2017.11.15 ICT利活用 ICT経済 ICR研究員の眼

利用頻度増加によって拡大するeコマースの時間節約効果

日本国内の消費者向けのeコマース市場規模は拡大を続けており、平成28年で15.1兆円(前年比9.9%増)となった。eコマース市場拡大の背景にはeコマースの利便性の高さがある。eコマースが登場する前は、消費者が家電や書籍、食料品等を購入するためには出かける準備をして、店舗まで移動し、買い物をして帰宅するという手間がかかっていた。これに対して、eコマースを活用することで、消費者は自宅又は移動中の電車内等で商品を注文し、自宅に届けてもらうことが出来るようになった。これによって、消費者は実店舗まで買い物に行って帰ってくる時間を節約できるようになったと言える。しかし、こうした時間の節約効果がどの程度なのかについては評価できるデータが存在していなかった。

そこで、情報通信総合研究所では、「Amazon」、「楽天市場」、「Yahoo!ショッピング」という主要なeコマースサービスを対象に、消費者(eコマースサービスの利用者)がどの程度時間を節約できているのかを推計した。

その結果、eコマースを利用している全ユーザの1人あたり平均では年間36時間程度となった。ただし、これはeコマースをあまり利用しない消費者も含めて計算した平均値であり、月1回以上利用するユーザ(全ユーザの約4割)では年間84時間、週1回以上利用するユーザ(全ユーザの約1割)では年間274時間となっている。このように、eコマースによる時間節約効果は利用頻度が多くなるにつれて大きくなり、週1回以上eコマースを利用するユーザでみると一か月で丸一日に近い23時間にものぼっている。

eコマース利用による1人あたり年間節約時間

eコマース利用による1人あたり年間節約時間

また、1購入あたりの商品別の節約時間をみると、比較的近所で購入可能であり運搬もしやすい食料品や医療品・化粧品は小さい一方、遠方の店舗まで移動しないと購入できない可能性があり運搬が難しい家電・家具が最も大きくなっている。ただし、食料品は、1購入あたりの節約効果としては小さいものの、購入頻度は高いと考えられる。

1回あたりの商品別の節約時間

1回あたりの商品別の節約時間

前述のように日本eコマース市場は伸びているものの、EC化率(全ての商取引金額に対するeコマース市場規模の割合)は5%程度と米国(約7%)や中国(約15%)と比べると低い割合に留まっており、日本のeコマース市場はまだ成長する余地があると言って良いだろう。今後、購入頻度が高い食料品をネットスーパー等で毎週のように購入する人が増えていくと、平均的な時間節約効果が現在の週1回以上利用するユーザ並みにまで拡大する可能性があると考えられる。

eコマースによりもたらされる人々の生活を豊かにする効果については、定量データによる把握が難しいため評価や議論があまりなされてこなかったが、時間節約という観点で効果を計測したところ、利用頻度が高いユーザでは大きい効果を期待できることが分かった。

なお、本レポートの詳細版は11月末発行予定の「InfoCom T&S World Trend Report」(2017年12月号, No.344)に掲載予定のため、興味のある方はご覧いただきたい。

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