2018年2月1日掲載 ITトレンド全般 風見鶏 “オールド”リサーチャーの耳目

楽天のモバイル通信事業参入が提起する課題-利用者志向の競争政策と構造再編を見据えた産業政策



昨年末に楽天がモバイル通信事業への参入を表明して以降、12月26日の総務省電波監理審議会からの答申「第4世代移動通信システムの普及のための特定基地局の開設に関する指針」を経て、周波数(1.7GHz帯と3.4GHz帯)の割当てについて、いろいろな方面から議論が盛んに行われています。いわく、「楽天の新規参入機に携帯市場の活性化を」(2017.12.17 日経新聞社説)、「競争で通信市場活性化を」(2017.12.17 毎日新聞社説)など、既存のモバイル通信会社3社寡占に対して競争を促して料金の引き下げを期待するものが多く見られます。

楽天は既にMVNO事業者(楽天モバイル)として自社契約のほか、昨年11月1日にプラスワン・マーケティングが提供するFREETEL.SIM等のサービスを承継していて現在ではMVNO業界シェアで第1位(140万契約)となっているので、競争の活性化の趣旨では総務省で同時期(12月25日)に始まった「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」の内容の方が本来適切な方策に思われるのですが、今回、第4のモバイル通信事業者として周波数割当てに臨むことを表明したことで、楽天にとっては市場競争の領域が新たに拡大することになりました。

ところで、MVNOである楽天モバイルと今回新規参入するMNO楽天とは実際上どのような関係になり、いかなる規制を受けるのか、そもそも同一グループ内で既存事業者回線との接続によるサービスと自社回線サービス、さらには自社回線サービスのエリア外でのローミングによるサービスとがどのような関係を持ち、電気通信事業法上どのような規制を受けるのか、現行の法制上は想定外のことなので私には想定がつきません。

しかし、少なくともMVNOとしての接続と自社エリア外でのローミングでは規制上、料金設定方法・基準がまったく異なっているので、適正原価プラス適正利益なのか、当事者間の相対による交渉なのか、大きく結果は違ってくるし、接続義務があるのか、事業(経営)戦略上の相対契約なのかなどその法的取扱いはまったく異なってきます。制度上大きく異なる性格のモバイル通信サービスを同一主体又は同一グループ内で取り扱うことに利益相反問題を含めて政策面であらかじめ詰めておく必要がありそうです。つまり、今回定められた「4G用周波数の追加割当ての基本的考え方」にある絶対的審査基準からも、基地局設置場所の確保や設備調達・設置工事体制の確保の計画上、MVNOと新しく周波数割当てを受けるMNOとが利益相反、あるいは今回新たに議論されているMVNOとの公正競争促進方策に矛盾を生じないか、例えば、モバイルネットワークの接続条件・接続料金等の取り扱い(設備構築エリアの展開を含めて)に特に注意が必要でしょう。いいとこ取りは許されませんし、MVNOとMNOとを兼ねる場合にはより一層適正性が求められることになります。この点、競争促進の利用者志向政策にも、MNO間だけでなくMVNOとの間でも配慮が必要で電波資源を利用する競争政策である以上、こうした点についても、あらかじめ電波法だけでなく事業法上の詰めを行っておかないとモバイル通信事業の将来目通しが困難となります。

さらに、今回の基本的考え方の中で従来は見られなかった7番目の項目、即ち、「なお、割当を受けた事業者が、既存移動通信事業者へ事業譲渡等をした場合は、開設計画期間中であっても、認定を取り消す。」には驚きと同時に電波当局の並々ならぬ決意を感じました。もちろん、この項目の趣旨は審査上の絶対的審査基準にもなっていますので、新規参入する楽天もこれに拘束され、万一、参入事業が不成功に終わっても既存のモバイル通信事業者から救済(合併、事業譲渡など)を受けることはできないので、本来事業開始時に想定しておくべきEXIT(出口)のうち撤退方策のひとつを失うことになります。従って、参入時の決意こそが何よりクリティカルになります。それにしては、楽天が事業参入表明時に示した、基地局整備などに2018年に2000億円、2025年までに最大6000億円との投資額は新規参入という重大な決断としては少な過ぎる気がします。既存の3社は各社とも今でも毎年5000億円前後の設備投資を継続しています。ましてや2020年の5Gサービスの開始に向けてさらなる投資負担が加わってきます。これに比べて楽天の設備投資表明金額は少な過ぎて、本当にどこまで本気でモバイル通信サービスを展開する気なのか心配になります。第4のモバイル通信会社として参入して市場活性化が期待されている以上、今後の開設計画の認定申請時(1~2月頃)までに具体的な計画が示されることでしょう。

前回2012年のイーモバイル(イーアクセス)への700MHz帯の周波数割当てとその後のソフトバンクグループへの事業承継とグループ会社化(結局は合併)へと続いた電波免許の承継に疑問符のつき兼ねない方法を2度と繰り返すことのないよう、今回は公明正大に進めていってもらいたいと思います。そういう意味で電波法だけでなく、産業政策を担う電気通信事業法の妥当な運用を求めておきたい。万一、今回の新規参入が不成功に終わったとしても、終戦処理策と再生方策を産業政策面からシュミレーションしておく心構えが何より求められます。

私は何も楽天の事業参入が不成功に終わると言うつもりはまったくありません。しかし、表明している設備投資額が過少であることや既に同じグループ内にある楽天モバイルがMVNO市場で第1位を占めていること、そのMVNO市場での公正競争促進について具体的方策の検討が始まっていることなどから、競争政策と産業政策の適当なバランスの確保が必要であることを申し上げたいだけです。世界をみるとモバイル通信サービス主要国では多くが3社体制で運営されていて、日本の市場規模で4社が持続的に成立し得るのかは大きな社会実験になります。問題は経済規模や人口規模とも既に成長期を過ぎて成熟期、安定期(減少期)を迎えている我が国にそれだけの社会実験を試みる余裕があるのかどうか、特に5Gへの展開を直前に控えた時期だけに不安があります。私は今はMVNO事業者の淘汰・合併を進めて競争力を付け、既存MNOとの間で料金競争、サービス競争が進展することが先決ではないかと思っています。その上で、5Gの持つ技術とサービスの多様性・重層性の中で競争局面をより強く意識した事業参入の方がより妥当性が高いと想定しています。

ただ今回の周波数割当審査では4枠に対し4社からの申請と想定されるので、どれか限られた枠に各社が集中しない限り、結局のところ1社1枠に落ち着くことになるでしょうから枠取り自体よりもこれからの競争政策と産業政策のバランス、優先度合に注目して行きたいと思います。

(本欄風見鶏の次回掲載は3月1日の予定でしたが、大きな話題がありましたので今月に急ぎ掲載することにしました。)

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