2019年9月1日掲載 風見鶏 “オールド”リサーチャーの耳目

企業経営と会計-ダイナミックな活動



 標題は7月下旬に、神戸にある大学の経営学部で3・4年生中心の学生に話をした特別講義の題名です。知人である大学の先生からの依頼を受けたもので、往復の移動時間を含めるとまる1日の行動となりましたが、大学での会計の専門科目というのは私にとっても滅多にない経験でしたので、とても印象深いものがありました。授業科目名は「実務家から聞く会計のはなし」ということで担当教授の総括的な授業のほかは、公認会計士や財務・国税の専門官、会社の経理担当役職員・監査役など会計業務に携わる実務家からリレー講義的に実際の話を聞くという誠にユニークな取り組みでした。担当教授は公認会計士(監査法人)出身で実務経験の長い先生なので、会計実務と事業体の経営・管理について興味を持ってもらい会計に関する実力を養うことを狙いとする授業内容です。会計をベースに経営をどう捉えるのか、会計はどのように経営に活かされているのかなどがテーマになっていて、とても興味深いものでした。

 担当教授の話では、このところ会計は学部生の専攻志望ではとても不人気で、さらに公認会計士や税理士、日商簿記などの資格試験に合格することが会計をマスターすることと考えている学生が多いのではないかと懸念を持っていました。また、そうなると効率性から資格試験の受験予備校中心の勉強が中心となって、大学では単位取得が面倒な会計科目は敬遠されていると嘆いていました。これを聞いて私は企業内での会計業務、会計担当者・担当役員の位置付けと立場に同様のところがあると改めて認識したところです。つまり、会計は専門業務の範疇であり、詳細な諸原則・諸手続に則って行う、必要不可欠だが専門とする者が行えば誰でも同じ結果が出る作業プロセスと多くの人達、特に企業トップから見られています。この認識からは会計業務が円滑に執行されていないと困ることは十分理解できても、要はコストであるとの認識が中心となってしまって効率化の対象となりがちです。外部への切出しや外注化、さらにはAIの導入へと進んで行く傾向にあります。こうした実務面の現実が経営学部・商学部で会計を学ぶ学生にも伝わっているのではないかと感じた次第です。大学自体がプロの養成機関となり、資格試験の合格を目指す機関となっていくのに応じるように、企業でも会計担当を専門の処理組織として単純に割り切っていく流れにあるように思われてなりません。本当に残念なことです。

 結論から言うと、会計こそ、広く一般常識や経済、経営、法律などの知見が求められ、それらを会計の原則の下で融合することが大切な分野はないと思っています。会計の数字は自動的に単純な計算で出てくるものではありませんし、そもそも実務においては原則や基準に決まっていない新しい事象が次々と起っているのが現実です。基準に詳細まで決めていないことや基準が想定していないことに対して合理的に判断することが必要になります。合理的に判断するには、実態の把握と検証、(過去)事象の分析と評価、将来の見積もりと根拠など検証・分析・評価・予測が前提であり、経営を取り巻く市場や技術の動向、社会の動きなどを含めた総合的な判断能力が必要です。それだけに会計における合理的判断が企業経営の実態に強い影響を与えることになります。財務活動を含めて財務会計は決算数字を算出する機能だけでは決してありません。換言すれば数字が語る世界を作り上げるプロセスなのです。会計決算はすべての始まりで締めたら終わりではありません。適正な原則・基準の適用とさまざまな要素・項目の評価と判断が融合します。例えば、引当金、のれんや資産の評価(減損)、耐用年数などいろいろな見積もりと予測判断は避けられません。加えて最近では特にステークホルダーへの情報開示が強く要求されているので、内部統制、説明責任、企業統治(コーポレートガバナンス)まで守備範囲が広がっています。実際、事業報告書、有価証券報告書、内部統制報告書、コーポレートガバナンス報告書と対外レポートが増え、かつ詳細な記述が規定されるようになっているので、財務会計部門の役割は年々重くなっています。まさに、会計は経営判断・行動に影響を与えるダイナミックな活動なのです。その流れで財務会計部門は会社の要めと言えます。

 会計を学ぶ学生が資格獲得を目指して勉強することは大事なことですが、資格は何よりスタート台でしかなく実務の世界はもっと広く人間的要素が必要なので、今回の授業では実務家の体験を聞いて長い職業人生でどう学んでいくのかを中心に講義して来ました。私は以下の3点を強調して授業を締めくくりましたが、これらは逆に現実の企業経営者や管理者に頭に入れてほしいとも思っているものでもあります。

 ①お客様や社会への貢献を忘れない-大企業でもベンチャーでも同じ

 ②変化への耐性を鍛える-変化を楽しむ心掛け

 ③現場主義-数字と現場の動きが一致してこそ本物

 時代の流れに逆らうようですが、私は、会計担当をコストとしてだけ捉えて外部への切出しや外注に陥ってしまうことは避けた方がよいと考えています。財務会計分野はもとより事業環境全体が激変する今日、財務会計担当の会計原則と基準に則った合理的な判断がますます重要な役割を果すことになります。また、対外的な各種の情報開示やステークホルダーへの説明責任など出番が数多くなっていますので、会計担当の能力向上がこれまで以上に重要になっているからです。数字が語る世界を作り上げられる人材が必要です。長く会社で財務会計業務に携わってきた者として、現在、大学で学んでいる学生のモデルであってほしいと願っています。

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