2016.3.22 IoT InfoCom T&S World Trend Report

情報通信ネットワークサービスはヒット予想に載るか?

2016年が始まってはや2カ月が経過して、新年の話題は既に遠退いています。ただ、昨年2015年の本誌1月号巻頭“論”に「情報通信ネットワークサービス:2015年の期待」を掲載しましたので、改めて現時点でもう一度、これに触れてみたいと思います。

昨年も11月12日に、日経産業新聞で「2016年ヒット予想-専門家に聞く」ランキング(トップ10)が発表になりましたが、情報通信サービスに直接関係しているのは、第7位の「定額配信サービス、第2幕」だけであり、ネットワークサービスそのものはランクインしていませんでした。また、同じく昨年、日経トレンディが発表した2016年ヒット商品ランキングでも、第2位「激安オムニ家電」、第5位「PlayStation VR」、さらにその下に第11位「無充電スマホ」、第26位「SIMフリーGalaxy」があって情報通信関連商品・サービスは登場していますが、ネットワークサービスそのものは見受けられませんでした。

光回線やモバイル通信、ブロードバンドサービスなどが普及して市場の成熟化が進んでいるので、ネットワークサービスそれ自体が話題になることが減り、商品・サービスのヒット予想に登場することはなくなりつつあるようです。ただ、今でもモバイル通信サービスの分野は無線技術の多様性・発展性から見て今後のイノベーションの源泉であることに変わりはありません。引き続き、IoT向けネットワーク(特にLPWA)、LTE-U/LAA、LTE Broadcast (eMBMS) などモバイル通信サービスの使い勝手を高め、厚みを増すサービスが現実のものとなり、新しいサービスイノベーションに発展することを願っています。一昨年の日経産業新聞2015年ヒット予想では、スマホ格安競争、画像・動画投稿の進化、ウェアラブル端末元年の3つがトップ10入りしていましたので、今年はICT分野が凋落していることが分かります。昨年はスマホ格安競争だけが日本発のイノベーションだったことに危惧を持っていましたが、やはり1年経ってみると新しいイノベーションがICT分野から生まれてこない事態に危機感すら覚えます。2015年中12回の本欄巻頭“論”に、通信ネットワークサービスに関するテーマを9回も取り上げてきたのもこのためです(注)。通信ネットワーク関係以外のテーマは、コーポレートガバナンスと地方創生とサイバーセキュリティの3回だけです。

ただ内容をよく見ると。日経産業新聞でランクインした“定額配信サービス、第2幕”は主に光回線を利用しているものだし、日経トレンディで取り上げている“激安オムニ家電”こそ、IoTやインターネット回線を取り込んでいて、単独のデバイスの登場とは違う新しいサービスイノベーションであることが分かります。加えて、この2つが革新的である由縁は、既存の放送事業者や家電製品メーカー、通販会社に対して事業構造の変革を迫るインパクトあるサービスを狙っていることです。これには情報通信ネットワークが黒子の役割ですが大きく寄与していることは事実です。残念ながら、こうしたヒット予想商品・サービスのイノベーションに我が国の通信会社や通信機器メーカーが主体的に参画し得ていないことが心配でなりません。モバイル通信サービス領域にはまたまだ新しい技術イノベーションの分野は数多くあります。今後、通信ネットワークの厚みを増す戦略が構築されていくでしょうが、それを新しいサービスイノベーションに結び付ける努力を怠ってはなりません。早めの前広な取り組みが求められます。

この面からは、2016年の目玉となるヒット商品・サービスは私はFintechだと思っています。最近、ベンチャー企業の活動や既存金融機関の取り組みが目立っているし、金融庁や経産省が力を入れて支援するようになっています。この分野を怠っていると、経済実態や日常生活のレベルまで目に見える形で外国勢の影響下に陥り、日本再興戦略の支障となる恐れすら考えられます。例えば、IT技術の進展、特にブロックチェーン技術のインパクトとAIの進歩が合体してもたらす既存金融秩序(構造)の革新には計り知れないものがありそうです。2017年のヒット予想に決済や送金、資金運用や管理、投融資や資金調達など金融関係の商品・サービスが複数登場して来ると想定しています。

通信事業者も金融業界の取り組みに学んで、規制下の業界秩序を脱却して情報通信ネットワークサービスにおいて、例えばトラフィック変動予測と多数事業者間のNFVでの協調や通信ネットワークの付加価値を含めたサービス連携・プラットフォーム構築などでのAIの活用、また、ICTを活かしたB to B to Cモデル、すなわち、通信ネットワークのAPIのオープン化など、より一層積極的な取り組みに踏み込まないと、通信ネットワーク機能の単純な開放論に抗し切れず、結局、黒子役の足下すら危ぶまれる事態となりそうです。

ブロックチェーン技術は仮想通貨ビットコインでマイナスの話題を集めただけに、IT技術面での深い洞察まで突込んだ反応はあまり見られませんが、情報通信サービス面でも広く普及する要素を持っているのではないかと想像しています(実は、私はこのブロックチェーン技術を十分に理解できていません)。研究開発や戦略担当の関係者、当局を含めた関係機関の前向きな取り組みを求めたい。インターネットの立ち上り期と同様に、ベンチャーの人達こそこの点に着目して新しいサービス、例えば情報流通の記録と責任を伴う各種の情報サービスや個人情報管理分野に多数参入してくると予想されるからです。

インターネットという自律分散型のネットワークが既存の通信ネットワークの産業構造を破壊して革新をもたらしたように、ブロックチェーンのような新しい技術が自律分散型であっても相互に確認(監視)可能な新しいネットワークのあり方、取引方法を生み出すことはまた新しいイノベーションの期待に繋がります。

(注)昨年(2015年1月号~2016年1月号)、巻頭“論”で9回取り上げた通信ネットワークサービスのテーマ別の分類は、サービス動向全般が2回、IoT・AI関係が5回、競争市場分野が2回となっています。
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