2015年11月2日掲載 ITトレンド全般 風見鶏 “オールド”リサーチャーの耳目

火山「噴火速報」の運用と携帯通信環境のギャップは携帯事業者の努力不足のせい?

気象庁は今年8月4日午後2時から、24時間態勢で監視している全国47の火山を対象に「噴火速報」の運用を始めています。これは初噴火や普段を上回る大規模な噴火が発生した際に、登山者等に対し携帯端末やラジオなどを通じて情報を送り避難を呼びかける速報で、発生後5分以内をめどに発出されるものです。

鞍掛峠(白草山と三国山との鞍部)から望む噴煙を上げる御嶽山

鞍掛峠(白草山と三国山との鞍部)から望む噴煙を上げる御嶽山
出典:Alpsdake(投稿者自身による作品)
[CC BY-SA 4.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0)], via Wikimedia Commons

昨年9月27日午前11時52分に御嶽山が噴火(水蒸気爆発)して63人の死者・行方不明者(火山噴火による戦後最悪の人的被害)がでたことを受けて、気象庁の火山噴火予知連絡会の下、「火山情報の提供に関する検討会」が取りまとめた報告(平成27年3月18日)で、この噴火速報の運用を提言していたものです。気象庁は噴火発生や噴火初期の変動を観測した場合には、“その旨を登山者等火山に立ち入っている人々に迅速、端的かつ的確に伝えて、命を守るための行動を取れるよう、「噴火速報」を新たに発表する”ことになりました。このことは2011年3月の東日本大震災を境に国内各地の火山が噴火する事態が発生しており、専門家が日本列島全体の火山活動の活発化を指摘していることを踏まえ、また近年、人々が生命に関わる各種の災害情報を携帯端末を通じて入手している実態を考えると、火山の登山者等への具体的な情報伝達にあたって携帯端末を方法に取り入れることは当然の措置です。噴火速報の受信にはアプリのダウンロードとメール登録などの設定が必要となりますが、今後、特定地域の携帯端末に一斉送信するエリアメールや防災行政無線での速報システムを整備する方向となっています。

噴火速報はこれまで気象庁が公表してきた噴火警報に加えて、その場にいる人達に緊急に噴火情報を伝達するもので、少しでも命を守る行動を促す危機最中の緊急事態速報で地震発生時の「緊急地震速報」に類似するものです。しかし地震発生時と同様に、噴火する火山周辺の住民には情報は携帯ネットワークを通じて確実に伝達されるものの、その時火山に立ち入っている登山者等に伝わるのかは携帯通信のエリア内なのか、携帯電波が受信できるのかによって大きく違ってきます。現に噴火速報の運用が決まって以来、マスコミでは、「活火山の山頂63地点、携帯圏内は4割どまり 大手3社」(2015.3.23 朝日新聞)とか、「火山3割、携帯通信に不安---噴火速報届かぬ恐れ」(2015.9.26 読売新聞)といった報道が見られます。活火山の山頂や登山道、山小屋などを念頭に置くと携帯通信のエリア状況は決して高いとは言えません。でも考えてみて下さい。そこは人の居住している地域ではなく、人里から遠く離れた火山の山頂付近なのです。逆説的になりますが、報道記事による違いはありますが、4割から7割は山頂で携帯端末が通ずるということなのです。確かに携帯通信に不安があることは事実ですが、そのことは前述の検討会でのヒアリングにおいて出席したNTTドコモから、山間部における通話可能エリアは強化しつつあるが“規制や費用対効果の観点から基地局のアンテナ設置が困難であり、また自然条件等の影響で通話し辛い場所がある”と説明されています。この結果、検討会の報告書では火山情報の携帯端末への具体的な伝達方法について関係する事業者と調整するとだけ述べられています。正直、誠に難しく悩ましい問題です。

携帯通信サービスの普及とエリアカバーの著しい進展により、我が国の山岳地帯においては、見通しのよい山頂部や尾根筋では携帯電波が届くエリアが拡大していて、登山者は携帯端末を持って行動するのが当然となっており、また万一の場合に救援を求める際には電波の届きにくい谷筋ではなく尾根に登って通信することが常識となっています。ただ、こうした現実は住民生活や社会経済活動を考慮して現実のエリアカバーを確保した結果の産物によるところが大きく、一部の地域、例えば夏期の富士山頂及び登山道など観光面や利用者を意識して対応しているところを除くと山岳地域を携帯通信エリアに取り込むことはほとんど想定しにくいと思います。地形的な自然条件やコスト面は当然として、さらに国立公園などの景観や自然環境保護面の規制なども考慮しなくてはいけないからです。

こうなると災害時の命を守るための施策を誰がどう責任を持ち費用等を負担するべきなのか、新たな安心・安全についての国策レベルの課題となります。残念ながら、今回の火山噴火予知連絡会の下の検討会ではそこまでの踏み込みはなく、マスコミが情報伝達の限界に警鐘を鳴らしているだけですが、さらに対応を進めて安心・安全を実現する国土強靭化方策のひとつとして噴火の危険のある火山地域への情報伝達方法を国の政策として推進する必要(ex;携帯電波が届くよう設備の改良をしたり、防災行政無線の拡充を進める)があると思います。今後少なくとも数十年の間、日本列島は地震や火山の活動期を迎えており、併せて地球規模での異常気象にみまわれている今日、成熟期を迎えているモバイル通信インフラやICTサービスを命を守る安心・安全方策に活かす良い機会ではないでしょうか。

携帯端末を通じて命に関わるいろいろな災害情報を入手することが当然になっている今日、携帯通信のエリアカバーは単純に通信事業者の事業姿勢・努力の問題とするのではなく、幅広く国民利用者に対する国の安心・安全政策と捉えるべき事象ではないかと考えます。さらにこれには、例えば電波の有効利用の観点から、電波利用料の活用を検討してみてはどうでしょうか。安心・安全、国土強靭化に繋がる道と思います。

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