2017.4.27 ICT利活用 農業×ICT

食育分野のICT活用(新潟県)~NTTドコモによる分野連携の取り組み~

NTTグループの農業×ICTの戦略について、今回は分野連携の取り組みを紹介します。

分野連携とは、「NTTグループの農業×ICT-農業生産者、流通・加工・小売業者、消費者の三位一体の成長・発展の実現に向けて-」で紹介したように、農業と他の分野の連携により社会課題の解決や新たな付加価値創造を目指すもので、現在注力するグループ連携やパートナー連携の先にあるアプローチとして掲げられています。

分野連携

図表1:分野連携
出典:「NTTグループの農業×ICTがつくる未来」(NTT技術ジャーナル、2016年3月)
https://www.ntt.co.jp/journal/1603/files/jn201603012.pdf

地域の取り組みとそれを支えるICT

農業は、食糧を供給するという我々の生活の基盤となる産業です。その食料が我々に届くまでに、食品加工、流通をはじめ様々な産業と結びついています。また、このような農業を地域の魅力向上、経済活性化に役立てる取り組みが行われています。例えば、地域の農産物や海産物を原材料にした郷土料理・酒類・お菓子などの加工食品が作られています。また観光農園やグリーンツーリズムなど新たな観光資源が開発されるといったような広がりがみられます。

最近では地方創生の取り組みとして、全国の自治体が総合戦略に基づき、地域づくりを推進しています。例えばある地方都市では、冬場に外国人観光客が多いという強みを活かしてインバウンド観光を促進することによる国際観光都市を目指しています。この取り組みは、農業や医療、観光などの分野横断による取り組みで推進されるもので、国際的な健康保養地にすることを狙ったものです。そこにICTを利用すると各分野間での情報の交換・共有が可能となり、分野間連携が容易になることが見込まれます。うまく連携したその先に社会課題の解決や価値の創造といった効果も期待されます。

農業×ICTの取り組みを業界の枠を越えて分野横断的に広げようというのも観光をキーにした取り組みと同じ発想です。ICTを媒介とすることで分野連携が促進され、既成の枠組みを超えた新しい発想ができたり、これまでなかった付加価値が生まれたり、さらには地域固有の課題をも解決できる可能性に地域経済の活性化を考えている人々は期待を込めているのです。

NTTグループの取り組み

NTTグループでは、グループがもつ商材やデータを活用して分野連携に取組む方針です。例えば、農業においても農作物の順調な生育に日々の気象情報は欠かせません。ICTを使うことにより既存より狭い地域の気象情報が利用可能になります。これにより、局地的な気象変化を予測し、対応が可能になります。この気象情報を農業に利用すれば、象変化や気象災害に強い農業の実現に役立つ可能性があります。

実際に動き始めているのが、食育の取り組みです。食育は食に関心を持ってもらうことが目的ですが、さらに最近は農業体験などを通じて食と農業の関わり、地域の歴史、食文化、産業などの特性について理解を深めてもらうことを目的にした食農教育にも広がっています。これから紹介する取り組みは、農作業や流通の体験を通じて農業生産者の取り組みを理解する点に重点が置かれているため食農教育といえますが、本稿では食育と呼びます。

NTTドコモでは、コアビジネスであるモバイル通信事業を核に農業ICTの取り組みを推進しています。同社では、そのモバイル通信を他の企業の商材やサービスと組み合わせて推進している点が特徴です。その1つが東大発のベンチャー企業が開発した水田センサー(PaddyWatch:パディウオッチ[1])です。水田にこのセンサーを設置すると、スマートフォンやタブレットから温度、湿度、水位、水温の4つの環境データを確認することができます。この水田センサーを活用して水田の水位管理を効率化し、生産性の向上や収穫量の拡大に向けた実証実験を新潟市にて実施しています。さらにこの水田センサーを食育に活用して、これまでの食育とは一味違う授業を新潟市立味方小学校において実施しました。

本稿では、この取り組みを通じた分野連携の内容と可能性について、NTTドコモ 第一法人営業部 農業ICTプロジェクトチームの有本様にお話しをうかがいました。

NTTドコモ 農業ICTプロジェクトチームのメンバー。中央が有本香織氏(全国に約200名のメンバーがいる)

NTTドコモ 農業ICTプロジェクトチームのメンバー。
中央が有本香織氏(全国に約200名のメンバーがいる)

-食育の取り組みのきっかけは何でしょうか?

有本(以下、敬称略):2015年にNTTドコモは協業するベジタリアさまなどと一緒に、新潟市と「革新的稲作営農管理システム実証プロジェクト」に関する連携協定を締結しました。新潟市において大規模に稲作農業を展開する農業生産者に水田センサーと圃場管理や農作業記録ができるサービス「アグリノート[2]」を導入しました。

この実証事業で導入した水田センサーと「アグリノート」により水田の状況が把握できるようになったので、これを食育の教材として活用すれば水稲栽培のすべての行程を学習できると思い、新潟市と話しをして取り組みを実施しました。

 

「革新的稲作営農管理システム実証プロジェクト」概要

図表2:2015年から新潟市において実施する「革新的稲作営農管理システム実証プロジェクト」概要
出所:https://www.docomo.biz/html/plus_d_agriculture/

 

水田に設置した水田センサから温度や水位などの情報を取得し、スマートフォンやタブレットを通じて水田の状況が確認できる

水田に設置した水田センサから温度や水位などの情報を取得し、スマートフォンやタブレットを通じて水田の状況が確認できる
出所:https://www.docomo.biz/html/plus_d_agriculture/

-味方小学校で実施した食育の内容を教えてください。

NTTドコモの「dグルメ」を通じて児童が栽培したお米のプレゼント企画を実施。サイトでは児童が栽培している様子も紹介した 出所:NTTドコモ資料

NTTドコモの「dグルメ」を通じて児童が栽培したお米のプレゼント企画を実施。サイトでは児童が栽培している様子も紹介した
出所:NTTドコモ資料

有本:新潟市は食育の取り組みが進んでおり、8割以上の小学校に教育田という教育を目的にした水田があります。食育を実施した味方小学校は特に熱心で、地域の生産者にサポートしてもらいながら、生産者と連携して取り組んでいる学校です。従来の食育の授業では、多くの場合田植えと稲刈り、そして収穫したお米を試食するというスポット的な取り組みでした。ここに水田センサーとアグリノートを導入してもらい、タブレットを用いて水田の水位や水温、温度や湿度などの計測したデータやアグリノートに記録された農作業内容や写真を見ながら水稲栽培について学習することで、農作業の一連の流れについても学ぶことができるようになります。また収穫したお米は、給食で食べるほか、子供たち自身が地域の小売店で販売するなど、流通についても学習をしていました。今回は、これにEC(電子商取引)の取り組みを加えたいと思い、当社のサービス「dグルメ[3]」を通じて栽培したお米のプレゼント企画を実施しました。子供たちができるだけ農薬を使わずに育てたお米ということで反響も大きく、800人ほどの応募がありました。今後はECサイトで販売できる施策も検討していきたいと考えております。

分野連携はさらなる分野連携を呼ぶか?

有本さんがインタビューで語っていたように、この食育の試みは農業✕教育だけで閉じませんでした。さらにNTTドコモの会員サイトを通じて、最終消費者へとつながっていったのです。今後については未知数ですが、一つの分野連携から次の連携が生まれてくるという可能性を感じる動きと言えるでしょう。

-ICTを活用するメリットは?

ICTを活用することで、田植えと稲刈りの体験の間にある生育過程などを学習することができる 出所:NTTドコモ資料

ICTを活用することで、田植えと稲刈りの体験の間にある生育過程などを学習することができる
出所:NTTドコモ資料

有本:もともと味方小学校の食育は、地域の生産者を巻き込んで、栽培方法を教えてもらったり、水田の管理をしてもらうなど、地域ぐるみで行われていました。その中でICTの役割はどこにあったか。それはICTが情報共有を簡単にできる点にありました。ICTを活用すれば、水田の情報を当事者である生徒や先生はもちろん、保護者や地域の人が広く閲覧することができます。これがきっかけになって地域から意見がでてくるようになって、学校が地域に開かれていく可能性もあるのです。

-ICTを食育に応用した効果は?

有本:まだ実施したばかりなので、この取り組みによる効果は分からないのが正直なところです。ICTを活用した新しい農業を子供たちに見てもらうことで、農業に興味をもってもらうきっかけになればと思っています。農業が面白い、かっこいい、と認識してもらうことで農業への見方も変わりますし、農業の新たな担い手になっていく可能性もあります。

-食育での今後のICTの広がりは?

有本: 水田センサーでは水田の水管理に要する稼働の削減を狙っていましたが、実際に導入してもらうと新規就農者が水田の水管理をするのに役立っているという声があります。これを食育に活用すれば、日々の水田管理の水管理を子供たちができるようになります。動物の飼育では毎日携わることが大事なのですが、実際に子供たちには日々の餌さやりという役割があります。動物との毎日の触れ合いを通して育つ命のしくみや、自然とのかかわり方を学んでいるのです。同じようなことは農業にもあって、継続的に携わることで初めて、食物が育つ過程がわかり、面白いと感じるようになると思います。また、収益をあげている生産者はデータを活用して販売価格や出荷時期を決めているところが多いので、 ICTを活用してデータを取得することで、生育状況を把握したり出荷時期を決めたりしているので、子供たちにも農業でICTを活用することの意義を感じてもらえると良いと思います。

また、社会人を対象に、食育の取り組みを発展させて農業体験を通じた研修を実施しています。当社では、新入社員研修の一環としてチームビルディングの研修、当社社員とその家族を対象とした農業体験を一部地域でおこなっています。体験した人たちにはどちらの研修も大変好評でした。研修の受け皿になってもらった生産者にとっても顧客となりうる人との接点ができたと喜ばれました。生産者と消費者が直接会話をすることで、生産者のモチベーションにもつながったとのことです。今回の新入社員研修は千葉で実施しましたが次回はエリアを拡大することを検討しているほか、研修自体は徐々に広げられればよいと考えており、まずはNTTグループへの展開を視野に入れています。

食育の取り組みは農業体験研修にも広がる 出所:NTTドコモ資料

食育の取り組みは農業体験研修にも広がる
出所:NTTドコモ資料

子供たちから社会人への展開

農作業によって野菜を作る達成感や心身のリラックス、また共同作業をすると自然と会話がはずんで打ち解け心が和むなど、このような体験をしたことがある人は多いのではないでしょうか。このような効果を食育の取り組みと融合させた、家族や職場でのコミュニケーション活性化、チームビルディング、メンタルヘルスケア等の新しい取り組みへの展開が期待されます。

-食育から、流通販売への広がりや他分野への展開の可能性?

有本:農業への取り組みを通じて地域とのつながりができてきました。そうすると様々な課題があることが分かってきます。その課題とは、例えば地域の高齢者の健康管理であったり、農業をPRするための体験ツアーを実施したいなど、農業だけの枠には収まらない課題が多岐にわたっています。農業は地域に根差した産業だからではないでしょうか。農業だけではなくて医療や観光など、地域の発展に向けた取り組みに広がっています。

まとめ

分野連携における取り組みとして、食育を取り上げました。食育の取り組みにICTを利用することで、継続してデータが蓄積されます。授業を受けた児童は、このデータから生育状況に対する継続的な学びなど従来では見えなかった農作業の側面を知ることができます。児童にとっては農業を知るだけでなく、食や地域、地域の産業を理解するきっかけにもなります。生産者にとっては、消費者ニーズを知ることができます。それがさらにECを通じた流通分野への拡大、企業研修への応用など現在顕在化しつつある取り組みも含めて、食育に関わるステークホルダーに計り知れない効果があるといえるでしょう。

食育に関わらず、農業と様々な分野との連携にICTが媒介することで、取り組みの加速や更なる連携拡大が期待できます。NTTグループが推進するグループ連携やパートナー連携、分野連携により農業を軸にした地域発展や経済活性化に向けた取組への貢献が期待されます。

[1] ベジタリアが提供する水田の水位、水温、温度、湿度を計測するセンサーにNTTドコモの3G通信機能を内蔵し、10分ごとにセンサから情報を取得し、得られた情報を1時間ごとにクラウドに送信する。スマートフォンやタブレットで遠隔地から水田の状態を把握できるほか、予め閾値を設定しておくことで、それを超えた場合にメールで通知することもできる。https://www.docomo.biz/html/service/paddywatch/

[2] スマートフォンやタブレットから圃場管理や農作業記録ができるサービス。https://www.docomo.biz/html/service/biz_plus/product/agri_note.html

[3] 料理レッスンやレシピ検索、クーポン配布、ニュース配信など食をトータルにサポートするサービス。料理教室を展開するABC Cooking Studio、レシピサイト「クックパッド」を運営するクックパッド、レストラン情報サイト「食べログ」を運営するカカクコムと共同でサービスを提供する
・dグルメ
https://www.nttdocomo.co.jp/service/dmarket/gourmet/index.html


NTT研究企画部門プロデュース担当:久住、瀬戸


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