2025.2.27 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

「AIエージェント」の活用方法を考える

Image by Satheesh Sankaran from Pixabay

2025年の重要なキーワードとして、「AIエージェント」という言葉が様々な場で語られている。そして、既にその導入が進んでいる。1年前、本誌2024年2月号で「生成AI」が様々な現業の中で使われていくであろうこと、マルチモーダル化が進むであろうことを述べたが、まさに2024年は「生成AI」を中心としたAIの年だったと考える。そして、その「生成AI」の次の「AIエージェント」が、既に話題になり実用化が進むなど、AI進化のスピードにはすさまじいものがある。この先、「生成AI」⇒「AIエージェント」⇒「AGI」⇒「ASI」とAIが進化していく中で、どのようにAIに向き合っていけばよいのか、一シンクタンクの責任者として、自社業務での活用という視点で少し考えてみたい。

その前に、少し「AIエージェント」について、おさらいをしておきたい。「AIエージェント」とは、「人」が設定した目標・目的を達成するために、「人」が指示をしなくても人のエージェント(代理人)として、必要なデータ収集や最適な様々なアクション・タスクを、推論や計画を用いて自動的・自律的に選択・実行してくれるAIのプログラムのことである。例えば、会社で働く中で、スケジュール管理・メール作成・会議の要点まとめ・提案資料作りやチケット予約等の面倒な日常業務について「何をしてほしいのか(目標・目的)」を指示すれば、それを実行してくれるといった、秘書のような役割を務めてくれるパーソナルアシスタントとしての活用も期待される。そうなれば、社員は仕事の中で、「人」が行うべき大事な部分のみに集中することができるため、業務効率や生産性が格段に向上し、それに伴い、仕事(アウトプット)の品質・付加価値も向上させることができる。また、シルバー層の方からスマホの各種設定や操作が難しい、各種アプリの使い分けも難しいという話をよく聞くが、AIの進化により、「やりたいこと(目標・目的)」を指示すれば、該当するアプリを自動的・自律的に実行してくれるというふうに、操作性やUIが改善され、「優しいICT時代」の到来も期待される。その他の期待される活用事例を後段にあげてみたが、「生成AI」のいわゆる「壁打ち」的な利用に比べ、具体的な仕事を実行してくれるように進化して、「ドラえもん」に近づきつつあることが分かると思う。「人」のような汎用的な知能を持ち、独自で学習や課題解決を実行できるAGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)や、「人」の知能をはるかに超える能力を持ち、発明や発見まで行うASI(Artificial Superintelligence:人工超知能)の時代の入り口近くまで来ていると感じる。

さて、弊社はシンクタンクであり、リサーチ&コンサル会社でもあるのだが、当然のように自社研究員による生成AI等の活用は既に実施しており、生産性の向上に役立っている。もちろん、ツールとしての活用であり、事実確認や重要な分析・提言内容等の大事な部分や最終的なチェックは「人」が行うこと、「人」が責任感を持ってアウトプットすることを徹底している。AIの活用は当たり前なので、活用するか否かという選択は既になく、どんどん最先端のAIを活用して業務を行うという時代になったと考える。弊社が生成AIを活用するということは、当然、クライアント様も活用している。昨年、弊社の研究員から「クライアント様から『リサーチ&コンサルティングのリサーチの部分はもういらない、コンサルに重点をおいてくれ』と言われました」という言葉をよく耳にした。リサーチの部分はクライアント様が生成AIで簡単にできてしまうということだ。そのとおりだと思う。この年末年始の弊社研究員へのあいさつの中で「AIを今まで以上に徹底的に活用して生産性を上げ、それで浮いた時間で“人”にしかできない付加価値をしっかり提供していこう」と何度も繰り返し呼びかけた。「人」にしかできないこととしての例をあげてみると、1つ目は、自分が直接、見て聞いて触り体験した一次情報を大事にするということだ。市場動向をリサーチするならその市場のプレーヤーに直接取材に行くこと、現地現場を大事にして生の情報を収集・提供すること、営業のコンサルを行うならクライアント様のエンドユーザー訪問にまで同行し、自らも営業してコンサル内容を磨くこと、などだ。2つ目としては、クライアント様が知りたい情報を持っている方を紹介し、リアルな出会いの場を設定するという「ビジネスマッチング力」を強化すること、3つ目は、場の設定にとどまらず、そのマッチングから新たなビジネスを作り上げていくという「プロデュース力」や「コーディネート力」を強化すること、そして、4つ目は、そうしたビジネス全体の「コンサルティング力」を強化すること、などである。AI時代には、「人」にしかできないことが逆に付加価値として重要になっていくと考える。「人」にしか提供できない付加価値とは何かということを考え、提供し続けることが大事だ。

そしてもう一つ付け足せば、生成AIだけでなく様々なサービスが登場しているAIエージェント系のツール等、最先端のAIツールを積極的に使い続けることが大事だと考える。これらのツールを使いこなすには、その事前準備として社内データの整備や、どのツールの組み合わせがどの業務に合うのかなど、ノウハウや勘どころが重要になってくる。そのため、各企業や自治体等がAIを導入するに当たっては、そのあたりのノウハウに対するニーズが増加していくことが考えられる。自らそれを体験しノウハウを獲得していくこと、AI活用のプロになることが、提案するコンサル内容の品質向上にとって重要であると考える。その意味でもAIツールをこれまで以上に、どんどん活用していきたい。

しかし一方で、AI活用のリスクへの対応もしっかり行う必要がある。AI任せでは、意図せずプライバシー・セキュリティ・倫理面等での問題を引き起こす可能性が指摘されているが、そのためにも、しっかりとした運用を行う実用面での対策に向き合う必要がある。AIにどこまでの仕事を任せ、「人」の監視・監督をどのように入れるのか。定期的なメンテナンスやモニタリングの仕組み、行動ログの記録、事後検証可能な仕組み作りや専門的な知識を有する人的リソースの育成と確保等の対応を行う必要がある。自律的に様々な業務を実行してくれるのはありがたいが、決定ボタンを押す最終確認は、「人」がよく考えてから行うべきであると考える。

2025年も、Deep Seek(コストが圧倒的に安く、完全なオープンソースであることが特徴の中国のAI)、OpenAIの OperatorやDeep Research (AIエージェントツール)の登場、Stargate Project(トランプ政権が発表した5,000億ドルのAI投資)等の話題で幕を開けた。実ににぎやかな年明けだが、今年もまた多くのAI関連の新サービス・新技術等が登場してくると考える。こうした様々なサービスや技術をしっかりフォローすることは大事だが、落ち着いて、そしてスピーディにビジネスモデルやライフスタイルをどのように変化させていくべきか、その活用方法も考えていかなくてはならない年になると思う。技術面だけでなく、AIの活用方法やそのコンサルティング、さらにはAI活用のルールや法規制等の在り方について、しっかりと対応していく必要があると考えるが、弊社としては、そのあたりをしっかりと取り組む年にしていきたいと考えている。時代の大きな節目に私たちは立っている。前を向いて一歩一歩確実に、そしてスピード感を持って進んでいきたい。私が小学校3年生の時の担任の先生はお寺の住職もされていた。先生からいただいた「ゆっくり、ぼつぼつ、一所懸命、そして速く!」という言葉は、当時「意味が分からない」と先生に食い付いた記憶があるが、その言葉を噛み締める今日この頃である。

<「AIエージェント」の期待される活用事例>

  • レコメンドシステム
    ECサイト等で利用者の行動や好みを分析し、パーソナライズされたレコメンドを生成して送信

  • カスタマーサポート
    コールセンター等でチャットボットや音声アシスタントがユーザーの問い合わせに即座に対応しオーダー処理、24時間体制で対応

  • トレーディング
    金融市場の動向をリアルタイムで分析し、適切な取引を自動的に実施

  • サプライチェーン管理
    需要予測、在庫管理、物流の最適化等、ロジスティクスオペレーションの全体的な効率化を実現

  • 物流管理
    交通状況や天候の変化に応じて配送ルートの最適化をリアルタイムで実施

  • 医療分野
    患者データの解析や画像診断を行い診断精度を向上、患者対応の支援で医師の負担を軽減、遠隔医療のサポートを実施

  • 自動運転
    センサー・カメラから取得したデータをリアルタイムで解析し、最適かつ安全な運転ルート・操作を実施

  • スマートホーム
    エアコンの温度管理や防犯対策等を実施

  • サイバーセキュリティ
    脅威検出、異常識別、セキュリティ管理等のアクションを実行

  • パーソナライズド学習
    学習者の進捗や理解度に応じてカスタマイズされた教材を提供、自動採点やフィードバックを実施

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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