2018.11.7 ICR研究員の眼

KDDIとソフトバンクの「宿題」返し

2018年秋の国内携帯大手3社の第2四半期決算発表は、驚きの連続でした。KDDIはドコモの値下げ発表の翌11月1日に、ソフトバンクは11月5日にそれぞれ決算発表を行っています。 

○KDDI「一歩先に宿題を済ませている」

KDDIの高橋社長は、前日のドコモの値下げ発表を受けて、以下のようにコメントしています。

「われわれはドコモさんより一歩先に、宿題を済ませている。ドコモさんの料金値下げの話が出たから、そのままわれわれが同じ規模で追随することにはならない」

「(端末価格と通信料の)分離プランについては、われわれは最初に走ったトップランナー」

「同じ規模」というのは、ドコモが発表した「2~4割程度」値下げした低廉な料金プラン導入と、それに伴う「最大4,000億円規模」のお客様還元を指していると理解できます。

KDDI_201811_p6

KDDIは決算発表の中で、昨年導入した「auピタットプラン」「auフラットプラン」が好評で、2018年9月23日時点で合計の契約数が1,000万件を突破し、auピタットプランについては平均請求額が約3割低下したとしています。また、この料金プランや無料の会員制プログラム「au STAR」などによる累計ユーザー還元額は2018年度末までに約3,000億円を超える見込みとしています。

ドコモの「2~4割」「4,000億円」に対してKDDIは「3割」「3,000億円」という数字を当てました。その規模感の揃い方には驚くほどなのですが、実は2点で正しくありません。

〇ドコモ「4,000億円」は、KDDI「3,000億円」のさらに先の話

KDDIは、2017年7月に「auピタットプラン」「auフラットプラン」を導入しました。料金水準の低さをアピールする「auピタットプラン」は、契約から1年間は月額1,980円で1GBまで使えるという「分離プラン」です。トップブランドがこの価格帯のプランを市場投入したことで、傘下のサブブランドであるUQモバイルは価格帯をさらに下方シフトし、月額1,480円のプランを軸にマーケティングすることになりました。

ドコモはこれよりやや早い2017年6月に、「docomo with」を導入しました。指定の端末を利用する場合、毎月1,500円の通信料を無期限で割り引くという「分離プラン」です。このことから、KDDIの「分離プランについては、われわれは最初に走ったトップランナー」という表現は微妙です。

また、KDDIの「3,000億円」は、ユーザー還元額としてこの分離プラン導入後の2018年度末までの見込値ですが、ドコモの「4,000億円」は、今後のお客様還元額見込みです。4,000億円に3,000億円を対比させるのは、正確性に欠けます。

〇ソフトバンクの宿題返し

ソフトバンクグループの孫会長兼社長は、11月5日の決算発表の際、以下の通りコメントしました。

「データトラフィックの43%がYouTubeやインスタグラムなどの動画トラフィック」
「これら(動画トラフィック)を無料カウントにしているのだから、実質4割値下げしたインパクトになると捉えている」
「すでに大幅な値下げを繰り返し行っている、さらにこの後どうするかは続けて検討していく」
「9月に新プランを導入して、25~30%値下げした」
「分離プランの導入で、より安い端末を選択しやすくなる、選択肢が広がる。お客様は実質的なコストダウンを図りやすくなる」

これと同時に、ソフトバンクは通信事業の増益と新規収益の創出を目指すために、ソフトバンクモバイルの社員を4割削減すると発表しました。4割減には4割減で、といった印象すら受けます。

SoftBank_201811_p38

「低価格のいろんなサービスをやっていくためには、我々の業務の効率を良くしていかなくてはいけません。そのために無理して人をはがすのではなく、RPAでデジタルロボット化して、社員の業務プロセスを一気に効率化する」
「彼らが涙を流すのではなくて、笑顔で新しい事業に取り組めるように、新規事業を続々と増やしている」
とのことです。

ソフトバンクグループはロボット事業を手掛けていますが、それに限らずすでに多角的な事業ポートフォリオを組んでおり、成長領域へリソースをシフトさせる戦略に違和感はありません。しかし一方でグループとしてはすでに、SVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)が業績を牽引しており、事業会社というより投資会社としての色が濃くなっているわけです。

人員の4割削減といった大胆な施策については、同社グループへの影響もさることながら、むしろ国内通信業界のエコシステムにどのような影響を与えるのかこそ、慎重に考えるべきでしょう。通信業界の構造変革が、5G時代にさらに加速する可能性を感じます。

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