情報通信総合研究所では、情報通信(以下、ICT)産業が日本経済に与える影響を把握するために「ICT関連経済指標」を作成し、四半期ごとに公表しております。「InfoCom ICT経済アップデート」について2024年7-9月期がまとまりましたのでご報告いたします。
【2024年7-9月期のポイント(前年同期比)】
2024年7-9月期のICT経済は、総合指標が前年同期比3.8%増と3期連続で増加した(4-6月期:同1.2%増から2.6ポイント拡大)。財・サービス別にみると、ICT財生産とICTサービスともに3期連続で増加した。ICT財は同10.2%増と4-6月期同3.2%増から7.0ポイント拡大し、ICTサービスは同2.0%増と4-6月期同0.6%増から1.4ポイント拡大した(図表1)。
今期のICT経済は、供給サイドの財生産では集積回路(IC)の増加幅が拡大した。主な要因としては、メモリー製品の全般的な価格の上昇とデータセンター用需要の高まりが考えられる。ICT財の在庫は、在庫減少局面にあり減少幅が縮小している。また、ICTサービスは、受注ソフトウェア、通信業の増加幅が拡大し、3期連続で増加した。デジタル変革(DX)の機運に伴う企業のIT投資意欲は引き続き堅調で、システム構築(SI)事業は好調であることが受注ソフトウェアの増加幅拡大の背景にある。
需要サイドをみると、ICT消費は2期連続で増加した。スマートフォン等の本体価格は増加幅が縮小したものの、インターネット接続料は増加幅が拡大した。また、ICT設備投資(民需)は2期連続で増加した。要因としては、通信機の増加幅が拡大したことが挙げられる。特に運輸業向けの通信機が増加したが、これは運輸業のDX投資等の増加が背景にあるものと考えられる。
ICT輸出は、金額ベースでは3期連続で増加し、数量ベースでは増加から減少に転じた。品目別にみると金額ベースでは、半導体等電子部品は増加幅が拡大したものの、半導体等製造装置は増加幅が縮小した。半導体等製造装置は対地別にみると中国向けの増加幅が縮小し、対アメリカ、対中国以外のアジア向けの増加幅が拡大した。ICT輸入は、金額ベースはで2期連続で増加したが、数量ベースでは8期連続で減少している。輸出入ともに、為替変動の影響がある。品目別にみると、電算機類(含周辺機器)は増加幅が縮小したものの増加を牽引している。これは、Windows 10の延長サポート終了をきっかけにしたパソコンの更新需要や働き方改革のためのアプリケーション、セキュリティ強化のためのソリューション導入等もあわせたパソコン導入が背景にあると考えられる。
半導体市況が好不況を繰り返す「シリコン・サイクル」は回復局面にあり、足元の半導体製造装置の国内生産は外需が牽引する形で増加を維持している。これは米中貿易摩擦を背景に、地域で十分な生産能力を備える必要があるため追加需要が発生していることや、AI向けの半導体と関連の半導体メモリー需要の増加を見込んだ動きであると考えられる。
足元の動きを月次ベースでみると9月のICT財生産は前年度比5.4%増と7月の同17.4%増、8月の同8.3%増に比べ増加幅が縮小している。加えて、半導体製造装置は中国向けの輸出の増加幅が縮小傾向にある。
今後については、米国の次期トランプ政権通商政策の行方が注目される。米中の貿易摩擦が再燃する懸念、地政学リスクの高まりなど外需や景気に対する不確定要素が多い。特に、日本が強みを持つ半導体製造装置の中国への輸出規制が強まるとの見方が広がっている。中国は関連産業の国産化投資を進めており、中国の新興メーカーの歩留まり(良品率)は改善が進んでいる。こうした動きを受けて、中国向けの売上高の増加には一服感があるとの見方もでている。
【2024年7-9月期の動向】
(ICT経済総合)
- 国内ICT経済は前年同期比3.8%増と3期連続で増加し、前期(4-6月期)に比べて2.6ポイント拡大した(図表1)。
(ICT財)
- ICT財は前年同期比10.2%増と3期連続で増加し、前期(4-6月期)に比べて7.0ポイント拡大した(図表1)。
- 集積回路は増加幅が拡大したが、半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置は増加幅が縮小し、電子部品は減少に転じた(図表3)。
(ICT在庫)
- ICT在庫は前年同期比8.3%減となり、前期(4-6月期)に比べると減少幅が10.1ポイント縮小した(図表4)。
(ICTサービス)
- ICTサービスは前年同期比2.0%増と3期連続で増加した。前期(4-6月期)に比べて1.4ポイント拡大した(図表1)。
• 通信業、受注ソフトウェアは増加幅が拡大し、ゲームソフトは減少幅が縮小した(図表5)。
(ICT消費)
- ICT消費は前年同期比2.0%増と2期連続で増加し、前期(4-6月期)に比べると0.7ポイント拡大した(図表1)。
- スマートフォン等の本体価格は増加幅が縮小したもののインターネット接続料は増加幅が拡大した(図表6)。
(ICT設備投資)
- 民需(除く船舶・電力・携帯電話)は前年同期比0.1%増と2期連続で増加した。前期(4-6月期)に比べて4.0ポイント縮小した(図表1)。
- 電気計算機等は減少に転じたものの、通信機は増加幅が拡大した(図表7)。
- 官公需は同5.3%増と7期連続で増加した。
(ICT輸出入)
- ICT輸出(金額ベース)は前年同期比17.8%増と3期連続で増加した(図表1)。半導体等製造装置は増加幅が縮小したものの、半導体等電子部品は増加幅が拡大した(図表8)。数量ベースでは同6.0減と減少に転じた。
- ICT輸入(金額ベース)は前年同期比10.7%増と2期連続で増加した(図表1)。通信機は増加幅が拡大し、半導体等電子部品は減少幅が縮小した。一方、電算機類(含周辺機器)は増加幅が縮小した。数量ベースでは同5.1%減と8期連続で減少した(図表9)。
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