世界の街角から:香港・上海で見たICT的風景 | InfoComニューズレター
2018年7月27日掲載 ICT利活用 InfoCom T&S World Trend Report

世界の街角から:香港・上海で見たICT的風景


【写真1】1990年、「香港カーブ」を下から撮影(出典:本文中の写真は、一部記載のあるものを除きすべて筆者撮影)

いきなり30年近く前の写真で恐縮だが、写真1は、かつて香港市街地のすぐそばにあった啓徳(Kai Tak)国際空港の手前で行われていた、マニアの中では「伝説」とされる「香港カーブ」を下から撮影したものだ。山と海に挟まれた特殊な地理的条件のため啓徳空港へのアプローチは、市内の密集地に林立する高層住宅の屋上をかすめるように飛び、海へ突き出た一本しかない滑走路のすぐ手前でのほぼ90度の急カーブするというパイロットに極度の緊張を強いる空港ということで有名だった。「100万ドルの夜景」香港のネオンが点滅しない理由は、航空機の離着陸に影響を与えないためであったことも当時よく知られていた。

そんなわけで、香港は筆者が約35年前に初めて訪問した外国であり、その後も数年に1回は行っており、個人的には特に好きな場所のひとつだ。今号の「世界の街角から」では、本誌6月号「『中国のシリコンバレー』・深圳~中国ICT市場のイノベーション最前線」を書くにあたり超短期取材のため私的に深圳とともに訪れた香港と上海を中心に、その違いなどを意識しつつ、それらの地で見かけた風景をICTと少し関連付けながら紹介したいと思う(とはいうものの、ICTと関係のないものも結構あるのでそこはご容赦いただければ)。

間もなく開通する香港~珠海~マカオ大橋

現在の香港の空の玄関口は、冒頭に述べた昔の啓徳空港ではなく、香港の中国返還直前に開港、既に20年が経過したランタウ島に接する巨大な香港国際空港だ。香港ディズニーランドやICT関係のイベントも多い国際会議場も近くにあるので、多くの方が訪れたことがあるかもしれない。現在空港はさらに拡張工事が行われており、この地域の一大ハブとして発展が続いている。

港珠澳大橋

【写真2】香港~マカオ間をつなぐ全長35km「港珠澳大橋」の完成も間近

空港から香港島や九龍(Kowloon)などへの市内中心部へは特急電車で20分程度と非常に便利だ。その車窓から写真2の建設中の橋が見えた。この橋は「港珠澳大橋」(Hong Kong-Zhuhai-Macau Bridge: HZMB)と呼ばれ、香港~珠海~マカオを結ぶ総延長35km(一部海底トンネルを含む)の世界最長レベルの橋になる。2018年中には開通が予定されており、現在中央政府の検収待ちであり、それが終われば正式開通されるという。これまで香港~マカオ間は高速船でも1時間近く要していたが、この橋ができれば30分程度と大幅に短縮されることになる。この大事業は「珠江デルタ地域」大開発プロジェクトのひとつであり、中央政府は香港・マカオ・深圳・珠海・広州など成長著しい広東省南部の主要都市を一体化させてさらなる成長を狙っているという。ただ、香港在住約20年、香港で広東語を研究する日本人の旧友に聞いたが、香港人は必ずしもこの橋の開通を喜んではいないという。「一国二制度」が保証されていたはずの香港がこの橋でより一層中国大陸と一体化して取り込まれ、香港の独自性が薄れていくことに危機感を覚える香港人も少なくないそうだ。

「港珠澳大橋」のルート

【図1】「港珠澳大橋」のルート(出典:playnews)

ところで、香港で公共交通機関に乗るときは、八達通(Octopus)カードが非常に重宝する(写真3)。Suicaなどと同じFeLiCaなので、日本人にも使いやすい(八達通が世界で初めて1997年にFeLiCaを採用)。前回の香港訪問から4年以上が経っていたが、空港駅で簡単にチャージして使うことができた。このカードがあれば香港の鉄道、地下鉄、バス、路面電車、後述するStar Ferry(天星小輪)などあらゆる交通機関で利用できるほか、コンビニなどでも利用可能で、ほとんど現金を使わなくて済む。中国大陸ではQRコード決済が既に相当程度浸透していることはよく知られているが、香港ではほとんど普及していないのは、この八達通の存在によるものだ。一方、ローカルのレストランには八達通未対応なところも多く、このあたりは日本との共通性が感じられる。

八達通(Octopus)カード

【写真3】八達通(Octopus)カード
(出典:Octopus)

香港で感じる日本

香港といえば、言い尽くされ気味であるが、やはり「100万ドルの夜景」であろう。何回来ても、この夜景には感動させられる。初めて行ったときから香港で投宿するのは毎回九龍側の尖沙咀(Tsim Sha Tsui)あたりだが、そこから対岸の香港側へは、必ずStar Ferryに乗って行っている。地下鉄でももっと早く行けるが、片道10分程度のレトロなフェリーに揺られながら眺める夜景はやはり格別だ(写真4)。ネオンの点滅が禁止されていた時代とは違い、グラデーション的に色が変化する超高層ビルなど、巨大なプロジェクションマッピングを見ているようだ。その後ろではICTが相当活躍しているに違いない。

Star Ferryから見た香港の夜景

【写真4】Star Ferryから見た香港の夜景

九龍側の港には、写真5のような停泊中の大型クルーズ船が見えた。詳細は分からないが、中国大陸の富裕層などもこれに乗って世界一周や、その途上で日本にもインバウンド客として多数やってきているのかもしれない。英国統治時代からの長い歴史のある古いStar Ferryから見ると、過去と未来が同居しているような不思議な感覚だ。Star Ferryで香港島側の中環(Central)に着くとすぐ先には写真6のような巨大なApple Storeが見える。建物の下には道路が突き抜けており、未来都市のような趣を感じさせてくれる。

クルーズ船

【写真5】停泊中のクルーズ船

香港のApple Store

【写真6】香港のApple Store

10数年前、まだ「インバウンド」という言葉が訪日観光客という意味で使われていないとき、香港で現地法律事務所の女性弁護士とミーティングしたことをふと思い出した。彼女は既に当時何度も北海道に遊びに来たことがあり、Hello Kitty関連のお土産を持っていくととても喜んでいた。香港にはそのような年季の入った日本贔屓の人が特に多いが、今回投宿した付近にある日系ラーメン店を見てもその認識を新たに強くする。日本でも人気店と思われる熟成とんこつラーメン店「一蘭」(写真7)に立ち寄ってみたら、昼食ピーク時をとうに過ぎた時間帯だったのに、長蛇の行列で入れなかった。人気ラーメン店に並んで入るという習慣が当たり前にあると思わせる情景はなぜか日本人にとっても嬉しい(が、筆者はこういう場合普通は並ばない)。代わりに、近くの「三田製麺所」でつけ麺をいただいた(写真8)。こうした写真を掲載すると、「日本のラーメン屋の写真をそのまま使っていて『世界の街角』ではないのではないか」と疑いをかけられそうだが、帰路の香港空港内の売店にある日本の観光ガイドブックの山(写真9)を見ていただくと、日本文化がそこまで香港に浸透していることに納得していただけるだろう。香港人の「日本通」はそれほどレベルが高いということだ。なお、個人的には、香港ローカルなお店でつたない広東語で注文しながら食べる方が好きなことは言うまでもない(写真10)。

一蘭

【写真7】行列で入れなかったラーメン「一蘭」

三田製麺所のつけ麺

【写真8】三田製麺所のつけ麺

香港空港の書店

【写真9】香港空港の書店の日本各地の観光雑誌

牛肉トマト麺

【写真10】ローカルな牛肉トマト麺

上海と深圳のICT的風景から

前月号の記事にも書いたが、深圳は香港中心部から電車で1時間程度で行けるものの、やはりその空気は全然違う。深圳も上海もそうだが、大陸の大都市は高層ビルが林立した巨大な街割りが多く、どこも似ている感じがするし、目的地の建物がすぐそこに見えても実は歩くと相当時間がかかったりすることもしばしばだ。だが、「ITっぽさ」をより強く感じるのは、今では香港よりもやはり大陸の都市の方だと感じる。

深圳では写真11のような、交番と銀行のATMが併設されているものを見た。「警務e站」というらしい。ATM利用者は横に警官が常時いるので安心してお金をおろせる。キャッシュレス化が進み現金を使う場面が少なくなったとはいっても、深圳は中国各地から職を求めて大量の人が集まっていることもあり、治安の悪化がその背景にあるのだろうか。

交番とATMの融合

【写真11】交番とATMの融合@深圳

今中国といえば、Alipay(支付宝)やWeChat Pay(微信支付)といったQRコード決済によるキャッシュレス化の話題が多いが、それに関係する光景は街中で本当に当たり前のように見かける。写真12はお店の前に置いてある典型的なQRコード決済の表示だ。写真13は上海の早朝の風景であるが、朝から外食が普通の中国人がローカルなマントウ屋でQRコード決済を駆使しながら朝食を買っていくところである。結構な人数が列を作っているものの、1人当たりにかかる時間はQRコード決済のおかげですこぶる高速だ。日本円にすると1食数百円程度の金額であろうが、小銭を使わないことで回転が速く、店員も食べ物の提供の方に集中でき、衛生的にもこの方が好ましい。日本で朝のコンビニに並ぶと相変わらず現金客が多く、かなり前から電子マネー一本の筆者からすると辟易することが多いが、このQRコード決済の「軽さ」はその現場を見ると改めて使い勝手の良さを認識させてくれる。

QRコードの表示例

【写真12】QRコードの表示例(生ジュース屋@上海)

QRコード決済

【写真13】QRコード決済で朝食のマントウ@上海

QRコード決済以外で最近の中国ICT市場で話題になることといえば、シェアリングエコノミー関係だろう。上海の早朝、ホテル近くを散歩していると、噂のバイクシェアの自転車が多数並んでいるのを見かけた(写真14)。この写真では判別が難しいが、手前の赤色の一台がMobike(摩拝単車)奥の数台が黄色のOfoで街中で目につきやすい、この分野シェアトップの2社の大量の自転車は表通り裏通り所構わず停めてあるのを目にすることができた。その台数はパッと見でも供給過剰だ。乗り捨てられて相当時間が経過して埃をかぶっている自転車も少なくない。自転車があまりにも増えすぎて社会問題化しているとも聞く。この無秩序感は中国らしいといえばそれまでだが、中国の時間の経過のスピード感をも感じさせる。

シェアサイクル

【写真14】街中に溢れるシェアサイクル

早朝に見かけた光景としてもうひとつ、同じ色のユニフォームを着た集団がいくつか朝礼していた(写真15、16)。なんだろうと思って見ると、黄色のユニフォームは「美団(Meituan)」、青色のユニフォームは「餓了麼?(Ele.me)」(「腹減ったか?」の意味)という出前デリバリーの大手2社の朝礼で、遠目からもよく目立つ。両方とも責任者が注意事項などを訓示し、「隊員」はこれから荷台付の電気自転車などで恐らく担当エリアに出発していくところだ。筆者の宿泊したホテルでも、食べ物のデリバリーを持ってきたものの注文主と連絡がとれなくて難儀している「隊員」を見かけたが、両社は食べ物のデリバリの他にも様々な商品のラストワンマイルの宅配の一部を兼ねているようだ。最近この「美団」はサイクルシェアの前述Mobikeを買収したらしい。こうしたシェアリングエコノミー分野の展開も中国では本当に高速で、正直実態の理解が難しい。

「美団」の朝礼

【写真15】「美団」の朝礼

「餓了麼?」の朝礼

【写真16】「餓了麼?」の朝礼

シェア傘マシン

【写真17】シェア傘マシン

シェアリングエコノミーという点では、地下鉄の駅で写真17のようなシェア傘のマシンを見つけた。QRコード決済の急速な進展も相まって、中国では短期間で自販機が急速に増えた。数年前に見かけた上海蟹の自販機がまだあるのかは不明であるが、いろいろなものを市場で試してはその反応を見てその先を決めるという「緩さ」あるいは高速PDCAを感じるこの状況は日本と中国の大きな違いだ。街角で目にするICTという点においては、前半の香港はそういう意味では感覚的に日本に近いものを感じるが、上海そして香港からすぐ近くの深圳では、やはり違う世界に来たという印象を筆者は受ける。どちらが良いとは軽々に言えるものではないが、最近の内外の雰囲気をみると「内向き」を感じる昨今、日本のすぐ近くで起きている変化について、是非肌感覚で感じる機会をお持ちになるのはいかがだろうか。

 

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

ICR|株式会社情報通信総合研究所 情報通信総合研究所は情報通信のシンクタンクです。
ページの先頭へ戻る
FOLLOW US
FacebookTwitterRSS