2015年2月6日掲載 地方創生 ICR View

変化する動線~「非日常」のススメ

この3月は身近で「動線」が変化する出来事がたくさんある。人やモノの動線が変わることで経済・社会活動の「潮目」としての変節点になる可能性がある。ICTに携わる者としては、このような新たな動線がもたらす変化に敏感でなければいけないと常々考えている。ICTが関連する範囲が世の中の社会的課題解決から、観光振興による「地方創生」や訪日外国人へのおもてなしまで、あらゆる分野に意識をめぐらす必要性がある今日、その意味でこの3月に予定されている3本の新たな動線は注目すべきだ。



3月に起こる「動線」の変化


一本目は2015年3月14日の北陸新幹線の長野~金沢の開通だ。これにより東京~金沢間は最速で2時間半を切り、従来のルートから1時間半近く短縮される。北陸新幹線開通の話は、TV番組やCM、これに合わせたツアー販売など観光面ですでに首都圏でも話題になっており、新幹線沿線でも開通を契機にした観光振興に力が入っている。




(写真1)2015年1月JR糸魚川駅構内

(写真1)2015年1月JR糸魚川駅構内

(出典:筆者撮影)




二本目は、北陸新幹線の話題に比べると、まだあまり注目されていないようだが、北陸新幹線の開通日と同日、首都圏ではJRの上野・東京ラインが開通する。この開通により、東海道線と宇都宮線(東北本線)・高崎線・常磐線が相互乗り入れすることになり、例えば東北・常磐線方面から品川や湘南方面まで乗り換えなしで行けることになる。その副次効果として(もしかするとこちらの方が主要効果かもしれないが)、田町~品川駅間に隣接している広大な車両基地が不要になり、このエリアが大規模再開発され、新たな駅が山手線に2020年の東京五輪・パラリンピックまでには開業することになっている。




(図1)上野東京ライン運行イメージ

(図1)上野東京ライン運行イメージ

(出典:JR東日本より引用)




3つめは3月7日の首都高速中央環状品川線(3号渋谷線~湾岸線)の開通だ。山手通りの地下を貫通する山手トンネルの全通により首都圏北側の関越道、東北道や西側の中央道、東名高速から羽田方面への所要時間が大幅短縮するとともに、都心の渋滞も大幅に緩和すると見込まれ、人や物流の面で大きな経済効果が期待されている。




(図2)首都高速中央環状品川線

(図2)首都高速中央環状品川線

(出典:首都高速道路(株)より引用)




このように、大量輸送手段である鉄道や道路の大動脈の開通は大きく人・モノの流れを変え、その動線がもたらす変化はわかりやすい。北陸新幹線の例では、すでに首都圏から北陸地方への観光客大幅増が期待されているが、その一方でこれまで宿泊していた客が日帰りで帰ってしまったり、新幹線のルートにならなかった都市の衰退、地方の若者が首都圏へ吸い込まれる「ストロー現象」の懸念も捨てきれない。今後動線の変化がどのような経済・社会活動の変化をもたらすのか、そこにICTがどう介在する余地があるのか、興味をもってみていきたい。



訪日外国人が作る「動線」の変化


以上に挙げた例のような大規模交通インフラの完成によるものでなく、あまり気が付かない間にネット上の口コミをベースに動線が変わっていく例もある。訪日外国人の人気観光スポットという観点からそれをみてみよう。2015年1月に日本政府観光局(JNTO)が発表した2014年一年間の訪日外国人数(速報値)は、過去最高の1,300万人に達し、2013年の1,000万人から大幅増となった。ここ数年の訪日外国人の伸びは非常に高く、中でも中国からの伸びが最も大きい。その中で、海外から日本国内各地へ向かう動線は、京都や富士山といったようなステレオタイプなものだけだと思っていないだろうか。「JAPAN CLASS それはオンリーインジャパン」(東邦出版)によると、東京での外国人人気訪問先は、第1位の新宿御苑に続く第2位は、新宿歌舞伎町にある「ロボットレストラン」であるという(写真2)。そこは日本のロボット文化を象徴するようなショーが人気なのであるが、東京に住んでいてもそのようなところに動線の先があるということに気が付いている人は多くない。大阪では食べ歩きができる黒門市場の商店街が特にアジアからの観光客に人気であるというし、最近の新たな訪日ゴールデンルートのひとつは名古屋方面から世界遺産・白川郷(岐阜県)に向かうルートであるという。白川郷訪問者が立ち寄る高山市内のあるハンバーガーショップは、日本食に飽きた外国人が訪れたくなる味を売りにし、最近の人気ランキングで「ミシュラン」に載る著名レストランよりも上位に来ることが多いという。このように動線の行く先は最近ではTrip Advisorなど著名な旅行サイト上の口コミをベースに高速かつ多彩に変化している。




(写真2)新宿歌舞伎町にある「ロボットレストラン」

(写真2)新宿歌舞伎町にある「ロボットレストラン」

(出典:弊社研究員撮影)




2020年の東京五輪・パラリンピックという節目は、これまで「グローバル」といえば日本から海外への一方向のみに向きがちだった思考を、実際の動線の変化に応じて海外から日本へ入ってくる逆方向の「グローバル」について転換する良い機会だ。円安や中国の人件費高騰により、日本に再度製造拠点を回帰させようとする動線も同じ文脈の中にあるといえる。ここでは紙面の関係で詳述しないが、このような動線の変化に合わせ、外国人をターゲットとした無料WiFiの充実はいうまでもなく、最近ではMVNO各社がプリペイドSIM展開を強化しつつあるのも、同様の動線変化を先取りしたものである(写真3)。




(写真3)那覇空港国際線ターミナルのSONETのプリペイドSIM自販機

(写真3)那覇空港国際線ターミナルのSONETのプリペイドSIM自販機

(出典:2014年12月筆者撮影)




「非日常」のススメ


「地方の衰退」が語られる際に、よく地方の駅前の「シャッター商店街」がその象徴のように語られることが多い。しかし、地方でも前述したような訪日外国人の来訪を活用して活性化したところや、クルマという動線の近くでは大型ショッピングセンターなど地方でもいくらでも人が集まっているところがある。東京にいるだけではステレオタイプな先入観が先走り事実が見えていないことも少なくない。例えば通勤経路という自分の日常の「動線」を少し変えてみたらどうだろうか。そのように「非日常」を感じる機会を増やし、新たな動線の変化を肌で感じることで、ICTがマーケットのニーズに対して果たしうる役割がもっと見えてくるかもしれない。

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