2015年10月28日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

今後の中古住宅市場にITがもたらす変化とは


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人口の急減、少子高齢化の加速、空き家の急増などの課題を解決するため2006年に「住生活基本法」が制定され、来年で10年となる。約38兆円と言われる不動産市場は、各種規制等によりITの力が及びづらかった市場であったが、ようやく規制緩和が議論され、スタートアップによる既得権益を越えるサービスが続々と誕生し、業界に新風を巻き起こしている。

本稿では、現代の日本が直面する住宅・不動産市場の課題を踏まえつつ、そこにIT企業がどのように取り組み、またそれらが消費者にどのような恩恵を与えていくのかについて考えてみたい。

日本の住宅事情

日本の住宅市場日本の人口は、少子高齢化の加速を背景に、2005年(1億2,777万人)にピークを迎え、またそれに呼応する形で世帯数も2015年をピークとして、今後は急激に減少すると言われている。そのような中、住宅に関しては戦後一貫した新築重視の政策等を背景に、ストック過剰な状態になってきている。

国土交通省(以下、国交省)の発表では、2013年時点の住宅のストック数は5,200万戸に上り、今後の人口/世帯数の減少によりストック過剰な状態となるにも関わらず、依然として毎年100万戸に近い新築住宅が増えている状況にあり、事態を深刻化させる状況が続いている。

一方中古住宅の動きはというと、国交省の報告では、日本の全住宅流通量(中古流通+新築着工)に占める中古住宅の流通シェアは約13.5%であり(図1)、米国90.3%、英国85.8%など欧米先進国の数値と比較して、大変低い水準にとどまっている。 

中古住宅流通シェアの推移(出典)国土交通省資料

【図1】中古住宅流通シェアの推移(出典)国土交通省資料

つまり、欧米先進国の住宅流通事情が中古中心であるのに対し、日本は新築中心であり、そのことが過剰な住宅ストックを引き起こす原因となっている。住宅ストックの増加は、同時に空き家の増加につながり、こちらも多方面で新たな問題となっている。また、日本では中古住宅の価値基準のあいまいな状態(※1)が続いたことから、中古住宅の資産価値は欧米のそれに比べて低くなってしまっている。国交省の発表によると「日本は、高度経済成長期以降約876兆円もの住宅投資がされてきたが、現在の住宅資産は340兆円でしかない」としており、言い換えると国民の財産が目減りしてしまっている構造となっている。

中古住宅の流通が進まないのはなぜ?

新築の需要が先行するのは、日本人の新築をよしとする考え方が根本に存在すると考えられるが、外的要因として以下3つの事項が影響していると言われている。

1つ目は、新築購入時の税的優遇措置である。新築の場合は、固定資産税が優遇され、登録免許税、不動産取得税が軽減されるなど、中古物件とは異なる税制優遇が大きい(表1)。

新築・中古による課税比較

【表1】新築・中古による課税比較

2つ目は、中古住宅の売買情報が、あまり公開されていないことが挙げられる。日本には、国交省指導のもと、全国の不動産売買情報がインプットされている「レインズ(不動産流通標準情報システムの略称)」という共通のデータベースが存在するが、このレインズは不動産事業に関係する者のみが閲覧可能で、一般の消費者には公開されていない(ネット等で見られる中古物件の情報は、流通している中古物件の一部である)。

このことが、消費者が不動産の中古売買を考えた場合、まず不動産仲介業者にアクセスしなければならない状況を生み出し、その煩わしさと情報の不透明さから中古不動産市場の活性化を抑制する一因になっていると考えられている。

3つ目は、住宅に対する保証が上げられる。“住宅は一生もの”という考え方が強い日本では、新築物件に義務付けられている販売事業者による瑕疵担保責任(10年間)も、大きな安心につながっていると考えられる。一方、個人間売買の中古住宅では、“現況有姿“といって売主の瑕疵担保が免責されていることもある(但し、3カ月程度の瑕疵期間が設定される場合もある)。

中古不動産を扱うIT系スタートアップの動き

国交省の調査でも「住み替え・改善の実現困難な理由」の第一は資金の不足で全体の35.1%だが、第二の理由は「情報等の不足」で27.5%となっている。このようなデータからも、中古住宅流通市場の活性化には、「透明性のある情報」と「取引における安心感」が必要とされていると言える。このように、ほとんどの消費者にとって中古住宅の売買やリフォーム(リノベーション)はやや縁遠い存在である状況を打開すべく、ITを使った新しい切り口で、課題解決に取り組んでいるスタートアップが、続々と登場しており、それらの一部を以下に紹介したい。

ビッグデータ解析で、独自のマンションスコアを公開
「株式会社マンションマーケット」 

「マンションマーケット」サイト(出典)マンションマーケット

【図2】「マンションマーケット」サイト(出典)マンションマーケット

マンションマーケットは、少しでも消費者と不動産事業者が保有する情報格差をなくそうと、独自のロジックにより算出したマンションスコア(想定価格)の情報を一般に公開している。コストのかかる各種業務をITに置き換えて無店舗経営を実現し、売却時の手数料を定額(一律49万円)にしたビジネスを展開している。

無店舗経営とは言っても、マンションの値引き交渉など、売買契約が決まるまでに発生する様々なやり取りは、同社の売却コンサルタントが代行し、契約締結までの必要なサポートをおこなってくれる。

売主・買主が直接取引できるマッチングサイト
「株式会社Housemart」

「Housemart」トップページ(出典)ハウスマート

【図3】「Housemart」トップページ(出典)ハウスマート

2014年創業のHousemartは、売り手と買い手をマッチングさせ直接やり取りできるようにすることで手数料を大幅に削減し(売り手数料を完全0円、買い手数料を通常手数料の50%とする)、中古不動産取引の価格破壊を進めている。基本は、売り手と買い手の直接取引ではあるが、単なるマッチングサービスにとどまらす、物件調査や売買契約書、あるいは重要項目の説明などをしっかりサポートしてくれる。

中古マンションをリノベーションしてから流通させる
「リノべる株式会社」

「リノべる」トップページ(出典)リノべる

【図4】「リノべる」トップページ(出典)リノべる

従来の不動産会社は、中古マンションを買い取り、それをリノベーションした後に販売することで“利ざや”を稼ぐビジネスをしていたのに対し、リノベるは、物件を顧客に紹介し、そこで商談がまとまれば工事を請け負い、工事代金を徴収する、というユニークなビジネスを展開する。同社は2010年に創業し、その後着々と実績を積み重ね、2014年度の受注件数は246件。2015年度にはさらに拡大すると見込んでいる。

また同社は、IoT(Internet of Things)時代を見据え、リノベーションを機とした、スマートフォンで家の鍵の施錠/開錠が可能なスマートロック機能や、画像認識センサーを使った家人の見守り機能等のIoT機器の組み込みなど、従来の事業者が取り組んでこなかった付加価値提供にも積極的にチャレンジしている。

ビッグデータ×AIで優良物件を探す「イタンジ株式会社」

「VALUE」トップページ(出典)VALUE

【図5】「VALUE」トップページ(出典)VALUE

仲介手数料無料の不動産賃貸の仲介サービス「ヘヤジンプライム」も提供するイタンジは、不動産投資家向けに、相場価格から乖離した裁定取引の情報をアラート配信するVALUEを提供している。VALUEでは、人工知能のディープラーニング技術を用いて、過去25年間の東京都内における不動産取引情報や金利、公示地価などを学習し、独自の価格推定の技術と組み合わせてサービスを展開している。利用料は月額5,000円で、売買が成約した時の手数料などはかからない。これらに紹介したスタートアップの創業者は、それぞれ過去に大手不動産会社の経験者であるという共通点を持ち、利用者目線での改革を進めている点は大変興味深い。

まとめ

中古住宅市場の変革への動きは、スタートアップにとどまらず「ソニー不動産がYahoo!Japanと提携し、不動産業界を変える(2015年7月7日)」とするリリースを出す(サービスの詳細は、後日発表)ほか、海外からも住宅リフォーム業者と消費者のマッチングサービス「Houzz」が参入するなど、国内外の大手企業も動きを見せてきており、いよいよ本格化するとみられる。

住宅市場の活性化は、ハウスメーカーにとどまらず、リフォーム業者、家具・家電業界等、多くの業界を巻き込む経済効果が高く、特に割安の中古住宅は、長期のローンに縛られず柔軟に住み替えていきたいと考える若い世代に受け入れられるとみられており、引き続き注目していきたい。

※1 日本が木造建築中心だったころに国税庁の減価償却の耐用年数が33年と決められ、その7掛けの20年を建物減価償却の基本として利用してきた。現代の建物は、木造でないこともあり実態とこの計算手法のアンマッチが指摘されている。

※2 中古物件に対する優遇は、築20年以内(マンションなど耐火建築物は築25年以内)、もしくは新耐震基準に適合することを証明できる建物に限られている。また、耐震性能が確保されていることが証明できない場合は、各種の優遇が受けられないことがある。

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