなビジネス分野創出につながると考えています。

-農業への取り組みへの課題と今後の展望

大橋:NTTは通信事業者であって、農業の専門家ではありません。そのため農業分野への取組に際しては、農業生産者や農機具メーカ、JAなどといった各企業や国や自治体、さらには鳥獣害対策で必要なる動物行動学などを研究する大学などの研究機関の方々ともコラボレーションをしながら、農業の現場に入り込んでいきたいと思っています。そこでプロトタイプを活用した実フィールドでの実証を通し、みなさまの意見を聞きながら使い勝手の良いものに仕上げていきたいと考えています。

今は鳥獣害対策を想定していますが、ドローンやセンサーなどから収集したデータが蓄積されていけば、それをほかの用途に活用できる可能性もあります。収集したデータは圃場のデータなのでそれを可視化することで、生育状況の確認や追肥、散水などの生産支援にも活用することができると考えられます。あるいは農業以外の食品加工や流通への活用もできるかもしれません。また、思いがけない化学反応が起こる可能性もあります。当社の取り組みは、面的に広がっていく可能性があるのです。

 

〇まとめ

今回はNTTの研究所が取り組む鳥獣害対策を中心に取り上げました。農作物を食べられてしまったら農業経営にとっては死活問題です。このように農業における課題を起点に、NTT研究所では複数の技術を組み合わせた課題解決の方法を構想しています。技術ではなく課題ありきなのです。この取り組みを継続することでデータが蓄積され、それがバリューチェーンを超えて活用されていく可能性を秘めています。例えば鳥獣をドローンで追い払う時にカメラで撮影することができれば、鳥獣がそこで食べようとしていた圃場で育った作物の収穫時期を判断できるようになるかもしれません。鳥獣害対策だけにはとどまらない広がりが期待できます。NTTのR&Dの成果を活かせるICT利活用の世界の開拓はこれからが本番です。今後の広がりが期待できます。


NTT研究企画部門プロデュース担当:久住、小野里

NTTグループの農業×ICT最前線

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