情報通信総合研究所では、情報通信(以下、ICT)産業が日本経済に与える影響を把握するために「ICT関連経済指標」を作成し、四半期ごとに公表しております。「InfoCom ICT経済アップデート」について2025年4-6月期がまとまりましたのでご報告いたします。
【2025年4-6月期のポイント(前年同期比)】
2025年4-6月期のICT経済は、総合指標が前年同期比4.3%増と7期連続で増加した(1-3月期:同5.0%増から0.7ポイント縮小)。財・サービス別にみると、ICT財生産は前年同期比1.4%増と6期連続で増加した(1-3月期の同0.5%増から0.9ポイント拡大)。ICTサービスは同5.0%増と19期連続でプラス成長を維持した(1-3月期の同6.1%増から1.1ポイント縮小、図表1)。
今期のICT経済は、供給サイドの財生産では電子デバイスの減少幅が拡大したものの、電子計算機、集積回路の増加幅が拡大し、全体では増加幅拡大となった。集積回路の増加は、イメージセンサーなど高付加価値品の生産が金額を押し上げていることや、熊本県に誘致された台湾積体電路製造(TSMC)の工場の量産開始が背景にあると推察される。ICT財の在庫も増加したが、主な要因は電子計算機の増加幅拡大である。2025年はWindows10のサポート終了による端末入れ替えのピークを迎えるとみられており、在庫が積み増されていることが考えられる。
ICTサービスは、ソフトウェア業、通信業、インターネット付随サービス業が増加を維持しており、19期連続で増加した。その背景には、人手不足を背景にした業務効率化・省人化を目的にした企業のIT投資意欲が引き続き堅調なことや、データ活用による顧客対応・マーケティングの強化、銀行のメインフレームのハードウェア保守契約の期限切れにあわせた機器の移行等のシステム構築(SI)事業が好調なことがある。
需要サイドをみると、ICT消費は5期連続で増加した。パソコンは増加幅が縮小したものの増加を維持し、テレビゲーム(ソフトは除く)は増加幅がわずかに拡大した。パソコンについては、Windows 10のサポート終了(2025年10月予定)を見据えた買い替え需要が背景にある。一方、ICT設備投資(民需)は5期ぶりに減少に転じた。半導体製造装置等を含む電気計算機等は減少に転じ、通信機はわずかに増加に転じた。サーバなどを含む電子計算機等が減少に転じたのは、金融・保険業や電気機械製造業向けが減少に転じたことによる。
ICT輸出は、金額ベースでは6期ぶりに減少に転じた。品目別にみると、半導体等製造装置は減少に転じ、半導体等電子部品は増加幅が縮小した。半導体等製造装置は対地別にみると、対中国以外のアジアの増加幅が縮小し、対米国や対中国は減少幅が拡大した。数量ベースでは2期連続で減少した。ICT輸入は、金額ベースは5期連続で増加した。品目別にみると、電算機類(含周辺機器)、通信機、半導体等製造装置は増加幅が縮小した。数量ベースでは3期連続で増加した。現時点では、トランプ米政権の高関税措置の影響は明確には確認できない状況となっている。
今後については、2025年7-12月期のICT経済指標は緩やかに増勢を維持するだろう。2026年については、在庫調整の一巡、SI(システム構築)案件の持続、AI・データ活用に向けた投資の浸透が予想され、再び増勢を加速する見込みだ。
供給面では、ICT財生産について7-9月期は在庫の調整が続くものの、10-12月期には買い替えピークで在庫が出荷され、持ち直していくものと考えられる。2026年には、AI対応のサーバ更新とTSMC等の量産により緩やかな成長が続くものと考えられる。ICTサービスについては、人手不足を背景にした省人化投資、AI・データ活用、基幹更改需要が継続し、成長が続く見込みだ。業種別では、銀行・公共・製造での更改、クラウド移行案件の波が2026年前半まで下支えするだろう。
需要面では、ICT設備投資(民需)について2025年4-6月の減少は一時的で、7-9月は様子見により横ばい、10-12月、2026年にかけては、サーバ等の端末の更新、データセンター投資の分散進行により、緩やかに回復する。通信機は5G関連投資や企業ネットワークの更新が底堅く、小幅プラスの継続を見込む。
ただし、リスク要因としては、米国の通商政策の不確実性が挙げられる。高関税・輸出規制の再強化や地政学要因で装置・部材の輸出が想定以上に減速する可能性がある。
【2025年4-6月期の動向】
(ICT経済総合)
- 国内ICT経済は前年同期比4.3%増と7期連続で増加し、前期(1-3月)に比べて0.7ポイント縮小した(図表1)。
(ICT財)
- ICT財は前年同期比1.4%増と6期連続で増加し、前期(1-3月期)に比べて0.9ポイント拡大した(図表1)。5月公表時にはICT財は前年同期比で減少していたが、統計の修正により増加となった。
- 電子計算機、集積回路は増加幅が拡大したものの、電子デバイスは減少幅が拡大した(図表3)。
(ICT在庫)
- ICT在庫は前年同期比4.3%増となり、前期(1-3月期)に比べると増加幅が6.1ポイント縮小した(図表4)。
(ICTサービス)
- ICTサービスは前年同期比5.0%増と19期連続で増加した。前期(1-3月期)に比べて0.9ポイント縮小した(図表1)。
- 通信業、ソフトウェア業、インターネット付随サービス業は増加幅が縮小した(図表5)。
(ICT消費)
- ICT消費は前年同期比4.0%増と5期連続で増加し、前期(1-3月期)に比べると1.2ポイント拡大した(図表1)。
- テレビゲーム(ソフトは除く)は増加幅が拡大したが、パソコンは増加幅が縮小した(図表6)。
(ICT設備投資)
- 民需(除く船舶・電力・携帯電話)は前年同期比0.5%減と5期ぶりに減少に転じた。前期(1-3月期)に比べて6.5ポイント縮小した(図表1)。
- 電気計算機等は減少に転じたが、通信機は増加に転じた(図表7)。
- 官公需は同11.2%増と2期連続で増加した。
(ICT輸出入)
- ICT輸出(金額ベース)は前年同期比1.1%減と6期ぶりに減少に転じた(図表1)。半導体等製造装置は減少に転じ、半導体等電子部品は増加幅が縮小した(図表8)。数量ベースでは同1.9%減と2期連続で減少した。
- ICT輸入(金額ベース)は前年同期比5.4%増と5期連続で増加した(図表1)。電算機類(含周辺機器)、通信機、半導体等製造装置の増加幅が縮小した。数量ベースでは同13.7%増と3期連続で増加した(図表9)。
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