2025.5.30 ITトレンド全般 ICR研究員の眼

通信キャリア経済圏の概観 ~NTTドコモの銀行機能獲得と今後の展望~

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

NTTドコモが2025年5月29日に住信SBIネット銀行への出資を発表したことで、モバイル通信事業者(以下、通信キャリア)の経済圏戦略に改めて注目が集まっている。

経済圏とは

経済圏とは、「一般消費者の生活全般を取り囲むサービス群」を指す。通信キャリア各社の現状を見ると、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクはモバイル通信を起点に、固定通信、金融、マーケットプレイス(ショッピング)、電気・ガスなど多様なサービス領域へと事業を拡大している。モバイル通信サービスの市場が成熟するなか、周辺市場に進出することで更なる収益機会にアプローチしている。一方、楽天は祖業であるEC(楽天市場)が起点となっており、2014年のMVNO[1]参入(2019年にはMNO[2]サービス開始)によってモバイル通信をサービス群に加えるという、他社とは異なる経路を辿っている。

経済圏の軸となる”ポイント”

近年のキャッシュレス決済の急速な普及により、決済サービス(クレジットカードやQR決済など)と連携する”ポイント”に対する消費者の関心は格段に高まっている。通信キャリア各社は、決済サービスの利用金額に応じたポイント付与に加え、経済圏内の各種サービス利用時にもポイントを付与することで、消費者により多くのメリットを提供している。

こうした現状から、業界関係者の間では「各キャリアの経済圏を構成するサービス群は何か」「各経済圏に欠けているサービスは何か」といった点に注目が集まりがちである。

真に重要なのは顧客利便性の向上

しかし、言うまでもなく、経済圏戦略において真に重視されるべきは顧客の利便性である。確かに、より多くのポイントが付与されることは顧客にとって大きなメリットだが、他社ではなく自社の経済圏を選んでもらうためには、それだけでは不十分だろう。個々のサービスの魅力向上はもちろん、複数のサービスを利用する際のID・システム連携の最適化など、各キャリアが取り組むべき課題は依然として数多く残されている。顧客に使いやすい経済圏をどの通信キャリアが先んじて構築するか、今後の動向を注視したい。

※本稿の内容は筆者個人の意見です

図表1 国内通信キャリアの経済圏(概観)

図表1 国内通信キャリアの経済圏(概観)
(注)2025年5月末時点。「住信SBIネット銀行」部分は予定
出所:各社の公開情報を基に筆者作成

[1] Mobile Virtual Network Operatorの略。通信キャリアの設備を借りてモバイル通信サービスを提供する。

[2] Mobile Network Operatorの略。自社で設備を所有し、モバイル通信サービスを提供する。

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