2019年4月25日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

MWC19 Barcelonaレポート~5G時代のデバイス像を考える



2019年2月末、毎年恒例の世界最大級のモバイル関連展示会「MWC[[1]]」が今年もスペイン・バルセロナで開催された。本展示会は業界トレンドを示唆する興味深いイベントだ。世界中から集まる業界主要プレイヤーが新サービス・製品や事業戦略を発表し、また業界の課題についても活発に議論するからである。今年のMWC19 Barcelonaは2,400の出展企業と10万9,000人の来場者数を数え、昨年に引き続き過去最大級のイベントとなった。

本稿前半では、展示会の象徴的トピックとして次世代モバイル通信「5G」の動向と、そのユースケースのひとつ「クラウドゲーミング」を紹介する。後半では、5Gスマートフォンの次に来るものとして、筆者が会場で注目した展示から5G時代のデバイス像を考えてみたい。

MWC会場で存在感を示す「5G」

MWC会場の大半は企業の展示スペース(ブース)であり毎年多くの人で賑わう。なかでも大手企業が集中するエリアは人通りが多いが、こうした盛り上がりの中でもまず目に飛び込んでくるのは各ブースに大きく掲示された「5G」のロゴだ(写真1参照)。

WMC2019展示会場で目を惹く「5G」ロゴ

【写真1】展示会場で目を惹く「5G」ロゴ
(出典:文中掲載の写真はすべて情総研撮影)

(参考)5Gとは

現在スマートフォン等で利用される4G LTE(第4世代)に次ぐ第5世代モバイル通信システム。主に以下の3つの特徴を有する。

  1. 超高速(最大ダウンロード速度20Gbps:現行LTEの100倍)
  2. 多数同時接続(最大接続機器数100万台/km2:現行LTEの100倍)
  3. 超低遅延(伝送遅延1ミリ秒程度:現行LTEの1/10)

(出典:各種公開情報に基づきまとめ)

5Gは、昨年2018年6月に世界標準化団体「3GPP」によりその技術仕様の一部(5Gフェーズ1)が策定され、まさにこの2019年から世界各国でサービスが開始されようとしている。MWC会期もしくはその直前に5G対応の初の商用スマートフォンがSamsungやHuawei(華為技術)等の複数デバイスメーカーから発表されたことで、デバイスへの注目度は近年で最も高まった。

会場に展示された各社の5Gスマートフォンは、現在の4Gスマートフォンと見た目はほとんど変わらない(写真2参照)。5Gスマートフォンは昨年までは開発段階にあり、4Gスマートフォンと比べて分厚いものであったが、5Gモデムを供給するQualcommや各デバイスメーカーの努力によって4Gスマートフォンと遜色のないフォームファクターを達成した。またHuaweiの5Gスマートフォンは折りたたみ機構[[2]]を有する点でも大きな注目を集めた。なおSamsungからも、5G非対応だが折りたたみ機構を有するスマートフォン(5G対応版も計画)が発表されており、こちらも展示で人だかりができていた。

初の商用5Gスマートフォン

【写真2】初の商用5Gスマートフォン

「5G」サービスを世界に先駆けて提供する韓国・米国

これらスマートフォンを5Gネットワークで利用するには、もちろん通信事業者による5Gサービス提供が必須だ。日本での5Gサービス提供は2020年頃の予定(一部、プレサービスを2019年から開始予定)だが、韓国と米国では2019年4月から5Gサービスが開始されている。

まず韓国は、SK Telecom、KT、LG Uplusの3通信事業者が4月3日から5Gサービスを提供開始したと発表している。対象はまずはSamsung製「Galaxy S10 5G」だ。KTのCEOはMWCの基調講演で「2019年3月から世界初のスマートフォン向け5Gサービスを開始する」と宣言したが、韓国当局等との調整の影響を受け開始が4月にずれこんだ格好だ。

一方、米国は、同国モバイル市場シェア1位のVerizonが同じく4月3日に5Gサービスの提供を開始している。こちらは当初4月11日だった開始予定を前倒した格好だ。対象はまずはMotorola製「5G Moto Mod」搭載の「moto z3」だが、Samsung製「Galaxy S10 5G」も提供予定だ。

Verizonは5Gの中でもより高速な「ミリ波帯」を使ってサービスを提供する。開始時点の提供エリアは2都市(ミネアポリス、シカゴ)にとどまり限定的だが、早速契約したユーザーのSNS投稿によると通信速度は数百Mbpsに達しており、住宅向けの光ファイバー・ブロードバンドに匹敵する、という声も出ているようだ。

5Gユースケースとしてのポジションを築く「クラウドゲーミング」

「超高速」「超低遅延」通信を実現する5Gのユースケースとして、展示会場で多く目にしたのは「クラウドゲーミング」だ(写真3参照)。

クラウドゲーミング関連の展示

【写真3】クラウドゲーミング関連の展示

(参考)クラウドゲーミングとは

ゲームデータ処理をクラウド上で行い、処理結果を映像データでユーザーデバイスにストリーミングするゲーム形態。デバイスの処理負荷が小さくなるため、専用ゲーム機やハイエンドPC以外でもハイスペックなゲームを楽しむことができる。

※詳細は「GoogleのStadiaが加速するゲーム・ストリーミング」を参照されたい

5Gの特徴である「超高速」「超低遅延」を生かすことで、従来の4Gよりも高精細な映像を遅延なく伝送することができる。これまでは、高精細をウリにするハイスペックゲームをプレイするには専用コンソール(ソニー製PlayStation 4、Microsoft製Xbox)等が必要だった。コンソールの制約から解放されるには、代わりにゲームのデータ処理をクラウド上で行う方法があるが、処理および伝送遅延が大きいと、プレイヤーの操作の画面上への反映に遅滞が生じゲームとして成立しなくなる。そこで遅延の少ない5Gを活用し、無線区間の遅延を最小限にしてクラウドで処理する際の遅延全体を低減しようということだ。プレイヤー操作をキャラクター動作に瞬時に反映したい格闘ゲームや、多人数のプレイヤーで同時に操作するMMO[[3]]ゲームでは特に有効だろう。展示会場では、チップメーカーのQualcomm、通信設備メーカーのEricssonおよびNokia、IT事業者のIntel等のブースの他、通信事業者であるTelefonica等でも関連の展示がされていた。またNokiaは、通信事業者がクラウドゲーミングを収益化するための提案も行っており、通信事業者としてのビジネスの可能性も感じさせた。

安価なスマートフォンひとつで、いつでもどこでもハイスペックなゲームを楽しめる時代が訪れそうだ。

5G時代のデバイス像を考える

前述のとおり、会場で目を惹いたのは発売が間近に迫った5Gスマートフォンとクラウドゲーミングだった。業界各プレイヤーの努力や技術革新によって、私たちの生活に5Gが加わりつつある。

一方、モバイル通信システムの世代変化は、スマートフォンとは異なるフォームファクターをもち新たなユーザー体験を提供する新デバイス登場のきっかけとなる可能性がある。スマートフォンよりも持ち運びやすく便利なデバイスの登場を期待する人も多いだろう。展示会場には新デバイスを考えるヒントがいくつかあったので、以降で紹介したい。

ヒント①:デバイス処理のクラウド代替
(ハードウェアスペックの簡素化、低コスト化)

従来、高いユーザー体験を得るにはハイスペックなデバイスが必要だったが、デバイス処理の一部をクラウドにオフロードすることでデバイススペックを下げることが可能となりつつある。つまり、安価な低スペックデバイスでも高いユーザー体験を得られるようになる可能性がある。以下では2つの展示を紹介する。

(1)仮想モバイル環境「Sierraware VMI」

米Sierraware社は、同社の仮想モバイル環境(VMI)のデモをSK Telecomのブースで実施した。VMIでは、スマートフォンのOSやアプリケーションの処理をデバイス側ではなくクラウド側で実行することによりデバイスの処理負荷を低減する(同社はこれを「Thin Phone」と呼ぶ)。展示ではクラウドとしてSK Telecomのエッジコンピューティング環境[[4]]を活用しており、一見普通のスマートフォンのように動作するが処理はクラウド(エッジコンピューティング環境)で行われる(写真4、5参照)。展示で用いられたモバイル回線は4G LTEであったが遅延をほとんど感じさせず、5Gではさらに安定したユーザー体験の実現が期待される。また同社によるとデバイス価格の低減、さらにはバッテリー消費の低減にも貢献するとのことだ。

Sierraware社VMIで動作するスマートフォン

【写真4】Sierraware社VMIで動作するスマートフォン

会場内に設置されたエッジコンピューティング環境

【写真5】会場内に設置されたエッジコンピューティング環境

(2)クラウドXR「Innoactive Hub」

独Innoactive社はDeutsche Telekom、QuarkVR、MobiledgeXらと共同で、比較的安価でスペックの低いVRヘッドマウントディスプレイ(HMD)でもハイエンドVR HMD向けコンテンツを体験できるデモを実施していた。こちらも処理にエッジコンピューティング環境を活用する。同社は独大手自動車メーカーのVolkswagenグループに対し、同社のVRトレーニングおよび共同作業環境(Innoactive Hub)を2018年から提供している。これは当初ハイエンドVR HMD(HTC製Vive Pro)向けに開発されたもので、VRコンテンツ処理に高性能PCが必須だった。しかし産業界におけるVR普及には高価なハイエンドVR HMDや高性能PC、そしてそれらを接続するケーブルからの脱却が望ましいとし、負荷の大きいレンダリング処理をエッジコンピューティング環境で実施することで比較的安価なスタンドアロンVR HMD(HTC製ViveFocus)でもInnoactive Hubを活用できる環境を構築した(写真6参照)。一般的にVRコンテンツは容量が大きいうえ、ユーザ入力がコンテンツ表示に反映されるまでの遅延がユーザー体験を損ないやすいため、5Gのような超高速、低遅延のネットワークは貢献しやすい領域だろう。

Innoactive HubをVive Focusで活用する展示

【写真6】Innoactive HubをVive Focusで活用する展示

 ヒント②:柔軟性の高いディスプレイ(デバイス携行性の向上)

5Gとの直接的な関係性はないが、5Gと組み合わさることで従来とは異なるデバイスを実現しそうな技術が「有機ELディスプレイ(OLED)」だ。

Huawei製折りたたみ5Gスマートフォン「Mate X」やSamsung製折りたたみ4Gスマートフォン「Galaxy Fold」は、柔軟性の高いOLEDを採用することでその機構を実現する。またNubia製の腕時計型スマートフォン「Nubia α」でもOLEDが用いられている(写真7参照)。

腕時計型スマートフォン「Nubia α」

【写真7】腕時計型スマートフォン「Nubia α」

OLEDの中でも柔軟性を有するものは「フレキシブル(曲がる)」「フォルダブル(折りたためる)」「ローラブル(巻ける)」に分類できる。フレキシブルOLEDは2013年頃からSamsungおよびLGによって量産化が開始されており、これまでに曲面エッジディスプレイをもつスマートフォン等に採用されてきた。その後、技術革新によって現在はディスプレイ自体を折りたためるフォルダブルOLEDの量産化に向かっている。Display Supply Chain Consultants(DSCC)の試算によると、フレキシブル/フォルダブル有機ELの生産量は今後拡大する見込みである(図1参照)。

OLED製品の生産数予測

*リジッドOLEDは一般的に平面ディスプレイに採用されるもの
【図1】OLED製品の生産数予測
(出典:DSCC, Displaydailyより情総研作成)

Mate XやGalaxy Foldは本体価格が20万円を超えるとされ、従来のスマートフォンと比べ現時点では非常に高価だが、折りたたみディスプレイへのニーズが高まれば生産規模拡大によってコストは低減される。また更なる技術革新によって曲げ半径が小さくなれば、巻き取り可能でさらにコンパクトに持ち運べるデバイスも登場すると思われる(図2参照)。

有機ELの進化イメージ

【図2】有機ELの進化イメージ
(出典:2017.12 LEDs Magazine Japan(米Kateeva社提供))

これらのヒントからは、5G時代には、

  • ハードウェアスペックは簡素・コンパクトで、持ち運び・身に着けやすい
  • 計算処理は必要に応じてモバイル回線経由でエッジコンピューティング環境を活用して実行する

という、従来と異なるフォームファクターをもち新たなユーザー体験を提供する新デバイスの登場を連想させる。筆者も1ユーザーとしてわくわくするデバイスの登場を期待したい。

補足:エッジコンピューティングを活用するデバイスの実現に向けて

本稿を締めくくる前に、エッジコンピューティング環境について補足したい。MWCでのCiscoのプレゼンテーションによると、エッジコンピュ
ーティング環境の構築・活用においては「低遅延のスイートスポット」の把握が重要であるという(写真8参照)。これはエッジコンピューティング環境の構築手段として直感的にイメージされる「モバイル回線の基地局に計算資源を分散配置する」という方法とは異なるようだ。むしろその方法は高コストでコントロールが難しいと指摘し、またユーザーとエッジが物理的に近いことと低遅延は必ずしもイコールではないことをCiscoは強調していた。これは通信事業者がエッジコンピューティング環境構築への投資を行う際の重要な観点となるだろう。

低遅延の実現には 「スイートスポット」の把握が重要

【写真8】低遅延の実現には「スイートスポット」の把握が重要
(出典:Ciscoのプレゼンテーションを情総研撮影)

おわりに

5Gは現在の4G LTEから進化したモバイル通信規格だが、他業界の最新技術とも組み合わさることで、通信サービスにとどまらない新たなユーザー価値提供に寄与するだろう。

本稿で考察したようなエッジコンピューティング環境を活用する新デバイスの実現においては、デバイスメーカーと通信事業者との連携がますます重要となる。また技術的なハードルも多く存在すると思われるが、新しいデバイスの誕生を想像せずにはいられない、興味深いMWCだった。

[1] これまでは「モバイル・ワールド・コングレス(Mobile World Congress)」の略称としてMWCが使われていたが、今回から「MWC」が正式名称となった。

[2] 一般的に「フォルダブル」と形容される。

[3] 大規模多人数同時参加型オンライン、の略。一般に、不特定多数のユーザーが1つのサーバーに同時にアクセスするコンテンツのこと。

[4] エッジコンピューティングの定義は幅広いが、本稿では主に通信ネットワーク内の端末に近い場所にサーバーを配置する環境を指す。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

ICR|株式会社情報通信総合研究所 情報通信総合研究所は情報通信のシンクタンクです。
ページの先頭へ戻る
FOLLOW US
FacebookTwitterRSS