2016年5月19日掲載 ICT利活用 InfoCom T&S World Trend Report

NTTドコモの農業ICTへの取り組み (1)概要編



日本の農業は農業従事者の高齢化と減少、耕作放棄地拡大による農地減少など、様々な課題を抱えている。また、これまでも海外から安価な農産物が輸入されてきたが、2015年10月にTPP交渉が大筋合意したことで、農業は本格的な国際競争の時代を迎えることになる。これらに対して、国が策定した「日本再興戦略」では農業経営の大規模化により生産性向上を図り、農業の競争力強化を目指すとしている。具体的には農地の集積・集約化を図るほか、法人化を推進する。またICTや機械を活用した「スマート農業」により、人手不足の解消や生産性向上に向けた取り組みも進められている。

スマート農業に取り組むに当たっては、様々なツールが提供されている。分散する田畑を遠隔監視するシステム、栽培環境データを取得・分析して農作業の適切な時期を判断するシステム、収穫を予測するシステム、田畑や人のマネジメントをするシステム、販売や流通までのバリューチェーンを管理するシステムなどがあり、特にこれまで経験と勘に頼ってきた農業からの転換を目指すものがIoTやクラウドの進展などにより注目されている。以前から農業分野でビジネスを展開する企業に加え、異業種でありながらコアビジネスで培った技術を農業分野に展開して生産性向上を支援しようとする企業まで、幅広い業種がスマート農業に参入してきている。

そのなかでNTTドコモ(以下「ドコモ」)は、コアビジネスである通信事業領域を核に農業分野での貢献を拡大しつつある。同社の取り組みの特徴は、コアとなる無線ネットワーク部分以外は他の企業とのアライアンスにより推進している点である。また、同社は全国の支社・支店ネットワークを活用して農業ICT分野でも営業活動を展開しているが、そのなかで女性営業担当者を「アグリガール」と称して組織化し、農業ICTの普及に力を入れている。

本稿では、ドコモの農業ICTへの取り組みの特徴であるアプリケーション分野および流通分野でのアライアンス、そしてアグリガールの取り組みを取り上げながら、その拡大要因を考察したい。

ドコモの農業ICTへの取り組み

ドコモの農業ICTへの取り組みは、地方銀行などの地域金融の営業を担当する部門で開始された。JA向けにタブレットやスマートフォンを提案するなかで農業関連サービスを提案することになったのがきっかけだ。以降、同社では地域金融を担当する営業部門が農業ICTを担当し、全国約200名の体制で展開している。

同社の農業ICTへの取り組みは、コアビジネスであるモバイルサービス(スマートフォンやタブレット、モバイルネットワークやクラウド等)を農業に活かすために、農業に関する様々なツールを持つ企業と提携し、ソリューションを提供することをコンセプトとしている。

このコンセプトのもとに、同社は現在では畜産、畑作、稲作の栽培を支援している。例えば、以下で紹介する畜産分野へのアプリケーション提供の取り組みはそのような取り組みの代表的な例である。

【アプリケーション分野】

2014年から開始した畜産向けアプリケーション「モバイル牛温恵」は、大分県のベンチャー企業である(株)リモート(別府市)と業務提携して展開されている。このアプリケーションは出産を控えている母牛に体温センサーを取り付け、その体温を監視して分娩の細かい経過や発情の兆候を検知してメールで通知するものである。これにより、畜産農家が24時間体制で牛の状態を監視する負担を軽減できる。「モバイル牛温恵」は、2016年1月時点で約200件の注文があったという。

NTTドコモでは、上記の他にも様々な農業アプリケーションがラインナップされている。農作業の情報を記録・共有できるクラウド型農作業・生産履歴情報管理サービス「アグリノート」、水田の水位・温度・湿度を測定しスマートフォン等に注意情報を表示する「PaddyWatch」、光や水、土壌、大気などの環境の見える化をサポートする屋外監視計測システム「フィールドサーバ」があり、これらは様々なベンチャー企業にアプローチして、技術力や商品力のあるアライアンス先を選定し、アプリケーションとして提供されているものだ。

【流通分野】

ドコモの取り組みとしてもう一つ特徴的なことは、流通においてもアライアンスを作って販路を形成したことだ。「モバイル牛温恵」の場合はJAのグループ会社である全農畜産サービスと販売代理店契約を締結し、JAグループの販売網を通じて提供している(図1)。これにより、従来より農家との関係が強いJAの販売網を通じて牛の飼料や資材等と一緒の商流で農家にアプローチできる。異業種から農業に参入する企業にとって、既存の商流を活用できる点はメリットが大きいと言える。

【図1】モバイル牛温恵の商流

【図1】モバイル牛温恵の商流
(出典:情報通信総合研究所作成)

アグリガールの取り組み

上記に加えて、ドコモの取り組みの特徴として「アグリガール」の存在が挙げられる。先述のように、ドコモは農業ICTを担当する女性営業担当者を「アグリガール」と称して組織化している。これは全国の支社支店を横断した取り組みであり、「NTTドコモのアグリガールが日本の農業を変える!」(NTT技術ジャーナル2016 vol.28 No.3)によれば、アグリガールは全国で35名が活動しているという。アグリガールの営業活動はただ単にソリューションの販売だけではなく、ソリューションの利活用を着実に拡大させるためにJAグループと共同で実施する「モバイル牛温恵」の勉強会や、デモ機貸し出しに渡っている。「モバイル牛温恵」のデモ機を貸し出す際には、機器の使い方や通信方法等についての問い合わせに電話で対応するなど、きめ細やかなサポートを実施している。また、最近では、農林水産省が推進する農業で働く女性を応援するための取り組みである「農業女子プロジェクト※1」にも参加している。そのなかで農業女子の意見やニーズを収集してサービスに活かす取り組みをしており、ここでも先述の農業ICTのデモ機の貸し出し等を実施している。

まとめ

ドコモは自社ネットワークを持つ強みを活かしながら、アライアンスによってビジネスを拡大している。2015年4月に発表された中期戦略によれば、農業ICT化を推進し、「センサーとスマートデバイスをつなぐプラットフォームで勘と経験に頼らない生産性の高い農業を実現」することを目標に掲げている(図2)。

【図2】ドコモ中期戦略(農業分野)

【図2】ドコモ中期戦略(農業分野)(出典:NTTドコモ)

農業ICTによりデータが蓄積されていけば、データ活用をキーにして更なる連携も可能になってくるだろう。例えば、生産工程で蓄積されたデータをトレーサビリティや販売管理といった流通・販売工程で活用することも考えられる。また、NTTグループには各社が単独で展開するサービスがある(図3)。これらと連携してソリューションを展開するという方向性もあるだろう。

【図3】NTTグループの農業×ICT戦略

【図3】NTTグループの農業×ICT戦略(出典:NTT技術ジャーナル 2016 vol.28 No,3)

それらの展開の要になるのが、営業として全国の最前線で活躍しているアグリガールたちだ。アグリガールの活動により、農業ICTの普及が広がっていくことが期待される。


次回では、アグリガールの皆さんとの座談会を実施し、彼女たちのこれまでの取り組み、現在、そして将来に対する思いなどを語ってもらい、それらを通しドコモの取り組みを彼女たちアグリガールの視点からレポートしてみたいと思う。お楽しみに。

(こちらも合わせてご覧ください)

※1「農業女子プロジェクト」について(農林水産省)http://www.maff.go.jp/j/keiei/nougyoujoshi/

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