2018年2月27日掲載 ICT利活用 InfoCom T&S World Trend Report

地方自治体のICTを活用したインバウンド観光への取り組みとその効果



日本を訪れる外国人観光客は年々増加しており、観光業界だけではなく他産業への波及効果も期待されることから、官民でインバウンド観光(外国人の日本への観光)への取り組みが進められている。

政府が2017年3月に閣議決定した「観光立国推進基本計画」では、インバウンド観光に関連し、2020年までに、訪日外国人旅行者数を4,000万人にする、訪日外国人旅行消費額を8兆円にする等の目標が掲げられている。同計画では、その実現に向けて政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策として4つの観点でまとめられており、その中にはクラウドやWi-Fi、アプリといったICTを活用した施策も多く含まれている(表1)。

「観光立国推進基本計画」で掲げられている主な施策

【表1】「観光立国推進基本計画」で掲げられている主な施策
(出典:観光立国推進基本計画(概要)をもとに情総研作成)

増加する訪日外国人観光客

訪日外国人観光客数の推移を詳しく見ると、2015年に1,974万人、2016年に2,404万人、2017年に2,869万人[1]と増加している(図1)。国・地域別では圧倒的にアジア圏からの観光客が多く、2017年には中国から736万人、韓国から714万人となっており、2カ国で全訪日外国人観光客のおよそ半数を占めている。特に中国は経済成長によって海外旅行をすることができる層が増加し、日本を訪れる観光客も急速に増えている。また、消費も旺盛で「爆買い」として話題になったことも記憶に新しい。一方、欧米諸国からの観光客は毎年200万人程度にとどまっており、遠距離であることや言葉・文化の違い、他のアジア諸国と比べた場合の物価の高さなどがその要因として考えられる。

訪日外客2数(2013~2017年)

【図1】訪日外客[2]数(2013~2017年)
(出典:日本政府観光局 (JNTO) データより情総研作成)

近年の訪日外国人観光客増加の背景には、外国人観光客を呼び込むために行われている取り組みの影響もあると考えられ、日本政府観光局(JNTO)報道発表資料[3]から2017年に実施された取り組みの内、ICTを活用したものを整理すると、訪日観光客が多いアジア各国に向けてウェブサイトやSNSを活用したPRを実施していることがわかる。下記に主なものを記載する。

  • 人気YouTuberを起用した動画配信、カカオトークやInstagramなどのSNSを活用したPRや、総合オンラインショッピングサイトでの旅行会社との共同キャンペーンなどを実施した。(韓国)
  • インフルエンサーを通じた情報発信などにより、重点地域である昇龍道を中心に地方の魅力を訴求し、より一層のリピーター獲得や、訪日目的の多様化を図った。(中国)
  • 人気俳優を起用した訪日PR動画の制作やこれと連動したトークイベントの開催など、重点地域である東北・中部地方をはじめとする地方のPRを通じて、リピーター層のさらなる地方分散化に力を入れた。(台湾)
  • リラックスや癒しの旅『ゆるたび』をテーマに、ウェブサイトやSNS等を通じた情報発信を行った。(香港)
  • ウェブサイトやSNSで二次交通を活用した訪日旅行や地方の旅行スポットの掲載など、地方への誘客を意識した取り組みを展開した。(タイ)

このようにICTを活用したさまざまな取り組みが行われているものの、個別の取り組みによって増加した観光客数を正確に把握することは難しい。しかし、2020年までに4,000万人という目標達成に向けて各種取り組みを実施していく上で、その実施効果を検証することは大切である。そこで、地方自治体へのアンケート調査をもとにICTを活用した取り組みの実施状況と訪日外国人観光客増加との関係性を分析する。

地方自治体の取り組みとその効果

日本全体の状況を把握するため、全国の地方自治体へのアンケート調査をもとに、地方自治体によるICTを活用した来訪者の利便性向上や地域の魅力のアピールなどのインバウンド観光に関連する取り組みの実施状況を確認し、訪日外国人観光客増加との関係性を分析する。

(1) ICTを活用したインバウンド観光に関する取り組みの実施状況

インバウンド観光に関連する取り組みの実施状況を確認すると、全体の4割弱が取り組みを行っており、その他にも約5割が関心を持っていることがわかる(図2)。これを自治体区分別に見ると、都道府県のほぼすべてが何らかの取り組みを行っている一方で、村では取り組みを行っているのが1割程度にとどまっている。ただ、町や村などの規模が小さい自治体でも多くの自治体が関心を持っていることがわかる。

ICTを活用したインバウンド観光に関する取り組みの実施状況

【図2】ICTを活用したインバウンド観光に関する取り組みの実施状況
(出典:アンケート調査データより情総研作成)※無回答を除いて集計

(2) 具体的な取り組み

インバウンド観光に関する取り組みを実施している自治体に対して、ICTを活用した具体的な取り組みの実施状況を確認すると、平成25年以前では「自ら運営・管理するホームページやWeb上の観光案内を多言語化」が最も多いものの、平成26年以降では「無線LAN (Wi-Fi) アクセスポイントの設置」に多くの自治体が取り組んでいることがわかる(図3)。

インバウンド観光に関するICTを活用した具体的な取り組みの実施状況

【図3】インバウンド観光に関するICTを活用した具体的な取り組みの実施状況
(出典:アンケート調査データより情総研作成)
※回答対象はインバウンド観光に関する取り組みを実施している自治体(n=404)

今後、開始予定の取り組みでは「各種ログ(アクセスログ、GPSログ等)を活用したデータ分析」がやや多く、これまではなかなか取得できなかった位置情報などのログが最近では比較的容易に取得・活用できるようになってきたため、今後はそれらのログをビッグデータとして分析し、観光客の行動パターンなどを把握する取り組みが増えていくものと考えられる。

(3) ICTを活用した取り組みの実施状況と訪日外国人観光客増加との関係

ICTを活用した取り組みと訪日外国人観光客増加との関係性を分析するため、自治体に対して平成28年の訪日外国人観光客数が2年前(平成26年)に比べてどのように変化したのかを尋ね、それぞれの取り組みの実施状況(平成25年以前に開始、平成26年以降に開始、実施していない)と訪日外国人観光客の増加割合(3~15%増加、15%以上増加)の関係を分析した。

その結果、いずれの取り組みでも実施している自治体の方が実施していない自治体に比べて訪日外国人観光客が増加したという割合が大きい
ことがわかる(図4)。また、取り組みの開始時期で大きな差は見られないものの、「各種ログ(アクセスログ、GPSログ等)を活用したデータ分析」だけは、平成25年以前に開始した自治体よりも平成26年以降に開始した自治体の方が訪日外国人観光客の増加割合が大きくなった。これはICT技術の進展によって入手できるデータの量・質が向上したことや分析技術の進歩などによって、データ分析から得られる結果が施策や効果に結び付きやすくなったためではないかと考えられる。

ICTを活用した取り組みの実施状況と訪日外国人観光客の増加割合

【図4】ICTを活用した取り組みの実施状況と訪日外国人観光客の増加割合
(出典:アンケート調査データより情総研作成)

まとめ

今後も訪日外国人観光客の増加を継続させていくため、官民が一体となって取り組みを推進していくことが期待される。アンケート調査の結果から、ICTを活用した取り組みを実施している自治体では訪日外国人観光客が増加している傾向が確認でき、観光客を呼び込むためのPR活動や来訪者の利便性を向上するための取り組み等にICTを活用することが有効だと考えられる。また、特定のエリアだけではなく、広域で通信環境(Wi-Fi等)が整備されていることは来訪者の満足度を向上させると考えられ、口コミによる波及効果やリピーターの増加にもつながるため、一自治体や一事業者による単独の取り組みだけではなく、広域で連携した取り組みがより一層進むことが期待される。

補足1:アンケート調査の概要

アンケート調査は、全国の地方自治体(47都道府県、791市、23特別区、744町、183村、計1,788団体)を対象に、2017年1~3月に実施した。調査では、地方自治体におけるICTの利活用状況や取り組みの体制、課題、インバウンド観光等の取り組み状況などを確認し、回収数は1,104(回収率61.7%)だった。自治体区分別の回収数は以下のとおり。

自治体区分別の回収数

【表2】自治体区分別の回収数

[1]2017年1~10月値は暫定値、11、12月値は推計値。

[2] 訪日外客とは、国籍に基づく法務省集計による外国人正規入国者から、日本を主たる居住国とする永住者等の外国人を除き、これに外国人一時上陸客等を加えた入国外国人旅行者のことである。

[3] https://www.jnto.go.jp/jpn/news/press_releases/pdf/180116_monthly.pdf

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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