2016年12月8日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

VR元年? AR・VRで新産業創出に期待


Oculus

今年2016年はVR(仮想現実)元年と言われています。9月に開催された東京ゲームショウでは初めてVRコーナーが設けられ、多くの関心を集めていました。VRは現在のところ、映画・ゲームなどエンターテイメント分野で注目されていますが、VRデバイスとしてもOculus VRの「Oculus Rift」、HTCの「HTC Vive」、Samsungの「Galaxy Gear VR」、また10月出荷のソニーの「Play Station VR」など数多くの製品が市場に投入されてきています。VRだけでなくAR(拡張現実)を含めて市場規模は、2016年で約50億ドル、2020年には1,500億ドル(出所:英投資銀行・Digi-Capital)になるとの予測があります。市場規模の予測にはもちろん各社によって違いがありますが、全体の傾向として急速な拡大基調にあると同時に、VRよりARの比重が大きいこと、ハードよりソフトの成長率が高いことが共通に見てとれます。先述のDigi-Capitalの予測でもVR1:AR4の比率となっています。

 AR・VRの発展が見込める分野としては、ライブ配信(TV放送、イベント)、エンターテイメント(ゲーム、映画、サイネージ)、空間認識サポート(医療、観光・旅行、不動産、教育・訓練、自動車)などが想定できる一方、通信・ネット業界、コンテンツ配信業界への影響も考えられます。特にVRではHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を使って没入感を高めることが主流なので、どうしても映画・ゲームなどのエンターテイメント中心となり、分野が限られますが、ビジネスの世界ではARの方が各種のシミュレーションなど、情報を経験・体験に変える方法として市場規模が大きくなると予測されています。

最近話題の「ポケモンGO」は現実の風景(映像)とGPS位置情報とを組み合わせたARで、実写の世界を拡張してポケモンを出現させるゲームなので、一般的なAR技術をベースとしています。ゲーム性やキャラクターの魅力などエンターテイメント性に優れていて世界中の人気アプリとなっています。私はこれこそが「元年」の本質ではないかと思っています。即ち、AR・VR新世代の始まりと言うべきです。今はまだ、デバイスのコンピューターパワー(処理能力)が十分でなく不足しているからこそ、自然映像ではなく人手による(バーチャルな)アニメーション画像の中に没入するアプリとなっていますが、さらにコンピューターパワーが高まり、デバイスのCPU/MPUやクラウドの処理能力が強化されることによって、自然や人の映像を用いてARをスムーズにリアリティーをもって作り出せるようになると予想しています。ポイントは画像処理に適した高速チップを取り込んだデバイスの向上にあります。現在のところは使用するデバイスパワー(情報量、処理時間等)の限界からVRゲームが中心ですが、アルゴリズムの最適化や高解像度の進展によっていずれAR技術を用いたゲームや映像(例によって成人向けから始まる?)が主力になると考えています。

ビジネス的にも、AR技術は情報を経験・体験に変える方法として市場規模の拡大が見込めます。説明文や音声・図表等による解説を映像の世界として経験・体験させてくれるのがARであると考えると、ビジネスの世界はもちろん、医療、教育・訓練、軍事などの分野で限りなく広がっていくことでしょう。2020年東京オリンピック・パラリンピックの年に1,500億ドル(15兆円)市場で中心的な地位を誰が占めるのかが気になるところです。

2016年9月14日付の日本経済新聞は「日本はVR・ARで主導的地位を狙え」との社説を掲載して、IT分野のイノベーションで経済成長を目指すべくVR・ARに注力することを提言しています。スマートフォン(以下、「スマホ」)の部品・部材やセンサー技術で強みを持つ日本企業は力を発揮できるはずと指摘してもいます。まったくそのとおりですが、部品・部材だけでは世界とは戦えません。ポケモンGOに見られるとおり、コンテンツを誰がどう作るのかはまた重要なところです。特にARコンテンツの新しい要素として、360°カメラ撮影、3D-CGの作成や既存コンテンツのVR化などキャラクター人気への依存体質を乗り越えるコンテンツ業界の取り組みが求められています。加えて、今回のポケモンGOでは、モバイル通信ネットワークの輻輳(負荷)など通信やコンテンツ配信面でアプリ配信時の工夫があって、大きな支障は見られずひと安心でした。ただ、今後のAR・VRデバイスの処理能力向上やアプリ情報量の増大、クラウドとの頻繁な通信など通信業界やネット業界に与える影響も想定しておく必要があります。

モバイル通信では2020年には5G導入が本格化して、さらに高速・広帯域で低遅延の通信が可能となりますが、問題はそれだけで十分とは言えず、より一層能力を高めたスマホ/タブレットに対応したクラウドの配置、エッジコンピューティングの取り込みなど、特に自然の風景や人の映像に別の情報を加えてリアルな映像を常時、遅滞なく作り出せる通信ネットワークが必要となります。このことはネット業界でも同様なので、情報処理や配信技術・運用に注力した取り組みが求められます。情報を経験や体験に変える技術は、コンピューターパワーと通信技術とネット(配信)運用とを一体として推進しなければなりません。AR・VRを活用した新しいサービスの発展のためには、スマホ/タブレットを中心としたデバイスとAR・VRのアプリ、ネットワークやコンテンツ配信まで含めた関係者のオープンな連携がますます重要になります。

ゲーム業界は別ですが、最近特にARに注目が集まる要因としてはスマホ/タブレットの普及とウェアラブル端末の登場が指摘されています。スマホ/タブレットの特徴として人が日常持ち歩くデバイスであり、現実世界の事象に対して人工的な情報を付加するAR技術にとって親和性の高いデバイスであることは論を待ちません。ただ、登場時に世間で注目された「セカイカメラ」が2014年1月にサービスを終了した事例が示すように、特にARでは自然な映像処理でないと実際のサービスやビジネス面ではどうしても違和感がつきまとうため、さらなるレベルアップの追求が必要です。デバイスのCPU/MPUの処理能力向上、省電力化、小型化、低価格化など、AR・VRへの課題は山積しています。IT本流の世界であるだけに、現状世界中の技術者やソフト開発者が精力的に取り組んでいますので、2018年頃を分岐点として大きく転換していくものと予想しています。スマホ/タブレットの付属品として、ウェアラブルな小型機器を利用したVR(現在のスマホに接続するヘッドフォンのような)デバイス、スマホ/タブレット本体で利用するARサービスなどが、具体的にはビデオゲームから始まり、観光・旅行、不動産、医療、教育・訓練へとその領域を広げていくことになるでしょう。また法人利用では接客など対人コンタクトのない職場(工場、倉庫、事務所など)での社内利用で大きく進展すると想定しています。

これによって私達のモノや場所、事象に対する認識力は大きく拡大し、まさに頭脳で合成(構造化)してきた情報をより分かりやすい経験や体験に変えることができるようになります。現実世界の拡張なので市場規模は大きいと期待しています。2020年、1,500億ドル(15兆円)のうち、日本は少なくとも2割、3兆円規模の産業を目指したいものです。

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