2025.4.28 イベントレポート InfoCom T&S World Trend Report

MWC2025に見る通信業界の転換点:“次のG”ではなく“次のAI”

世界最大級の通信関連カンファレンス「MWCバルセロナ2025」開催

2025年3月3日から6日にかけて、スペイン・バルセロナにて「MWCバルセロナ2025(以下、「MWC2025」)」が開催された。毎年バルセロナで開催されるMWC(Mobile World Congress)[1]は、モバイル通信分野における世界最大規模の国際会議であり、今後の通信業界の動向を把握するうえで極めて重要な位置付けを持つイベントである(冒頭写真、写真1)。

【写真1】今年もスペイン・バルセロナにあるFira Gran Viaで開催されたMWC2025

【写真1】今年もスペイン・バルセロナにあるFira Gran Viaで開催されたMWC2025
(出所:文中掲載の写真はすべて情総研撮影)

筆者は毎年、本カンファレンスに参加しており、本年も現地に赴いて、最新の技術動向および業界の潮流を直接確認する機会を得た。2025年のMWCバルセロナには、205カ国から約10万9000人の来場者が集まり、出展企業数は2900社にのぼった。参加規模はパンデミック以前の水準へと回復しており、通信業界全体の国際的な関心の高さがうかがえる。

本稿では、MWC2025における主要な展示内容の紹介に加え、世界各国の通信関連企業のキーパーソンが登壇した基調講演において取り上げられた主要トピックを紹介する。

「次のG」から「AI時代」へ

MWCバルセロナではこれまで、5Gや次世代の6Gといった無線通信技術、いわゆる「G」が毎年の注目テーマであり、それらの技術やサービスが数多く発表されてきた。昨年までの展示でも6Gに関する取り組みは一定の存在感を放っていたが、2025年の会場ではその姿が大きく影を潜めた。代わって今年の展示で圧倒的な存在感を示していたのが、AIである。会場を見渡すと、AIをテーマに掲げていないブースはほとんど見当たらず、出展各社がこぞってAI技術を中核に据えたソリューションや取り組みを紹介していた。とりわけ通信事業者のブースでは、AIを活用したネットワーク運用の最適化や、AI実装に適したネットワーク基盤の構築に関する展示が目立ち、業界全体がAIの本格導入を前提とした体制へと移行している様子が鮮明に表れていた(写真2)。

【写真2】AI一色の展示 (左上:SK Telecom、右上:Deutsche Telekom、左下:China Mobile、右下:Orange)

【写真2】AI一色の展示
(左上:SK Telecom、右上:Deutsche Telekom、左下:China Mobile、右下:Orange)

従来のMWCバルセロナが「次世代の無線技術そのもの」に注目していたのに対し、今回の展示では、「AIの高度利用に向けてネットワークをいかに最適化・再構築するか」や、「AIによってネットワーク運用そのものをどう高度化するか」といった、より実務的・実装的なテーマが中心となっていた。これは、通信産業における関心の軸が「次のG」から、「AI時代のネットワーク」へと移行しつつあることを象徴している。こうした潮流の中で特に注目を集めた通信事業者2社の展示を紹介する。

韓国SK Telecomが示すAI時代のネットワークインフラ:AIデータセンター

SK Telecom(SKT)の展示ブースは、昨年に続き会場の一等地に設置されていた。その存在感にふさわしく、展示構成も非常に戦略的であり、AI時代における通信事業者のインフラ面での役割が前面に打ち出されていたのが印象的だった。ブース中央には、巨大なAIデータセンター(AIDC)を模した展示が据えられ、AIを支える基盤としてのネットワークインフラの重要性を強く訴えていた(写真3)。

【写真3】展示の中央に設置されたAIDCを模した展示

【写真3】展示の中央に設置されたAIDCを模した展示

 

SKTは、このAIDCを通じて、今後のAIアプリケーションの多様化と需要拡大に対応できる、柔軟かつスケーラブルなネットワーク基盤の姿を提示した。中でも注目を集めたのが「GPU as a Service(GPUaaS)」である。これは、AIモデルの学習や推論に必要な高性能GPUリソースをクラウド型で提供するものであり、AI企業やスタートアップが大規模な設備投資を行わずとも、高度な計算環境を利用可能にする。SKTのAIDCは、冷却技術、電力効率、ネットワーク構成の柔軟性といった観点からも最適化されており、AI運用に特化した設計思想が随所に反映されている点も特徴的だ(写真4)。

【写真4】AIDC内部の展示

【写真4】AIDC内部の展示

今後、多様なAIモデルやサービスが次々に登場する中で、それらを安定的かつ効率的に支える基盤の重要性はさらに高まっていく。SKTの展示は、そうした未来を見据え、AIを動かすインフラそのものを通信事業者がどう提供していくかを明確に打ち出す内容であり、AI時代における通信の新たな位置付けを感じさせるものであった。

InfoComニューズレターでの掲載はここまでとなります。
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Deutsche Telekom、AIによるネットワーク運用の自動化

講演セッションもAI一色:注目が集まるAI-RAN

AI同士は協調できるか:モデル間連携の課題

まとめ

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

[1] MWCは、スペイン・バルセロナの他、地域に特化したものとして、米国ラスベガス、中国上海等でも毎年開催される。

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