2025.6.17 イベントレポート ICR研究員の眼

大阪・関西万博に行ってきた!

※本記事に掲載された写真は、撮影可能なエリアにおいて個人の体験記として撮影したものであり、万博協会のガイドラインを尊重した上で公開しております。

※本記事は、筆者が個人として万博を訪問した際の印象を綴ったものです。

大阪・関西万博に行ってきた!

先日、大阪・関西万博を訪れる機会に恵まれた。今回は食事よりもパビリオン見学を優先し、1人でできるだけ多くの展示を見て回ることにした。単独行動だったおかげでパビリオンの予約も取りやすく、思いのままに動き回れたのがよかった。近所に住んでいたら間違いなく通期パスを購入して、何度も足を運んでいただろう。

会場には心に残るパビリオンやショーがたくさんあったが、今回は特に情報通信技術の観点から印象深かった4つを紹介したい。

デジタル技術で魅せる現代韓国らしさ:①韓国パビリオン

海外パビリオンでは、各国が自国を「どう見せたいか」という思いがストレートに表れていて、それぞれのアプローチが面白かった。その中でも韓国パビリオンは、「今」と「未来」を全面に押し出した展示構成が印象的だった。

入り口で録音した来場者の声をAIが音楽に変換し、無数の光とともに会場内に響かせるインスタレーション、水素エネルギー技術で来場者の息を水に変えて、シャボン玉(ピュアウォーターバブル)として空間に舞い散らせる幻想的な演出、さらには韓流ドラマとK―POPの要素を盛り込んだショートストーリーなど、バラエティーに富んだ体験が用意されていた。

特に目を引いたのは、建物前面を覆う巨大なLEDディスプレー(幅27メートル×高さ10メートル)だった。他の海外パビリオンが建築的な造形で個性を表現する中、韓国は映像技術で勝負に出た格好だ。そこに映し出される映像は高精細で滑らかで、遠くからでもその存在感は圧倒的だった。伝統的な民族文化というより、パビリオン全体を通してエネルギッシュで勢いのある現代韓国の姿を韓流エンターテインメントで前面に押し出す狙いがはっきりと伝わってきた。

伝統文化の豊かさと技術革新の力:②中国パビリオン

「今」の勢いが印象的な韓国パビリオンに対し、中国パビリオンは長い歴史の重みを感じさせながら、伝統と現代技術を巧みに融合させた展示になっていた。

竹簡をモチーフにしたデザインで文化的な意匠を打ち出した中国パビリオンは、海外パビリオンの中でも群を抜く広さで、国の豊かさと存在感を表現していた。館内では、壁面モニターに映し出された篆書や隷書などさまざまな書体の文字が床面へと流れ、さらに川のように館内を流れていく演出が印象的だった。展示された文化財の見せ方も工夫されており、ショーケースの表示に触れると、透過表示技術によって展示品の詳細情報がリアルタイムで浮かび上がる仕組みで、そのレスポンスの速さと滑らかさに多くの来場者が足を止めていた。古い文物と新しい技術が、絶妙なバランスで馴染んでいた。

一方、深海探査を行った潜水艇の映像や、月の表と裏の両方から持ち帰った岩石標本なども展示されており、現代中国の科学技術力の高さを実感できる内容だった。これらを見ていると、中国が歴史の国であるだけでなく、宇宙や深海といった最先端分野でも世界をリードしていることがよく分かった。歴史の厚みと未来への技術力、その両方を備えた中国という国の存在感をしっかりと表現したパビリオンだった。

技術と哲学が織り成す空間:③シグネチャーパビリオン「いのちの未来」

運よく、事前から注目していたロボット学者で大阪大学の石黒浩教授によるシグネチャーパビリオン「いのちの未来」に入ることができた。マツコ・デラックスさんをはじめとする多くのヒューマノイドが展示されているという話を聞いていたので、その動きやリアリティーを実際に目の当たりにしたいという期待を胸に会場に向かった。

実際に体験してみると、単なる最新技術の展示場ではなく、50年後の未来をストーリー仕立てで見せたり、1000年後の進化した人間を幻想的な空間で表現したりと、ロボットが人間社会に自然に溶け込む未来像を多角的に見せてくれる、とても考えさせられる空間だった。ロボットという機械をテーマにしながら、石黒教授の「人間は動物としての生物的進化だけでなく、科学技術による進化の方法を持つ」というメッセージとともに、身体の拡張という視点を通して、実は一人ひとりの内面に「ロボットとどう向き合うか」「いのちとは何なのか」という深い問いを投げかけてくる。そんな構成が面白かった。そして、ヒューマノイドの動作にはまだ若干のぎこちなさが残るものの、やりとりする際の首の傾き具合や間合いは絶妙であり、人間と区別がつかないロボットが現実になる日もそう遠くないのではないかと思った。

なお、出口では、パビリオン内でも使用されていた石黒教授プロデュースによる香水が販売されていた。ロボットという最先端技術の展示において、人間の嗅覚に訴える手法が明示的に用いられているのは実に興味深かった。

体験して実感するIOWNの威力:④NTTパビリオン

NTTパビリオンでは、Perfumeのライブパフォーマンスを高速大容量通信IOWN技術で再現した展示を体験した。3D点群データ、映像データ、触覚振動データという大量のデータをリアルタイムで伝送し、ライブ空間を丸ごと忠実に再現していた。

これまでIOWNについてはニュースやリリース、技術情報などで仕組みを読み聞きしていたが、今回実際に体験してその威力を実感できた。高精細な映像に残像はほとんどなく、幻想的な世界が立体的に広がった。足元からは演者の動きと完全に同期した振動が伝わり、まさにその場にいるような臨場感が味わえ、リアルなバーチャル世界を体感できた。 Perfumeのライブが終了すると、会場からは「すごいね」「おぉ」といった感嘆の声が自然と上がり、その場にいた全員がその技術力に驚いている雰囲気だった。

なお、パビリオン外にある「ふれあう伝話」では、「いのち動的平衡館」に設置した「伝話」とつながっており、音声・映像・振動をリアルタイム共有できる。これもIOWNの技術を活用しており、例えば、ボードをたたくとその振動が遠隔地に瞬時に伝わる仕組みだった。言葉では伝えきれないが、動作が映像とともにリアルタイムで振動として伝わった瞬間の驚きと、なんとなく相手とのつながりを感じることで生まれる温かい気持ちは、まさに現地で直接触れてこそ得られる貴重な体験だった。

技術が作り出す「自然な体験」

4つのパビリオンを回って最も印象に残ったのは、どの展示も情報通信技術が体験の質を左右していたことだ。遅延なく滑らかに反応する映像、違和感のない動きや音響――これらの技術があってこそ「自然な体験」が生まれ、展示の価値に直結していることを肌で感じた。情報通信技術はインフラでありながら、もはやUXそのものを決める存在になっている。改めてそのことを実感できた。

 

 

 

おわりに:技術は新たな問いを生み出す

韓国、中国、シグネチャー、NTTと巡ってみて、パビリオンの印象は人それぞれだと改めて思った。最新技術にワクワクする人もいれば、文化的な演出や旅情を重視する人もいるだろう。古典絵画と現代美術で好みが分かれるのと同じように、万博でも何に心を動かされるかは本当に十人十色なのだ。私には情報通信技術の展示が心に残ったが、それは仕事柄の関心が強く影響していたのだろう。

今回の体験を振り返りながら、ふと美術史の一コマを思い出した。カメラが発明された時、画家たちは大きな転換点に立たされた。それまで「いかにリアルに描くか」が絵画の価値だった時代に、カメラの登場によって「何を描くべきか」「なぜ描くのか」という根本的な問いに向き合うこととなったのだ。そして、今回体験した情報通信技術を駆使した展示にも、どこか似た構造を感じた。

私自身、情報通信技術の領域に関わる者であるものの、改めて昨今の先端技術の進歩は目覚ましいものがある。だからこそ、私たちはその技術をどう使い、どう活かし、どのような価値を社会に届けていくのかを常に問い続ける必要があるのだ。そして、その問いに対する答え探しは、これからも続いていくのだろう。

 

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