2017年5月2日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

春節(旧正月)期間のWeChat(微信)ビッグデータにみる中国人の行動様式



日本のLINEに相当するメッセージングアプリは、世界各国で既に生活の中にこの数年で深く浸透している。中国で利用されるメッセージングアプリと言えば、「WeChat(中国では「微信」。本稿では以降「微信」と表記する)」だ。「微信」は中国以外の国にも広がっているが、全世界で8億4,600万人のアクティブユーザー(2016年11月、Tencent(騰訊科技)の公式発表値)を擁する世界最大級のメッセージングアプリであり、中国のスマートフォン(以下、「スマホ」)ユーザーのほぼ全員が使っていると言ってもよい。

一方、中国をはじめ大半の東アジア諸国では旧正月を祝うが、1~2月の間で毎年その時期が動く。2017年の旧正月の新年(中国語で「春節」)は1月28日(土)(元日は「初一」と呼ぶ)であった。今回の春節では大晦日(「大除夕」)1月27日(金)から2月2日(木)の7日間が公定休日とされた(前後の土日の一部が出勤日に振り替えられる)。

2017年春節カレンダ

【図1】2017年春節カレンダー(出典:天気万年暦)

この時期、大量の中国人が里帰りや国内旅行、海外旅行などで移動し、交通機関が大混雑することを「春運」などと呼ぶ。以前は「春運」と言えば、鉄道の大混雑が有名であったが、現在では公共交通機関だけでなくマイカーやレンタカー、さらには最近では米国のUberに相当するシェアリングエコノミー系サービスも人気で、様々な交通手段の利用に混雑は広がっている。インバウンドで日本に旅行に来る中国人が特に多いのもこの時期だ。

移動に関わる予約や新年の挨拶など、今日ではインターネットを利用して行われるのが当たり前の時代になったが、大量に移動したり連絡を取り合ったりする中国人のデータがビッグデータとして収集される中、その代表的な連絡・決済手段である「微信」のようなメッセージングアプリが蓄積したデータに関する様々な分析を、「微信」の運営会社Tencentをはじめ、政府機関や市場調査会社が春節期間終了後に公表している。本稿ではそのようなデータをいくつか紹介してみたい。身近なビッグデータをもとに意外な側面がわかったり、後述するメッセンジャーの付加アプリである中国独特の「紅包」(日本の「お年玉」に近いが少々異なる)で、この時期には人だけでなくおカネも相当ネット上で動くことがよくわかったりするなど非常に興味深いデータが紹介されている。

1.春節期間のモバイルインターネットトラフィック

一つ目としては、ICT分野の監督官庁でもある工業・情報化部(MIIT)が発表した公式データを紹介したい。春節期間(1月27日~2月2日)におけるモバイルインターネットのデータ消費量は2億5,901万GBで、2016年の2倍に拡大したという。数値をみただけではわかりにくいが、このデータ量は、1TBのモバイルハードディスク約25万枚に相当するそうだ。MIITでは、この拡大要因として、スマホの普及、インターネットの高速化、またデータ料金の値下げや春節期間の特別プランの提供、新年お祝いのメッセージングアプリ利用拡大など多くの要因を挙げている。大晦日当日のモバイルデータ消費量は3,598万GBに達し、前年比88.4%増。データ量が最も多かったのは元日で、3,990万GBだったという。

一方、春節期間の7日間で、従来のショートメッセージ (SMS) の全国合計の発信量は116億通、前年比16.9%減、携帯電話通話時間累計は647億分で同11.8減、大晦日のSMS発信量は31.9億通で同32.8%減となるなど、かつて主力であったSMSによる新年の挨拶は大きく減りつつあり、メッセージングアプリなどに移行していることがよくわかる。中国最大のモバイルキャリアである中国移動 (China Mobile) によると、同社の大晦日、元日2日間のデータ消費量は61,638TB、前年比102.7%増と倍増した一方、SMSは44.1億通で同27.6%減、通話時間は144.9億分で、同16.3%減と、ネットとSMSが対照的な動きをみせていることがここでもわかる。

なお、MIITによれば、春節期間は毎年「通信保障期間」として、セキュリティレベルを特に上げる期間になっているが、全国のネットワーク運営は安定しており、重大な故障やクレームはなく、サイバーセキュリティの面でも重大なインシデントは発生していないと併せて報告されている。

2.「微信」が示す中国人の国内流動と海外旅行

WeChat Payment(微信支付)支払画面

【写真1】都内の日本交通グループのタクシー内でのWeChat Payment(微信支付)支払画面
(出典:アプラスフィナンシャル)

次に「微信」が発表した「2017年微信春節データレポート」をみてみたい。大晦日(1月27日)から新年5日目の2月1日までに、「微信」利用者のうち800万人が海外旅行のため出国したという。渡航先の上位は、香港、台湾、米国、日本、マカオであった。また、海外旅行に出た「微信」ユーザーのキャッシュレス支払いがますます活発になっていることも注目点としている。韓国、タイ、香港、日本、台湾が春節期間中の海外での「微信支付(WeChat Payment)」の利用者上位5カ国・地域であるが、実際、東京にいても様々なお店で「微信支付」やアリババ(阿里巴巴:Alibaba)が提供する「支付宝(Alipay)」のステッカーをみかけるようになった。東京の一部タクシーでもこれらで支払いができるようになったところもある(写真1)。

当然のことながら、これら以外に中国国内の各省間のこの期間の流入・流出人口を「微信」ユーザーの移動データをベースに様々に分析した結果も公表されている。例えば、出稼ぎの労働者が多い省や市がどこであるかもこの時期の人の移動を見ると一目でよくわかる。

中国国内の春節前の人口流出・流入状況イメージ

【図2】中国国内の春節前の人口流出・流入状況イメージ。
この時期2.9億人の微信ユーザーが国内移動している
(出典:新浪科技(「2017微信春節数拠報告」より引用))

3.中国独特の習慣、正月の「紅包」とFinTech?

「微信」のレポートでは、当該6日間で、微信による「拝年紅包」の発信総数は460億通であり、昨年同期43.3%増と大幅拡大したという興味深いデータがあった。「拝年紅包」といっても日本人の感覚では一般にわかりにくいので説明しておこう。まず「拝年」とは日本語で言う年賀、「紅包」とは、正月に限らず、親類や友人などの間で「ご祝儀」のような感じでおカネを送り合う習慣である。もともとは赤色の袋に入れていたことに由来しているが、最近はそれがデジタル化されていて、「微信紅包」は人気アプリの一つとなっている。特に正月にやり取りする「拝年紅包」は日本のお年玉に近いイメージであるが、日本のように必ずしも年長者から子供や孫に渡すだけではなく、親しい友人同士でも交換し合うのはある意味非常に中国らしい習慣だ。「紅包」のような個人間のおカネのやり取りは、例えば飲み会の割り勘などでもその機能が使われており、流行のFinTechの一分野としてもカウントされる(図3「微信紅包」の例)。

「微信紅包」アプリ画面

【図3】「微信紅包」アプリ画面の例(出典:華商数碼)

「微信紅包」が始まってから今年で4回目の春節を迎えたが、前述したとおり、今回の春節期間で「微信紅包」の発信数は460億通、前年比43.3%の大幅増という。個々の送金するおカネ自体は少額であるものの、この規模になると動くおカネは莫大な量になる。レポートでは中国各省間の「紅包」の発着信量も分析している。このうち広東省から湖南省への発信が最多で、これに湖南省⇒広東省、広東省⇒広西チワン族自治区、広西チワン族自治区⇒広東省、北京市⇒河北省と続いている。この習慣は広東省を中心にした南方の富裕な省の間で行われていることが多いが、出稼ぎ先と実家との関係にも類似しているようだ。また、広東省は58.4億通という紅包発着信通数では断トツに大きく、春節期間の「紅包大省」と評価されている。これに続くのは江蘇省の29.3億通、山東省26.4億通、河北省24.2億通、浙江省24.2億通などとなっており、こちらは沿海部の先進的な各省が上位に並んでいる。

4.「紅包」から見た最近の中国人の春節

微信紅包」の男女別送信比率(1月27日~2月1日)

【図4】「微信紅包」の男女別送信比率(1月27日~2月1日)
(出典:新浪科技(「2017微信春節数拠報告」より引用))

春節に「紅包」を送り合う年齢層をみてみると、同世代間の「紅包」の往来が最も活発であり、特に「80後」(1980年代生まれ、以下同)と「90後」が主体になっている。「80後」相互間の紅包発信が最多で、これに「90後」相互間、「80後」→「90後」、「70後」相互間、「90後」→「80後」が続いている。「紅包」利用者全体としてみれば、20~40代で9割近くを占めている。男女の性別相互間でみてみると、「紅包」を男性同士で送り合う比率は32.4%で、女性同士の25.5%より多い。男性から女性への発信数は24.6%、女性から男性へは17.5%だ。同性同士の「紅包」交換的なものが最も多いが、このあたりは中国人男性特有の見栄っ張りもあるかもしれないが、日本でも共通する晩婚化、若年層の貧困化傾向とももしかしたら関係してくるのだろうか(図4「微信紅包」の男女間発信構成比)。一方、大晦日と元日の2日間で、「微信」ユーザーの音声・ビデオ通話時間が21億分に達している。このうち、男性が女性に発信した音声・ビデオ通話が31%を占め、男女の組み合わせで最も多くなっている。これに続くのは女性同士の通話で29%、女性から男性への通話26%、男性同士の通話が14%となっている。このあたりの傾向は日本人の感覚とも合致するところであり、ある意味安心できるデータだ。

微信」の春節用スタンプ

【図5】「微信」の春節用スタンプの例(出典:新浪科技(「2017微信春節数拠報告」より引用))

今回の春節では、「微信」の年賀スタンプ(中国語で「表情」)と音声・ビデオ通話機能が新春を祝い、年賀を共有する最も便利なツールとなっていると分析されている。春節期間で「微信」ユーザーが送ったスタンプは160億通、うち37%が「90後」から発信され、微信スタンプの最大のプレイヤーだ。「鶏年大吉」のスタンプが最大の人気となったという(図5)。

本稿では、中国人の大半が利用していると言っても過言ではない「微信」などのビッグデータをもとに、その正月における人の移動や習慣を分析したレポートから興味深いと思われるデータを紹介した。ちょうど1月半ばに日本政府観光局 (JNTO) が2016年年間のインバウンド速報データを発表しているが、中国からのインバウンド数は過去最大の637万人であったものの、一昨年までの「爆買い」は明らかに下火になるなどの変化がみられる。前述したような「微信支付」により買い物や移動も、よりスマートになったかもしれないし、行動様式もより日本人に近く落ち着いたものになってきたのかもしれない。これまで感覚的には何となくわかっていたものが数値化されることにより、これに合わせたマーケティングは当然のことながら、社会的課題との関連性にもつながってくる。ビッグデータはこのような身近なところから親近感を覚えることを通じ、その有用性や適用範囲の広さをいかに知らしめていくかが弊社のようなシンクタンクの役割ではないかとこの記事を書いていて改めて思ったことだ。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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