2015年3月2日掲載 法制度 風見鶏 “オールド”リサーチャーの耳目

電波免許事業者の合併と通信事業規制見直しの方向

2月も下旬を迎えて少し暖かい日のあるこの頃ですが、いよいよスギ花粉が飛び散る季節となりました。私は20年来の酷いスギ花粉症患者で、抗体反応を抑える薬の服用と目のかゆみを軽減する点眼薬に今回も世話になっています。そのせいで頭が常時ボーッとしていて目も霞んでしまい、なかなか通信市場の先行きまでも見通しにくくなってしまいました。


ソフトバンクの子会社4社の合併発表が1月23日にあり、4月1日が合併期日となっています。今回の合併の目的は、経営資源の集約、競争力強化、企業価値の最大化であり、存続会社をソフトバンクモバイルとして残りの3社ソフトバンクBB、ソフトバンクテレコム、ワイモバイルは消滅会社となります。これには、通信事業者の合併ということに止まらず、周波数免許法人どおしの合併という別の側面があって、電気通信事業法と電波法上の2つの問題が存在しています。事業法では事業登録の変更手続が必要となるだけですが、周波数免許会社の消滅と免許者の地位承継に関し電波法では、免許の承継については総務大臣の事前許可を要するのとともに、周波数免許時の開設計画を継続する実行可能性の判断が必要となります。事業法の問題は手続きレベルのことなので今回問題となることはないと思われますが、後段の電波法上の取り扱いは結構根が深い問題を孕んでいます。


そもそも2012年10月のソフトバンクによるイー・アクセス買収発表時にも周波数免許が同一企業グループに帰属することに関して議論があったことは記憶に新しいところです。そこにはモバイル通信サービスの競争促進政策から、いわゆるプラチナバンドをイー・モバイル(その後イー・アクセスに吸収)に周波数免許として与えたという経過があったからです。つまりソフトバンクによるイー・アクセス買収(子会社化)の際も、こうした周波数免許付与時の取り扱いを踏えて、実質的には支配子会社となったイー・アクセスの議決権行使割合を3分の1未満に抑えていました。それが今度は支配子会社の議決権行使のレベルではなく、合併による完全支配(全体の部分)となりますので形式的にせよ残っていた買収時の取り扱いはまったくなくなってしまうことになりかねません。合併による周波数免許の承継とはどういうことなのか考えてみたいと思います。


今回のワイモバイルを含めた合併は形式的には電波法に定める周波数免許の免許者の地位の承継で個々の周波数免許毎に承継について総務大臣の承認が必要となります。ただし、現行の電波法が想定しているのは周波数免許を他の免許のない者に承継することで、今回のソフトバンクの事例のように免許者が他の免許者に承継することは電波法は明文の規定を欠いているのが実態です。そもそも周波数免許を受けた者(法人)が他の免許を受けた者(法人)と合併するという事態を想定しておらず該当する規定を設けていません。電波は国民全体の有限資源なので国家管理が定められ、これを効率的に利活用することが求められている以上、本来免許を受ける者(法人)が免許時の開設計画を責任をもって最後まで実行することが免許付与時の条件になっているので、免許の承継という行為そのものがあくまで例外的な取り扱いと考えられます。その上、今回の事態のように免許会社2社の合併は当然電波法としては想定外のことです。


イー・アクセスの買収・子会社化の際にも、経済的に見れば合併と違いはないのでこの種の問題点の指摘がなされましたが、形式的には子会社化であり法人格は存続するので、その点を踏えて議決権行使割合3分の1未満という制約によって問題の顕在化を回避したものと認識しています。今回の発表のとおり結局、合併するとなると議論を遡って買収時の取り扱いは何だったのか、電波政策の一貫性と競争促進・規制政策のあり方に疑問が残ります。その上、企業グループ全体のまとまりで周波数の割当状況をみると、ソフトバンクグループが200MHz幅以上、NTTドコモとKDDIグループがそれぞれ160MHz幅となっていますので、これに対し何らかの方策が求められるようになるのは当然の帰結でした。


実際、昨年12月18日に総務大臣に答申された、情報通信審議会「2020年代に向けた情報通信政策の在り方―世界最高レベルの情報通信基盤の更なる普及・発展に向けて―」のなかで、主要事業者のグループ化・寡占化の進展に対応した競争政策の推進の項目に、


“主要事業者のグループ化に関する規律の導入


  • 事業者のグループ化(合併、株式取得等)について、総務省が審査を行うことを可能とする規律等を導入することが適当。
  • 「グループ」に関する規律の扱いを含め、競争政策と電波政策で十分に連携を図っていくことが適当。”

と政策の具体的な方向性が既に打ち出されています。これを受けて近々、電気通信事業法と電波法の改正案が国会に提出されると聞いています。こうした一連の動きの途中での今回の合併劇なので総務省当局がどのような姿勢で本件に臨むのかに注目しています。


具体的に考えられる方策としては、


  1. 電波法に定める免許者の地位承継認可手続審査に時間をかけて、改正案の国会審議と成立を見定めた上で導入される規律等に従って判断する。
  2. 電波法上の免許者の地位承継認可を行うに際して、周波数免許時の開設計画の実施を確認・判断し、その上でその実行過程についての情報が合併の結果、社内に内部化してしまい不透明となることの担保として対外公表することを義務づける。
  3. 免許者の地位承継認可は現行法制上の手続きに従って進める一方で、承継法人たるソフトバンクモバイルが最大の周波数割当となることを踏えて、モバイル通信分野における現行の規制政策を見直して各種の支配的事業者規制を撤廃する方向を示してモバイル通信市場の競争バランスを回復する。
  4. 今回の承継認可を進めると同時に、将来の周波数免許時には周波数割当量全体のバランスを図り調整する旨の電波政策をあらかじめ示して、競争上の資源たる電波の効率的管理を進める。


以上が私が思いつく方策ですが、これらの組み合わせももちろん可能です。また、米国やEUで通常みられる、モバイル通信会社間の買収や合併の承認にあたって周波数の一部返上や他事業者への譲渡という方法もあり得ますが現行法制とその運用上は想像の域を出ません。


いずれにせよ、今回のソフトバンクの子会社4社の合併では現行法制上の不備が明らかになっている以上、その法改正とその後の運用面での対応が絶対に必要です。だからといって私は規制を強化して何でも取り締まれというつもりはありません。むしろ逆に、周波数割当量のアンバランス現象が生じてしまっている以上、もはやモバイル通信分野では支配的事業者規制の意義がなくなってしまっているので規制の撤廃を進める方が望ましいと思っています。


また、今回のソフトバンク子会社4社合併発表後の新聞報道では、日経新聞の2015年1月31日付の社説「競争問うソフトバンク合併」と日経産業新聞2015年2月5日付囲み記事(サーチライト)「ワイモバイル 流転の先―合併後も遊び心期待」がみられましたが、多くは合併発表時の内容を伝えて経営資源の集中や効率化を狙いとする旨の報道でした。ここで私が抱いた電波法制や競争政策上の取り扱いへの疑問や今回の情報通信審議会で示された競争政策と電波政策の整合、即ち、電気通信事業法と電波法の改正問題についての解説まで踏み込んだものは残念ながら見受けられませんでした。今後、法律改正案が国会に提出される場合には、前述の論点やこれまでの支配的事業者規制の見直し(撤廃)などの方策が解明されることを期待しています。


冒頭の話題に戻りますが、2月下旬になって私のスギ花粉症は相当に酷くなっています。今年は昨年よりスギ花粉の飛散量が多いとのことで、毎日薬のせいでボーッとした頭とかゆみを点眼薬で抑えたぼやけた目で先行きを見ている状況です。先の開けた展望ある自由で公正な競争市場を見通したいと願っています。

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

ICR|株式会社情報通信総合研究所 情報通信総合研究所は情報通信のシンクタンクです。
ページの先頭へ戻る
FOLLOW US
FacebookTwitterRSS