ICTが変える授業の形 ~複線型授業とICT
はじめに
前回は、GIGAスクール構想の現在地を整理するとともに、NEXT GIGA時代の方向性について考察した[1]。本稿では、それらを踏まえ、ICT活用がもたらす新しい授業の形として注目を集めている複線型授業について見ていくこととする。
複線型授業とはなにか
複線型授業とは、個別学習[2]・協働学習[3]・一斉学習[4]が同時並行的に行われる中で、児童生徒が自ら学びの方法や教材を選び取り、主体的に学習を進めていく授業の形態である。
ここで示されている個別学習や協働学習といった学習スタイル自体は、従来の授業においても取り入れられてきたものであり、それ自体は目新しいものではない。では、複線型授業の従来型の授業との違いは何かといえば、児童生徒が自らの意思で学びの方法などを選び取るという点である。これは、先生主導による画一的な授業か、児童生徒の自主性を尊重する多様な授業かという違いである。
例えば、先生から「今から3分間で自分の感じたことをノートに書きましょう」「班に分かれて話し合い、その結果をまとめて発表してください」といった指示を受けた経験は、多くの人にあるだろう。従来型の授業では、そうした先生の指示に基づいて、クラス全員が同じ学習方法を、同じ時間をかけて行うことで授業が進行していく。このように従来の授業は学習の進め方が画一化されていることから、「単線型授業」と捉えることができる。単線型授業では、授業の主導権は先生側にあり、児童生徒は受動的に指示に従う形となっている。
こうした従来型授業におけるICTの利活用を見ても、授業の進行と同様に、先生の指示に基づいてクラス全員が一斉にICTを用いることが多い。ICTを「いつ」「どこで」「どのように」使うかの判断は先生側にあり、児童生徒はそれに従ってICTを利用しているのである。
一方、複線型授業では、「自分で教科書や資料を用いて情報を収集・整理する(個別学習)」「友達と話し合って考えを深める(協働学習)」「よく分からない点を先生に聞いてみる(一斉学習)」といった複数の選択肢の中から、児童生徒が自分にとって必要な学習スタイルを選び取り、自分のペースで学習を進めていく。その結果、同じ教室内において、個別学習・協働学習・一斉学習が同時並行的に展開され、児童生徒の活動も一人一人異なる形で行われることになる(図1)。

【図1】複線型授業の教室イメージ
(出典:一般社団法人日本教育情報化振興会「先生と教育行政のためのICT教育環境整備ハンドブック2025」(2025年6月))
例えば、Aさんはひとりで個別学習に取り組み、BさんとCさんは協働学習を行い、Dさんは一斉学習を受けるといったように、児童生徒は自分の理解状況や興味・関心に応じて、どのように学ぶのかを主体的に選択していくことになる。もっとも、Aさんは個別学習のみを行うわけではなく、学習の途中で誰かと話し合うこともあれば、先生から指導を受けていたDさんが、その後個別学習へと移行することもある。
このように、複線型授業における主導権は児童生徒の側にあり、児童生徒一人一人が、自ら学び方を決めて自分のペースで学習を進めながら、与えられた学習目標や課題を達成していく点が、従来の授業との大きな違いといえる。
また、複線型授業では、活用する学習教材についても児童生徒の興味・関心に応じた選択が尊重される。教科書や副教材はもちろん、学校や図書館の図書、インターネットによる情報検索、さらには生成AIの活用を認める事例も見られる。このため、ICTの利活用についても基本的には児童生徒自身の判断に委ねられており、この点においても、先生主導で進められることの多い従来型授業とは明確な違いがある。
複線型授業の肝となる「他者参照」
複線型授業の実践にあたり重要なキーワードとなるのが「他者参照」である。他者参照とは、他人の学習の進捗状況やアウトプットを、いつでも自由に見て、参考にすることを認める考え方である。
複線型授業では学習の主導権が児童生徒にある一方で、すべての児童生徒が常に自律的に学習を進められるわけではない。何をすればよいのか分からない、どのように進めればよいのか分からないといった場合に、友達の進め方やアウトプットを参照したり、やり方を聞きに行ったりすることで、自分に合った学習アプローチを見つけ、自分の考えを整理していく。
これは、いわば「カンニングをしてもよい」という考え方であり、従来の授業観からすれば考えられなかったことであろう。しかし複線型授業では、あえて「他者参照」を認めることで、学習のヒントや気付きを得やすくし、学習の停滞を防ぐとともに、成果物のブラッシュアップにつなげている。
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複線型授業がもたらす効果
複線型授業を支えるICT
授業や学びの質の向上に資するICT活用を
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
[1] 本誌2025年11月号「ICTが変える授業の形~NEXT GIGAにおけるICTの現在地とこれから」参照。
[2] 調べもの学習や、自分の考えをまとめる思考を深める活動など個人で行う学習活動。
[3] グループで話し合う、教え合う、お互いの考えを一つにまとめ上げるなど、複数人で協働して行う学習活動。
[4] 主として教員から児童生徒に対して一方的に教授する知識伝達型の学習活動。
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