2017年6月30日掲載 ICT利活用 InfoCom T&S World Trend Report

ドコモ・バイクシェアが提供する自転車シェアリングサービス (1)




前回5月号の記事では訪日外国人旅行者の観光満足度向上に役立つモデルとして、面的な通信環境提供や場所に応じた観光情報の提供の試みとしてポータブルSIMの活用可能性を取り上げた[1]。こうしたモデルを持続的に形成、発展させていくためには他にも重要な要素がある。その一つが域内での移動手段の多様性である。観光拠点が点在する都市において訪日外国人旅行者が、電車、バス、徒歩、タクシーなど状況に応じて移動手段を選択できることは、満足度向上の上で重要となってくるポイントの一つであるといわれている。日本では通勤ラッシュなど時間的な制約やゴールデンウィークなど時期的な制約が加わればその重要度は増すだろう。

ドコモ・バイクシェアの小林薫担当課長

【写真1】今回取材に応じていただいた、ドコモ・バイクシェアの小林薫担当課長。
(出典:本文中掲載の写真はすべて筆者撮影)

自分が移動したいタイミングで、体に過度な負担をかけず、目的地までスムーズに移動できるという観点から、先ほど挙げた移動手段に「自転車」が新たな選択肢として加わりつつある。とりわけ昨今注目されているのが自転車の新しいシェアリングサービスだ。NTTドコモでは2010年頃より日本各地での実証実験を開始し、2015年2月にサイクルシェアリング事業における合弁会社をNTTグループ各社とともに設立した。自転車に通信機能を搭載させ、東京都内を中心としてこれまでとは少し異なる自転車シェアリングサービスを展開している。ドコモ・バイクシェア アライアンス企画部の小林薫担当課長に同事業について聞いてみた。

―自転車シェアリングサービスの背景を教えてください。

小林:日本の観光地を訪れると、観光案内所の横に自転車が何台かとまっていて、貸出簿等に住所と氏名等を記載し、1日1,000~1,500円のお金を払って点在する観光地をめぐるというのがこれまでの一般的なレンタサイクルへのイメージだったと思います。ただこのようなシステムだと、数時間利用する人も1日利用する人も同じ料金を払わなくてはいけない、また、最終的には自転車を借りた場所に戻ってこないといけないという課題がありました。さらには、自転車を貸す側もスタッフを常駐させておく必要がありました。そこで私たちは人を介さずICカードや携帯電話を用いて貸出・返却の仕組みを実現することで、いつでもどこでも自転車を気軽に借りられるシステムを提供できるのではと考えました。

もちろん、訪日外国人旅行者の方々にも利用していただけるよう、目に触れやすい情報をオンサイト(パンフレットの多言語化)およびオフサイト(観光サイトとのリンク)で提供できるよう努めています。また昨年11月からはジャパン・トラベル様と訪日外国人向けの自転車シェアリング活用に関する業務提携を行うことで、訪日外国人旅行者をターゲットにした自転車の利用促進に向けた共同企画や運営について検討をし始めています。

例えば平日の銀座に滞在中の訪日外国人観光客が、ラッシュアワーの時間帯でもホテル最寄りのサイクルポートから自転車に乗って、築地や新橋、そして皇居外苑をまわり、丸の内まで行って、そこで自転車を返却し、買い物をして、お昼過ぎに電車でホテルまで戻ってくるといったこともできるわけです。ただやはり自転車に触れてもらってはじめてわかることも多いと思いまして、ジャパン・トラベル様との提携では、街を回遊し観光する新たな交通手段として、自転車がどのように役立つのかについて情報提供したり、自転車を使ったツアー(ツアーガイド付き)を企画したりするなどの具体的な取り組みを通して理解を深めてもらおうと考えています。

―利用者から見たサービスの具体的特徴は何ですか?

アライアンス企画部 小林薫担当課長

【写真2】アライアンス企画部
小林薫担当課長

小林:先ほどの話とも一部重複しますが、大きな特徴の1つ目としては「複数の貸出・返却場所があり、いつでもどこでも借りられる」という点ではないでしょうか。レンタカーでも乗り捨てサービスがありますよね。私もすべてのお客様の声を把握しているわけではないのですが、貸出手続きが容易で、手軽に借りられる点はこれまでの実証実験の中でもお客様から高い評価をいただいていました。

もう一つ特徴を挙げるとするならば、「電動アシスト自転車を手軽に利用できる」ことでしょうか。坂道の多い街や少し距離が離れた区間での移動の際に、あまり体力に自信がない観光客の方でも、電動アシスト機能によって気軽に利用できる点が挙げられますね。訪日外国人旅行者で電動アシスト自転車を利用したことがない方も多いようです。都内では六本木の方から国会議事堂や霞が関を通って皇居に抜けていくようなルートなどでは結構勾配があったりするので、そのメリットを実感してもらえると思います。

―実際にどのようなお客様が利用されるのですか?


小林:都心では通勤通学、ビジネス利用が多く、そうした方は長時間利用されるのではなく、公共機関を乗り継ぐ際や、地下鉄で1~2区間位の、タクシーを乗るほどでもないけれど、歩くのには少し遠いな、という距離を移動するのにこのサービスを使ってくださることがわかってきました。ある会社では丸の内の事業所から赤坂の本社まで利用する人も増えていて、健康増進に一石二鳥だという声も聞いています。現在都内では、千代田区(ポートマップは図2参照)、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、大田区で導入されており、計290カ所のポート、4,210台の自転車が設置されています(2017年4月末現在)。また上記の導入区のうち、大田区を除く6 区では、区をまたいだ相互利用が可能です(図1:区を跨いだ統合版パンフレット)。

関連パンフレット表紙と背表紙

【図1】関連パンフレット表紙と背表紙(区をまたいだ統合版として提供)
(出典:ドコモ・バイクシェア)

コミュニティサイクル ポートマップ:千代田区の例

【図2】コミュニティサイクル ポートマップ:千代田区の例(関連パンフレットより)
(出典:ドコモ・バイクシェア)

実際にどのようにすれば借りることができるのかについてですが、スマートフォンから会員登録していただき、借りたいポートの自転車を指定すると4ケタのパスコードが発行されます。あとはポートへ行き自転車に搭載されたシステムにパスコードを入力すると利用開始。返したい時はポートで施錠し、返却ボタンを押して完了という仕組みです。この他にお手持ちのおサイフケータイ[2]、交通系ICカードなどのFeliCa[3]カードを鍵としてかざして利用する仕組みがあります(図3~5参照)。

自転車の特徴解説

【図3】自転車の特徴解説(出典:ドコモ・バイクシェアWebサイトより)

―自治体など設置事業者から見たサービスの特徴を教えてください

千代田区コミュニティサイクルWebサイト

【図4】千代田区コミュニティサイクルWebサイト
(出典:http://docomo-cycle.jp/chiyoda/)

コミュニティサイクルポートの利用方法と利用料金

【図5】コミュニティサイクルポートの利用方法と利用料金(関連パンフレットより)
(出典:ドコモ・バイクシェア)


小林:首都圏以外でも、仙台市、広島市、那覇市など全国各地で導入が進んでいます。観光客への二次交通の提供を目的の一つとして、サイクルポート等の設置場所を二次交通の結節点に配置していただくことで、該当観光域内の渋滞が緩和されたり、車や電車では立ち寄れない場所へ行けるなどの新しい楽しみ方が生まれたりしています。そうした自治体の多くのご担当者様にうかがうと、観光客が市内滞在中にどこを観光・周遊しているのか、その観光客は国内の人なのか海外の人なのか、また性別や年代など、どのようなグループの人たちがどれくらいいるのか等の情報を必要とされています。現段階でそのすべてにお応えできるわけではないのですが、そうした自治体の皆様に段階的に情報を提供できるよう努めてまいりたいと思っています。

―今後の事業の展開について教えてください

小林:私たちはこの事業を「自転車に携帯電話を付けてみる」という観点からスタートしましたが、取り付けるのは必ずしも自転車だけではないと考えています。本日は訪日外国人旅行者についてお尋ねいただきましたが、訪れつつある超高齢化社会を想定すれば、これからは車いすなどもシェアリングされる日がくるかもしれません。またよりスポーティーに観光地を楽しんでいただくには競技用に近い自転車の貸し出しも検討すべきだと考えています。さらに今後検討を重ねていく中でまだ試行段階ではありますが、個人事業主にフォーカスした新たな取り組みを開始したところです。これについてはまた別の機会にご紹介できればと考えています。

電動アシスト自転車

【写真3】電動アシスト自転車の写真1(左側後輪上にパスコード入力用操作パネルがある)

ヒアリングを終え体験してみて

ヒアリング後、オフィスへの移動にさっそくドコモ・バイクシェアの電動アシスト自転車を使わせてもらった。最初に感じたのは貸し出し手続きが簡単であるという点だ。スマートフォンでWebサイトへアクセスし会員登録後、メールを受け取ったら、貸出ポートの自転車操作パネルでパスコードを入力すると開錠され、すぐに利用できる。通常のレンタサイクルであれば、貸出場所へ行き、管理人に自転車の空き状況を確認してもらい、必要事項を用紙に記入、本人確認書類を提示し、鍵を手渡しでもらうなど、時間がかかる場合もある。もちろん人を介した手続きには、地元の方とのちょっとしたコミュニケーションがとれる良さもあるのだが、特に管理人がご年配の方であれば、自転車を運んでもらうなど、体に負担をかけて出発準備をしてもらうことに申し訳なさを感じる場合もあるだろう。すぐにでも出発したい、煩わしい手続きはできれば省略したい、と考えている人にとっては、手続きが簡単であることは大きなメリットである。

電動アシスト自転車の写真

【写真4】電動アシスト自転車の写真2(スーツ着でもこぎやすく、前カゴにもビジネスバッグが楽に入る)

次に体への負担の軽さに驚いた。ハンドル部分の電動スイッチを押してこぎ出すと、足でペダルを軽く踏み込むだけで簡単に前へ進むため、平坦な道での走り出しはもちろん、勾配のある坂であってもサドルからお尻を上げず(いわゆる“立ちこぎ”をせず)にこぐことができる。これならばビジネスや観光で利用する場合でも目的地に着いた頃には汗でびっしょりということにはならないだろう。この快適さは地下鉄やバスなどの移動では得られない感覚であり、天候の良い日は外の空気を肌で感じることができ、いい気分転換にもなる。前カゴは、通勤通学などで利用されることにも配慮されてか、ビジネスバッグが十分に入る大きさだった。

さらに驚いたのはエリア内においてサイクルポートが面的にカバーされていることである。図2の千代田区のポートマップのように、公共交通機関への乗り換え等を意識して利用率を上げていくためにはバス停や地下鉄、JRの駅等との結節点となるようなサイクルポートの配置が求められる。より多くのサイクルポートを配備するためには、限られたスペースを有効活用する必要があるが、都市部においてスペースを確保するのは容易ではない。ドコモ・バイクシェアでは、サイクルポートを簡易設置できるよう、面的敷設の仕組みづくりをコンビニエンスストア等との連携で検討している[4]。 

さらに道路空間に設置する際の関連法規も備整されつつある。一例としては平成27年3月、高架下等の道路空間の有効活用について、まちづくりや賑わいの創出の観点から、道路管理上支障があると認められる場合を除き、無余地性[5]の基準が緩和された[6]。【写真5】のように首都高速道路出入り口の斜張橋下の空間を利用することでポート配置のためのスペースを巧みに確保している場所もある。筆者はこの写真の場所で自転車を返却したが、天候が良かったことも影響しているとはいえ、30~40台の設置ポートのうち、5~6台を残してすべてが空きポートとなっていたことからも、利用率の高さがうかがえる。

中央区浜町のサイクルポート外観

【写真5】中央区浜町のサイクルポート外観(斜張橋下のスペースを利用してポート設置)

一方でこうした事業には、自転車のメンテナンスの効率化、事故時保険の補償の対応、特定のポートに自転車が偏らないための再配置の稼働など、運用上の様々な課題が存在し、対応するためのコストも必要だ。利用者からの利用料収入やスポンサーの広告掲載による広告料などで事業の採算性を維持していくため、運営主体事業者には様々な工夫が必要となるが、公共交通の補完や都市計画・まちづくりの観点から、公共事業として各自治体が積極的に参画していく努力が欠かせないだろう。

また海外の利用客が増えるにつれ、日本人からすると当たり前だと思われるような事柄でも利用客の自国文化からはそうではない事柄(例:歩行者や景観の邪魔になるような場所に悪気なく駐輪してしまうこと、ポートではない場所に自転車を返却・放置してしまうことなど)が発生しないとも限らない。利便性の実現だけではなく、事業者の想定していない利用方法の未然防止や、地域住民など関係者の許容やサービスへの理解についても、ICTを活用しながら高め、実現していくことが今後のさらなる展開につながる大切な要素であると思われる。2020年にオリンピックを迎えるタイミングにあわせ、首都圏で展開していない他の区や近郊の市・町、日本各地に点在する観光地域の地方の自治体でも、こうしたシェアリングサービスが国内だけでなく海外の人たちにも気軽に使ってもらえるようになることを期待したい。

[1] 「NTTドコモが考える観光分野での『ポータブルSIM』活用の可能性」http://www.icr.co.jp/newsletter/wtr337-20170427-abe.html

[2] 「おサイフケータイ」は、株式会社NTTドコモの登録商標

[3] 「FeliCa」は、ソニー株式会社が開発した非接触ICカードの技術方式で、同社の登録商標

[4] 東京都内のセブン‐イレブンに自転車シェアリングのサイクルポートを設置。
http://www.d-bikeshare.com/release/2017/20170208/release_20170208.pdf

[5] 無余地性:道路占用の許可基準の一つ。道路区域外に余地がない場合(まずは私有地など道路区域外への設置を検討し、それでも道路へ置く以外に方法がないという場合)のみ許可するという考え方。

[6] 「高架の道路の路面下及び道路予定区域の有効活用の推進について」国土交通省、2015年3月27日
http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/senyo/pdf/kyoka_17.pdf

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