2016年5月19日掲載 IoT InfoCom T&S World Trend Report

垂直統合型のIoTプラットフォームに注目 ―データ流通市場が新たに成立するか?



IoTのネットワーク基盤を巡っては、2月下旬にスペイン・バルセロナで開催された「モバイル・ワールド・コングレス (MWC)」において、5G通信方式ではなく低速・狭帯域・低消費電力を特徴とするLPWA (Low Power Wide Area) に関心が集中していました。特に単3電池2本で10年以上という高い省エネ性能は電源確保や電池交換が困難な場所や環境にまでIoTを拡げることになるので、新しい利用分野や市場規模が注目されています。ただ、無線周波数として免許不要帯域を使用する方式と既存の通信会社が使用している免許帯域を使用する方式に分かれていて、通信速度や基地局の利用・新設などを3つの陣営で競っているのが実状です。私は以前、本誌2015年4月号の本欄に「IoTサービスの本命は5Gネットワーク」と題して、5G推進の立場を展開しました。それは高速・広帯域・低遅延・大容量を特徴とする5G方式に着目して、主としてコネクテッドカーや遠隔医療、AIを活用した遠隔制御や自動化などを想定した、いわゆるクリティカルIoTを意識したものでした。しかし、その後のIoTの進展では、より一層多数のデバイス類の接続とそのためのコスト(新設・維持とも)がポイントとなっています。このことが今回のMWCでも関心の的でした。

こうしたなか4月から、さくらインターネット(株)が提供するモバイル通信対応のIoTプラットフォーム「さくらのIoT Plarform」のα版が始まります。また9月にはβ版を開始して今年度中にサービスを正式提供するとも発表しています。このサービスは、モバイルネットワーク環境からデータの保存・処理を行うクラウドまでを取り込んで垂直統合して、様々なデータが流通する基盤を構築するものです。データ流通のなかで、これまで認識されてこなかった相関関係を発見して新しい価値やサービスを創出しようとする挑戦であり、世界でもユニークな新しいビジネスモデルで、文字どおりのサービスイノベーションと言えるものです。サービス内容は、(1)3G/LTEのSIM内蔵の通信モジュール、(2)レイヤー2接続のMVNO通信回線、(3)データの保存・処理等データセンターの提供(データは閉域網に蓄積)、④APIで外部のクラウドやアプリケーションサービスを利用可能、という4つの機能を垂直統合して提供しています。もちろん(1)から(4)までの機能を個別に提供する既存のビジネスモデルは存在しており、特に目新しいものではありませんが、この垂直統合型のプラットフォームを利用してIoTデータを公開する企業が参加し得る料金体系を予定しているところに特色があります。即ち、IoTデータの保存について、データを非公開にする場合には有料ですが、データを匿名化して公開する場合は無料としていること、さらに他の企業が有償でそのデータを利用することを可能とし、データ公開企業が対価を受け取ることができる仕組みを設けることを予定しています。これこそ、まったく新しいIoTデータの流通市場を創造しようとする試みです。ネットワークの外部経済効果を狙ったIoTプラットフォームの挑戦です。

IoTネットワークに関しては、動画等映像を扱う高速・広帯域・低遅延・大容量が求められるものから、冒頭の低速・狭帯域・低消費電力のものまで多様化が進み、低コスト化でも今回のさくらインターネットのIoTプラットフォームのようにMVNOを活用する方式が見られます。ただ、通信コストでは最初にデバイスに搭載するSIMチップの値段は3G/LTEではまだまだ高いので、冒頭のLPWAのNB-IoTが想定するように通信モジュールの価格が数ドル以下にまで低下すると、大量のIoTデバイスの導入が可能となります。また低消費電力により、例えば10年間電池交換不要となればその間のユーザー囲い込みにつながるので、大量設置型(マッシブ)IoTにはサービス運営面でも低コスト化・省力化は必須要素となります。今回の「さくらのIoT Platform」にも、このLPWAの流れが迫ってくるのではないかと思われます。

いずれにせよ、大企業は自社内に多様な大量のデータを取り込んで、ビッグデータ解析やAIの能力向上を目指している現状にあります。これまで米国Google社がインターネット上のデバイスで進めてきた方法を自社内に取り入れて大量のデータから新しい価値やサービスを生み出そうとしています。しかし、インターネットに接続されているPCやスマホなど、人の手から収集される大量の高速・広帯域データの蓄積や処理で先行する米国のOTT企業に追いつくのはもはや至難の状況となっています。一方、低速・狭帯域で低コスト、低消費電力のIoTプラットフォームにはまだ未知の世界が多く、大量にデータを収集・蓄積して様々な相関関係を見出せれば新しい価値を創造できる可能性がありそうです。大企業には既に自社内に大量のデータが蓄積されているので、そのビッグデータ解析からスタートできますが、新しいサービスを起こすベンチャー企業や中小企業にとっては既存データの蓄積がなく、解析対象のデータ自体を入手することが事業活動的にも金銭的にも困難な状況にあるのが実態です。この点、さくらインターネットが提唱し開始するIoTプラットフォームは従来にないデータ流通市場を生み出す可能性を秘めています。データ流通市場そのものは、商品となるデータの質や信用度など品質面の取り扱いが誠に難しいものだけに、提供者となるプラットフォーム事業自体の信頼度やブランドが大きな要素を占めることになると思います。この点、小回りのきくベンチャー的要素が新しい市場を作り上げることになると同時に、通信会社など既存の信頼度の高い企業が支援や提携を行って、世界に先駆けて新しいデータ流通市場の立ち上げを促進する取り組みもまた必要なのではないかと考えます。例えば、通信会社が保有する各種のトラフィック情報や利用動向データなどをより広く提供・匿名公開することで、他のデータとの相関関係など新しい価値やサービスの創造に結びつくでしょう。通信の世界だけでデータを取り扱っていてはイノベーションは難しいものです。特に、これまで無意味なものとして収集されることなく、その場限りで棄てられてきた大量のデータを低速・狭帯域で収集・蓄積するとビッグデータ処理能力とAI技術の発達によって、新しい何かが発見・創造できると想像します。マッシブIoTに適したプラットフォームにその可能性がありそうです。

ここにもモバイルキャリアがMVNOへのサービス提供者としてだけしか登場しないのは寂しい限りです。新しい通信方式であるLPWAのネットワーク開発と普及、その通信モジュールの低コスト化などに限らず、多様なIoTネットワークの拡大のためにも、IoTプラットフォームにまで踏み込んだ“インフラ+プラットフォーム”タイプのIoTサービスに期待しています。さらにグローバルな視点からは、国境を越えるデータ貿易の活性化にも及ぶので、今後のTPP時代にベンチャー企業が活躍し易い産業基盤を作り出すことにもなります。

今年のスペイン・バルセロナでのMWCではLPWAのブースが大盛況で、次世代のネットワークに関する議論の約1/3はLPWAに関するものだったとのこと、日本のベンチャーもモバイルキャリアもさらにスピードアップが必要です。加えて、匿名化データの流通に関して監督当局の規制緩和や国際競争力強化の観点から産業政策の支援もまた求められます。新しいデータ流通市場が立ち上がることが楽しみです。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

ICR|株式会社情報通信総合研究所 情報通信総合研究所は情報通信のシンクタンクです。
ページの先頭へ戻る
FOLLOW US
FacebookTwitterRSS