はじめに
今年で2011年の東日本大震災から15年となる。この間にも、熊本地震や能登半島地震など数多くの災害が発生した。今後も首都直下地震や南海トラフ巨大地震などの発生が予想されており、社会全体の防災・減災意識をさらに高めていくことが求められる。
政府も2025年12月に「防災立国の推進に向けた基本方針」[1]を閣議決定し、徹底した事前防災と発災時から復旧・復興までの一貫した災害対応の司令塔となる組織として「防災庁」を設置する方針を示した[2]。防災庁の業務としては、デジタル防災技術の徹底活用や戦略的な防災情報発信などが挙げられており、デジタル技術を活用した防災・減災の取り組みが進むものと期待される。
このような状況を踏まえ、本稿ではデジタル技術の活用にも着目しつつ、防災・減災を取り巻く現状について整理したい。
災害発生時の行動
大地震が起きた際に人々はどのような行動をとるだろうか。首都直下地震で強い揺れが予想される神奈川県で行われたアンケート調査によると、深夜に大地震が発生した場合に真っ先に取る行動として、「自宅内や周囲にいる家族などの無事を確認する」や「火の元を確認したり、火の始末をする」との回答が多く挙げられた。次に取る行動としては、「外への出口を確保する」や「テレビやインターネットなどで地震や津波に関する情報を入手する」が多数を占めた。少し落ち着いてから取る行動としては、「室内に散らばったものなどの後片づけをする」や「電話やメール、SNSなどで、離れた場所にいる家族や親戚・知人の安否を確認する」との回答が多かった。この結果から、地震発生後すぐに避難するのではなく、まずは情報収集や後片づけを行い、その後、必要に応じて避難をするという意識を持つ人が多いことがわかる(図1)。

【図1】大きな地震直後の行動(深夜)*
* 津波危険区域の住民に限定した結果も大きな違いは見られない。
(出典:神奈川県「地震被害想定調査報告書(令和7年3月)」https://www.pref.kanagawa.jp/docs/j8g/cnt/f5151/p15579.htmlをもとに作成)
災害の中でも地震は予期せず発生するものであり、津波や火災による被害を最小限に抑えるためには迅速な避難が求められる。その実現に向けては、災害の規模や発生場所に加え、災害現場の状況、避難の必要性などをリアルタイムに伝達することが重要となる。また、住民自身がそれらの情報を把握したうえで、自ら判断し、行動に移すことが求められる。
ハード対策とソフト対策
近年、自然災害が激甚化しており、これまでのハード対策(ダム・堤防などの物理的施設による防御)だけで被害を完全に防ぐことには限界が生じている。そのため、ハード対策とソフト対策(ハザードマップ、避難訓練、防災教育等)を組み合わせた「減災」への転換が進められている。ソフト対策は、デジタル技術(AI、IoT、SNS等)との親和性が高く、これらを適切に活用することで、情報収集・共有の迅速化、被害予測の高度化、避難所運営の効率化、住民への効果的な情報伝達などを実現できると期待されている。
現状の対策に対する重要度と満足度について、国土交通省が行った調査によると、「堤防やダム等の事前のインフラ施設整備」や「被災者の迅速な住まいの再建」などのハード面の対策に加え、「想定外の台風等に対する気象情報の高度化」や「災害予測や被災状況、復旧状況の情報を迅速に収集する手段」といったソフト面の対策についても重要度[3]が高くなっている。一方で、対策への満足度については、全体として50%前後とやや低めの項目が多い。その中でも、「SNS等を通じた情報発信」や「災害予測や被災状況、復旧状況の情報を迅速に収集する手段」、「浸水エリアなど災害リスク情報の整備・高度化」といったソフト面の対策に対する満足度は相対的に低い水準にとどまっている。このことから、デジタル技術を活用した一層の対策の充実が求められているといえる(図2)。

【図2】防災・減災対策に対する重要度と満足度
(出典:国土交通省「令和5年版 国土交通白書」https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r04/hakusho/r05/html/n1114000.html)
避難意識の向上による効果
次に、防災・減災対策の効果について見ていきたい。南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループが行った推計によると、津波による死者数は、堤防・水門などのハード対策によって半数程度に減らすことができるとされている。さらに、ソフト対策によって避難開始の迅速化ができれば、死者数を約9割減少させることが可能であると推計されている(図3)。

【図3】防災・減災対策の効果(東海地方が大きく被災するケースの場合)
(出典:内閣府防災情報のページhttps://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h25/71/news_01.html)
実際、東日本大震災の際も、岩手県釜石市の鵜住居小学校と釜石東中学校にいた児童・生徒約570人が、ハード対策では防ぎきれなかった津波に対して、迅速かつ臨機応変な行動を取ることで、全員が無事に避難することができたとされている[4]。ハード対策に頼るだけでなく、自助・共助を組み合わせたソフト対策がいかに重要であるかが分かる。自宅以外の場所で地震に遭遇する可能性もあり、誰もが津波への意識を持ち、迅速な避難を心がけておく必要がある。特に土地勘のない地域では、避難場所や避難ルートが分からないことも多いため、そうした情報をいかに迅速に入手できるかが重要となる。
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デジタル技術の活用
まとめ
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
[1] https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bousaichou_ preparation/kihonhoshin/pdf/r71226_honbun.pdf
[2] 防災庁については2026年度中に発足する見込みとなっている。
[3] 「とても重要である」、「やや重要である」と答えた人の割合。
[4] https://www.fdma.go.jp/relocation/e-college/cat63/cat39/cat22/3.html
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鷲尾 哲の記事
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