8月のある日、登山が趣味の息子に誘われて筑波山に行くことになった。子供の頃に父親に連れられていくつか山に登り、20代の頃に思い立って富士山にチャレンジしたことはあるが、それ以来登山の機会は全くなく何十年かぶりだ。筑波山は日本百名山の一つで、日帰りで行くには絶好の場所だとか。前日には遠足に出かける子供のような気分で準備をし、当日はかなり早起きをして電車に乗った。
息子はスマホで細かく登山ルートを確認して予定を立てている。聞くと、登山する人のためのアプリがあるそうで、詳細な山行計画を立てて家族や友人に共有したり、登山の際もGPSと連動して地図に位置情報を記録したり、景色などの写真を記録したり、といろいろなことができるらしい。さらに、スマートウォッチと連動して、登山ルートを外れると警告してくれるなど至れりつくせりのようだ。見せてもらうと、多くの会員が山行記録を公開していて、それに対して拍手したりコメントしたりすることもできるようだ。このアプリがあれば、いつどの山に登ってどんな景色を見たか簡単に記録に残せるというわけだ。
日記はその典型だが、人間は自分の行動を記録(ログ)として残して満足したがるのかもしれない。スマホのおかげで、わざわざ文字にして書かなくても写真や位置情報などのデータを残せるとなると、ついつい記録してしまいたくなるのだろう。FacebookやInstagramはその典型だが、“ブログ”も、もとはと言えば“Web log”(Webに残したログ)からきている。今や誰も意識せずに使っていると思うが。Google Mapのタイムラインも、使いようによってはとても便利だ。もっとも、プライバシーが筒抜けになるのが怖くて知っていても使っていない人が多いのではないかな……(しっかり設定すればそんなことはないのだが)。
登山の方は、つくばエクスプレスを降りてからバスに乗り換えてふもとの神社に向かい、そこから山頂に向けて出発した。大汗をかきながら、予定よりも30分ほど早く筑波山(女体山)の山頂に到着した。筑波山は日本百名山の中では一番低い山だそうだが、標高877メートルの山頂からの景色は素晴らしく、身体は疲れ切っていたが爽快な気分にさせてくれる。山頂の写真スポットは、自撮りする登山客で渋滞となっていた。その後は、もう一踏ん張りということで、30分ほどかかって男体山(標高871メートル)山頂に到着、違う景色を楽しんだ。筑波山は、ケーブルカーやロープウェイのアクセスがあり、下山はケーブルカーに乗って一気にふもとに降りてきた。そこからは、息子に連れられるまま、近くのホテルの温泉で日帰り入浴し、極楽気分を味わって、汗でぐっしょり濡れた服を着替えて帰路についた。
考えてみれば、ジョギングする時にはいつもスマートウォッチを付けて、走ったコースやペースを記録して達成感を味わっているが、これも自己満足のために記録する典型なのだろう。自宅に戻ってから、息子の使っていたアプリをスマホに入れてあれこれといじってみたが、いろいろな人の山行記録を見ているだけで、自分も登山して記録してみたくなってきたから不思議だ。少し調べてみると、同様のアプリがいくつかあるようで、山好きには欠かせないものらしい。入山届もアプリで簡単に提出できるようで、登山中に自分のいる現在位置を共有する機能もあって、安全面でも頼りになるようだ。趣味の世界でログを残し、同じ趣味を持つ人たちとそのログを共有して交流することでさらに趣味の世界が広がっていく。スマホのアプリでこうした可能性が一気に広がったのを強く感じた。
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。
当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。InfoComニューズレターを他サイト等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。また、引用される場合は必ず出所の明示をお願いいたします。
調査研究、委託調査等に関するご相談やICRのサービスに関するご質問などお気軽にお問い合わせください。
ICTに関わる調査研究のご依頼はこちら関連キーワード
出口 健(転出済み)の記事
関連記事
-
ブロックチェーンとどのように向き合うか ~地域活用の可能性~
- WTR No432(2025年4月号)
- ブロックチェーン
- 地方創生
-
世界の街角から:フランス パリ、リヨンへの旅 ~着物がつなぐ歴史と文化~
- WTR No432(2025年4月号)
- フランス
- 世界の街角から
-
より実効性のある公益通報者保護制度の確立に向けて
- ICR Insight
- WTR No433(2025年5月号)
- 国内
-
MWC2025に見る通信業界の転換点:“次のG”ではなく“次のAI”
- AI・人工知能
- MWC
- WTR No433(2025年5月号)
- イベントレポート
- 海外イベント
-
ビジネスフェーズへと向かうネットワークAPI ~日本の通信事業者はどのように取り組めるか~
- MWC
- WTR No433(2025年5月号)
- イベントレポート
- モバイル通信事業者(国内)
- モバイル通信事業者(海外)
- 海外イベント
InfoCom T&S World Trend Report 年月別レポート一覧
ランキング
- 最新
- 週間
- 月間
- 総合