イスラム法適合の暗号通貨「NOORCOIN」登場
特集:デジタル・トランスフォーメーションとグローバルITインフラの注目トレンド(4)
増加するイスラム教徒
Pew Research Center(米国ワシントンDC拠点)の調査では、現在の世界のイスラム教徒の人口は18億人と試算されている。また同センターの予測では、イスラム教徒は他の主要な宗教の信者数と比較して、人口増加の割合が最も大きく、2030年には22億人に達すると予測されている。
イスラム経済の規模
Thomson Reuters’ State of the Global Islamic Economy 2017 to 2018によると、イスラム経済は2021年には3兆ドルに達すると予測されている。ただし、この調査でイスラム経済として定義されているものはハラール食品、イスラム金融、ハラール旅行等であり、イスラム教徒による経済活動のごく一部とも言われている。
イスラム法「Shariah」の存在
イスラム世界においてはイスラム法とも呼ばれるShariah(シャリーア)という法が存在する。門外漢の筆者にとって、この法についての詳しい説明はできないが、法があることで、イスラム教徒のビジネス活動へも一定の影響が及んでいる。これに関する有名なものとしては、利子の仕組みが禁じられていることがある。イスラム圏の各国においては、こうしたルールを踏まえた経済そのものが文化的により浸透しやすいサービスになる可能性があると言える。
続くルピア安
最大のイスラム教徒数を持つインドネシアの経済は90年代後半のアジア経済危機や2008年のリーマンショックを経験しながらも、近年GDPが5%を超える成長を維持している。
その一方で、インドネシアの通貨であるルピア(Rupiah)はハードカレンシーと呼ばれる米ドルに対しては値下がりの傾向が続いている。2011年時点では1米ドルあたり9,000ルピア前後であったものが最近では15,000ルピア程度と為替相場がルピア安で推移を続けており、通貨の安定性の観点からインドネシアとしては無視できない課題となっている。(図3)
Shariah対応のNOORCOIN
そうした環境の中、今年に入りインドネシアからイスラム教圏をターゲットにした新たな暗号(仮想)通貨が誕生した。それがNOORCOIN(ノアコイン)だ(カタカナ表記ではフィリピンのノア財団が管理運営するNoahcoinと同じになってしまうのだが、全くの別物)。
NOORCOINの最大の特徴は、何よりも先に挙げたShariah(イスラム法)に準拠しているという点だ。
NOORCOINはWorld Shariah Advisory Committeeというイスラムの経済活動上のShariahに関する諮問機関から正式に認証を得ている。
NOORCOINは発行については利子の仕組みを持たないなど、イスラム金融における取引のための原則に従い設計されたShariah準拠製品とされている。
支える技術
NOORCOINはBitcoinを始めとする他の暗号通貨同様にBlockchainをベースとしていることには違いがない。より具体的には、NOORCOINはシンガポール国立大学の研究者によって開発されたZilliqa(ジリカ)をプラットフォームとして利用している。Zilliqaの最大の特徴はトランザクションの処理能力だ。Bitcoinの7トランザクション/秒、イーサリアムの15トランザクション/秒に比べ、現時点でZilliqaは2,500トランザクション/秒の能力がある。また、消費電力もBitcoinの百分の1程度と試算されている。
サウジアラビアからのサポート
NOORCOINについては、サウジアラビアが早くから支援を表明している。筆者が出席した、インドネシアのジャカルタで行われたBOSTON UNIVERSITY BUSINESS FAIRにおいて、NOORCOINの紹介がなされた際には、同国のサウジアラビア領事が直接NOORCOINについての期待やサポートについて語る姿が見られた。
初期ターゲットは巡礼者
Hajj(ハッジ)と呼ばれる大巡礼では世界中から200万人のイスラム教徒がサウジアラビアを訪れる。サウジアラビア政府はこれを300万人に引き上げたい意向を持っている。世界各国からサウジアラビアを訪れるこれらの巡礼者が、スムーズに入国し、経済活動を行えることがサウジアラビアの経済の活性化にもつながると考えている。NOORCOIN支援の背景にはこうした政府の意向があると考えられる。
NOORCOINの今後の計画
NOORCOINは今年2月にプロジェクトが設立され、その後プレICO(Initial Coin Offering)が実施され、現時点ではαテストの段階となっている。運営会社の描くロードマップとしては、2019年第1四半期にICOを実施し、その後、2019年中にプラットフォーム上で20,000の取引可能なベンダーを確保し、トランザクション処理速度もクレジットカードのVISAと同等の性能とすることが目標とされている。
さらに同社は、その後2020年第2四半期には1億人の利用者と10万のベンダーを獲得することを目指している。
国家を超えてブロック化する暗号通貨
Bitcoinの登場以来、中央政府の信用を必要としない新たな形式の通貨が登場したことで、様々な議論が交わされてきた。そうした議論の中で、ここに来て新しい動きが生まれていることにお気づきになったかと思う。つまり、国家を超えた宗教による信頼に裏打ちされた暗号通貨の登場だ。これまで暗号通貨は自国通貨に対する国民の信頼が揺らぐときに大量に購入される傾向を見せてきた。このNOORCOINのようなイスラム教という超国家的な信仰を軸とした暗号通貨の登場は新たな時代の幕開けと言えるのではと筆者は考える。
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前川 純一(退職)の記事
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