2015年6月25日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

グローバル展開を加速するNetflixの戦略



2015年4月15日に米国最大の動画配信サービス「Netflix」の第1四半期決算が発表され、その内容が業界からの注目を集めている。本稿では、今秋にも日本に上陸するNetflixの最近の動向についてまとめた。

Netflixの2015年第1四半期決算


2015年第1四半期におけるNetflixの売上高は前年同期比24%増の15.73億ドル、営業利益はほぼ横ばいの約9,700万ドル、純利益は同54.8%減の2,370万ドルであった(図1)。


【図1】Netflixの売上高推移

Netflixの売上高推移

(出典:Netflix決算資料をもとに情総研作成)



純利益の減少については、コンテンツの拡大を中心とした投資に加え、ドル高による為替差損によるものであるため、あまり問題視されていない。Netflix自身も、米国外への進出のためには先行投資はやむを得ないということはこれまでも主張してきている。むしろ、投資家やメディア等が注目しているのはその契約者数の増加だ。


Netflixは2015年第1四半期において、四半期ベースでは過去最高となる490万人の新規契約者を獲得した。その内訳を見てみると、米国内では230万、米国外では260万となっている。新規契約を後押しした要因として、米国ではオリジナルコンテンツ『House of Cards』第3シーズンの配信を含むコンテンツの充実が、米国外では2015年3月にオーストラリアとニュージーランドでサービスを提供開始したことが要因として挙げられている。米国での新規契約に向けた取り組みに加えて、積極的なグローバル展開により、今後も米国外でのユーザーが更に増加し、収益増につながるとして期待されている。

そもそもNetflixとは?


本誌2014年5月号(通巻302号)掲載の『「オリジナルコンテンツ」で差別化を目指す米国動画ストリーミング市場』でもNetflixについて紹介したが、おさらいの意味を込めて簡単に振り返ってみたい。


1997年に設立されたNetflixは、米国においてDVD宅配レンタルサービスを展開する企業であった。地域でレンタルショップを展開する企業には太刀打ちできないほどの圧倒的なDVDを保有するNetflixに魅力を感じたユーザーは、徐々にNetflixへと移行していった。更に、2007年には既存のDVD宅配レンタルサービスに加え、一部作品を対象にビデオ・オン・デマンド(VOD)方式による動画配信サービスを開始したことが功を奏し、急速に登録契約者数が拡大した。しかし、2011年第2四半期に宅配レンタルサービスと動画配信サービスをそれぞれ別のサービスとして展開することを発表して以降、宅配レンタルサービスユーザーの解約が進み、2011年第2四半期末には2,459万だった米国の総契約者数が、同年第3四半期には2,379万と約80万人の減少となった(図2)。


【図2】Netflix加入者数推移

Netflix加入者数推移

(出典:Netflix決算資料をもとに情総研作成)



急速にユーザーが離れていくことに危機感を感じたNetflixは月額7.99ドル(当時)で見放題という魅力的な価格設定に加え、モバイル端末への動画配信や他のサービスとの提携による配信先の拡大、そしてオリジナルコンテンツの制作による他社との差別化といった種々の戦略により、徐々にユーザーを取り戻すことができた。そして、現在では米国のゴールデンタイム(20~23時)におけるインターネット・トラフィックの35%を占めるほど視聴されるようになった(表1)。



【表1】米国のゴールデンタイムにおけるインターネット・トラフィック占有状況

【表1】米国のゴールデンタイムにおけるインターネット・トラフィック占有状況

(出典:TechCrunchのsandvine記事より)



Netflixの特徴としては、米国で展開されているAmazon Prime Instant VideoやHulu Plus等他の有料動画配信サービスと比べて圧倒的にコンテンツ量が多いことだ。しかし、最新のテレビシリーズを放送するHulu Plusとは異なり、ライセンス料が安く、さほど有名でない作品が多い。そのため、Netflixはユーザーの過去の動画視聴状況に関する莫大なデータを分析し、個々のユーザーの好みを把握して、その嗜好に近い作品をレコメンドしている。その結果、これまでユーザーが知らなかったような作品であっても、嗜好に合っているため楽しむことができる。ここがNetflixの最大の強みであり魅力なのである。


こういったユーザーの視聴動向に関するビッグデータを用いた戦略はほかにもある。


Netflixはテレビシリーズを配信する際、シーズン終了後に一挙に全話を放送するという形式をとっている。これもユーザーの視聴動向を分析した結果、多くのユーザーがシリーズを一挙にまとめて視聴するという傾向がみられたことに基づいている。


更に、これらのデータはオリジナルコンテンツの作成にも活用されている。Netflixはオリジナルコンテンツの作成に莫大な投資を行っているが、そのストーリーや俳優は、視聴者がどういうストーリーを好んで見ているか、どの俳優の作品が多く見られているか、といった莫大な視聴データを用いて決定している。「House of Cards」はネットドラマ初となるエミー賞を受賞したが、これはNetflixの綿密な戦略により、受賞が約束されていたといっても過言ではないだろう。

加速するグローバル展開


Netflixの契約者数拡大戦略のもう一つの大きな柱となっているのが急速に進めているグローバル展開である。


米国以外での初のサービス提供は2010年9月のカナダであった。カナダにおける当時のインターネット世帯普及率は約78%で、ブロードバンドの平均スピードは6.7Mbpsと快適に動画視聴ができる環境にあった。それでも、サービス開始後10カ月で100万契約を超えたことはNetflixにとっても想定以上の結果であった。カナダでの成功により、米国外でのビジネス性に手応えを感じたCEOのReed Hastings氏は、2011年にメキシコ等を含むラテンアメリカ43カ国で順次サービス展開することを発表した。また2011年第4四半期にサービスの提供が開始された英国やアイルランドを皮切りに、Netflixは北欧諸国やオランダ等、欧州でのサービス展開を急速に進めた。


ラテンアメリカ諸国においては対象各国の総世帯数が1億5,000万を超えるという、潜在的な市場規模の大きさが参入の主な要因だったようだ。参入当初でも約4,000万世帯がブロードバンドを保有していたが、ラテンアメリカ諸国における急激な経済成長により中流階級層が増えていることを考慮すると今後の更なる成長が期待できること、そしてハリウッドのコンテンツが同市場の気質に合うことなどを要因として挙げている。


一方、英国でのサービス開始当時の世帯数は2,600万と市場規模はそれほど大きくない。また既にSky GoやBBCのiPlayer、AmazonのLOVEFiLMなどのサービスが展開されているなど競合が多い。これは裏返せば、コンテンツをオンデマンドで視聴するという文化が根付いていることを意味している。そしてその影響を反映してか、英国での提供開始当初の伸び率はカナダの時よりも急速だったとしている(図3)。



【図3】米国以外のNetflix契約者数

【図3】米国以外のNetflix契約者数

(出典:SNL Kagan調べ)


このように、各国の特性を学び、それに対応しながら急速に展開国を増やした結果、Netflixは2015年3月末時点で世界50カ国以上へ提供している。そして特に注目すべきはその米国以外での契約者数であろう。2015年3月末時点で、米国外の契約者数が全体の3分の1を占めるようになっている。Netflixは2017年までにサービス提供国を200カ国まで引き上げる目標を掲げており、同社CEOのHastings氏およびCFOのDavid Wells氏は、「グローバル展開戦略において過去数年で可能な限り速やかに拡大を進めている一方で、全体でみれば黒字となっている。この調子で行けば我々の想定より早く今後2年で目標を達成できると信じている。」として、今後も契約者数拡大に向けた取り組みは更に拡大するとみられている(図4)。


【図4】米国内外のユーザー数割合

米国内外のユーザー数割合

(出典:BI Intelligence)


今秋日本進出するNetflixの狙いとは


Netflixが足早に進めるグローバル戦略の対象国の一つに日本も含まれている。Netflixは2015年2月に、同年秋より日本でのサービス提供を開始することを明らかにしている。本原稿執筆時点で、内容や料金、対応機器等詳細については発表されていないが、日本支社を設立し、オリジナルコンテンツを含む海外の作品に加えて日本の映画やテレビドラマも配信していくとみられている。


一方で、2011年にはNetflixのライバルであるHuluが初の海外進出国として日本を選んだ。その理由は、日本の消費者からの要望に加えて、ブロードバンド環境が充実していることであった。しかし、Huluは2014年、日本法人を日本テレビに売却している。この背景には、テレビ視聴に料金を支払うのが当たり前の米国と違い、無料で多数の上質なコンテンツを視聴できる日本において、あえて動画視聴にお金を払う人はまだまだ少ないということがあるようだ。
ライバルであるHuluの動向をNetflixが知らないはずはない。Huluの取り組みを知りつつも、Netflixがアジア進出にあたっての第1カ国目に日本を選んだ理由はどこにあるのか。


Netflixのデバイスパートナーエコシステム担当VPであるScott Meyer氏は、他国進出時同様、日本進出にあたり日本の視聴動向等に関する相当の調査を行ったと語っている。そして、その調査結果をもとに同社の強みであるレコメンド技術を用いて日本の視聴者に合った作品を提供できると自信を見せている。


また、海外のコンテンツを日本で配信するだけではなく、日本のコンテンツのラインナップの充実を図るとともに、日本でのオリジナルコンテンツの制作も視野に入れているという。Netflixはその価値について、世界中のNetflixユーザーに日本のコンテンツを広めることができることをアピールしている。


これまでのNetflixの取り組みおよび日本進出時の発言等を考慮すると、Netflixはコンテンツ狙いで進出してきたと考えるのが妥当だろう。特に日本のアニメは世界的に評価が高く、また、日本のドラマも韓国や台湾を中心に何作もリメイクされてアジア諸国で放送されている。仮に日本で契約者を獲得するのに苦戦したとしても、上質な日本のコンテンツを世界中に配信できるようになれば、日本以外でNetflix契約者を獲得する十分な「魅力」になりうるのだ。
更に、Netflixが日本のクリエーター等とタイアップしてオリジナルコンテンツを制作すれば、日本の契約者獲得に繋がる可能性さえある。事実、過去には日本でヒットしなかった『Transformer』が米国で大ヒットとなり、日本に逆輸入された例もある。


Netflixは、東芝がテレビのリモコンにNetflix専用ボタンを設置したことを紹介し、Netflixへの期待度が高いことを強調しているが、これもメーカー側の先を見据えた動きであり、Netflixにとって当面は日本における契約者獲得は二の次だろう(図5)。


グローバル展開を積極的に行い、米国外契約者数を急速に増やす中、Huluが苦しんでいる日本市場でNetflixが具体的にどのような展開をみせるのか、今後も注目したい。


【図5】東芝REGZA J10のリモコン

東芝REGZA J10のリモコン

(出典:CNET)

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