世界の街角から:フランス パリ、リヨンへの旅 ~着物がつなぐ歴史と文化~

昨年11月、コロナ禍で海外旅行にはしばらく行っていなかったので、久しぶりにフランスへ。
パリは仕事でもプライベートでも何度も訪れているが、いつ行っても大好きな街。
歴史ある美しい街並み、芸術の都と呼ぶにふさわしい世界中の芸術作品が集まる美術館や博物館、ファッション・食・ライフスタイルまで、常に新たな文化を発信し続けるパリの魅力は語り尽くせないが、その一端をご紹介したい。
ノートルダム大聖堂
まず、どうしても一番に見に行きたかったのがノートルダム大聖堂。
パリ中心部、セーヌ川の中州であるシテ島にあり、世界的に有名なゴシック建築の美しい大聖堂で、ローマ・カトリック教会の聖堂ではあるが、宗教を超えて世界中の人に愛されている。特にパリの人たちにとっては街の象徴でもある建物だが、2019年4月15日、大規模な火災により大きな被害を受けたことはまだ記憶に新しい。美しい尖塔が焼け落ちていく映像は世界中に配信され、私も驚きと悲しみを持って見つめたショッキングな出来事だった。
その後、世界中からの支援により再建が進められており、ちょうど私が訪れた翌々週には内部の一般公開が再開されるとアナウンスされていた。だが、尖塔の再建はまだ続いており、裏側は引き続き工事中でクレーンが立ち並んでいる状態で5年経ってもまだ完全な再建には時間がかかるという姿だった。
正面の広場には階段状の観覧席のようなものが作られ、多くの人がそこに座り大聖堂を眺めていた(冒頭の写真1、2、3)。
ノートルダム大聖堂で私が好きだったものは、建物そのものやステンドグラスもさることながら、一番はパイプオルガンだった。ヨーロッパに行くと必ず教会に行き、ミサや演奏会の開催予定を見つけてはパイプオルガンの演奏を聴きに行っている。中でもノートルダム大聖堂のものは、その歴史と大きさで群を抜いた存在であり、いつも楽しみにしていた。
多くの貴重な遺物が人々の懸命な努力により火災現場から守られ、パイプオルガンも焼失は免れた。しかし、煙と消火時の放水の影響により、再び元の音色を出すことは難しいと思われるほどの被害を受けていた。そのような絶望的ともいえる状況の中で、800年以上の歴史を持つフランス随一のパイプオルガンは、5人の専門家の素晴らしい技術と強い思いによって修復が実現した。8000本を超えるパイプを一本一本取り外し、煤を払い損傷した部分を修復し、またセッティングして一本ずつ調律をしていく。4年以上にわたる気の遠くなるような作業により、昨年12月7日の再開式典では見事な音色を響かせた。その専門家の一人が関口格さんという日本人であったことも記憶にとどめておきたい。今回はかなわなかったが、ぜひ近いうちに再びあの荘厳なパイプオルガンの演奏を聴きに行きたいと思う。
オランジュリー美術館
パリには多くの名画がそろう美術館がたくさんあり、限られた時間の中でどこに行くのか決めるのが悩ましい。どの美術館も素晴らしく、規模も大きいため、きちんと見ると何日もかかってしまう。その中で比較的規模が小さく、とにかく「モネを見に行く!」というわかりやすさがあるのがオランジュリー美術館。もちろん、美術館にはモネ以外の印象派の作品や、様々な芸術作品があるが、ほとんどの人がここに行くのはモネを見るためだろう。
元々はその名の通り、チュイルリー宮殿のオレンジのための温室を、モネの大きな睡蓮の作品を展示するために改装した建物。温室らしく天井から柔らかい光が入る部屋で、全面モネの睡蓮に囲まれる体験は、なんとも言えないものがある(写真4)。
ちょうど日本でも先月まで国立西洋美術館でモネ展が開催されており、連日大行列でかなりの混雑ぶりだったが、オランジュリーではもっとゆっくり鑑賞することができ、人が映りこまない写真を撮ることができるのも魅力。好きな絵の前に座り、刻々と変わる日差しによっても変化する睡蓮の色合いを眺めながら、ぼんやりと一日を過ごすのも素晴らしいパリでの一日になるかと。とは思いつつ、ランチの予約があったので、後ろ髪を引かれる思いでエッフェル塔へ。
エッフェル塔
言うまでもなくパリの象徴であり、個人的には世界一美しい塔だと思う。昨夏のオリンピックでもエッフェル塔をバックにした演出があったり、メダリストが市民と触れ合うステージが塔の下に設けられていた。オリンピックのために塔の下はかなり整備され、以前は塔の真下にまで自由に行くことができたが、今は透明の壁で囲われてしまったため、塔に上るチケットを買って入場しないと真下には近づけないようになっている(写真5、6)。
このエレベーター(階段で上ることも可)がいつも大行列なので、これを避けて、かつエッフェル塔で特別な体験ができる技があるのをご存じだろうか? 塔の上にミシュランの星付きレストランがあり、ここの予約を取れば、専用のエレベーターで塔に上ることができ、素晴らしい景色を眺めながら食事をすることができる。食後には、展望台に出ることもでき、人々の混雑を横目に見ながら、専用エレベーターで降りることができる。もちろん、とてもいいレストランなので、お値段はそれなりにするのだが、お料理も素晴らしいので行ってみる価値あり。今回は久しぶりのパリのプチ贅沢ということで、ランチに行き景色と素晴らしい食事を楽しむことができた(写真7-10)。
マドレーヌ寺院
マドレーヌ寺院の周りはマスタード、トリュフ、キャビア、紅茶等の専門店が軒を連ねる大好きなエリア。いつもは食材店にばかり気を取られているが、今回はマドレーヌ寺院を紹介したい。一見すると神殿のようで、教会としては異彩を放つ建物。これはナポレオンがフランス軍の栄誉をたたえる神殿とすることにしたためで、正面にはコリント式の高さ30mもある柱が並ぶ、古代ローマの神殿を模した様式となっている(写真11)。
中は、素晴らしいステンドグラスや様々な彫刻、絵画で飾られてた美しい寺院である。ここのパイプオルガンも1849年に設置された歴史のあるもので(写真12)、歴代のオルガニストには錚々たる作曲家や演奏家が並び、オルガニストにとっては聖地のような場所でもある。ちょうど、その日の夜にコンサートがあるというチラシを発見し行ってみた。ヨーロッパではこういうチラシが町中にたくさん貼ってあり、毎日どこかでコンサートが催されているので、興味のある方はチェックしながら歩くのがお勧め。
管弦楽とソプラノ独唱が堂内に響き渡る素晴らしい演奏会で、念願のパイプオルガンも少しだがここで聴くことができ、充実した夜に(写真13、14)。
パリの街角
パリには様々な観光スポットや美術館、博物館など見どころが限りなくあり、そういうところに行くのもいいのだが、私はただただ街をブラブラするのも大好き。
何気ない街角の花屋や、焼き立てのパンの香りが漂うブーランジェリー、宝石のように美しいショコラが並ぶショコラトリー等、見ているだけで幸せな気分になれる。マルシェと呼ばれる市場には、食材やワイン、アーティストの作品から衣類まで様々なものが所狭しと並び、のぞいてみるだけでも楽しく新たな発見がある。
特に最近は円が安いこともあり、物価の高いパリでの食事は大変だが、マルシェでは比較的安くチーズやハム等が手に入るので、それらを買って朝ごはんにするのもよいかと(写真15-19)。
また、ちょうどクリスマス前だったこともあり、街は様々なデコレーションが施され、一層美しくなっていた。改装中のルイ・ヴィトンの本店はトランクの中に入っているような囲いとなっており、とてもオシャレ(写真20-23)。
ルーヴル美術館からコンコルド広場の間にあるチュイルリー庭園には、クリスマスマーケットも出て屋台が立ち並び、楽しそうな子どもたちの声があふれる風景はまさに冬の風物詩。私もホットワインで一息つきながら、ちょっと早いクリスマス気分を堪能(写真24-26)。
オペラ座
オペラ座と呼ばれることが多いが、正式には設計者の名前を取ったガルニエ宮という歌劇場で、12年以上の月日をかけて1875年に竣工した絢爛豪華な建物。オペラやバレエの公演が行われており、ネオ・バロック様式といわれる美しい建物を見るツアーも人気。
中に入ると大理石の大階段が印象的で、階段を上がると観客席や大休憩室という豪華なホールがある。あまりに豪華な内装に驚くばかりで、まさに宮殿という感じ。観客席の天井画はシャガールによるもので、これも素晴らしい(写真27-29)。
今回の旅のメインイベントの一つがオペラ座でのバレエ鑑賞。世界最高峰の4大バレエ団の一つであるパリ・オペラ座バレエ団で初の日本人エトワール(トップダンサー)となったオニール八菜さんの舞台チケットを取ることができたので観に行くことに。つい先日、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』という番組で彼女が紹介されており、その舞台の様子も映っていたので、ご覧になった方もいらっしゃるかと。演目はマイヤーリングという少し暗いお話だったが、彼女のバレエは素晴らしく、日本人がトップで活躍していることに感動を覚えた。
今回は組紐の教室で知り合った着物好きの友人との旅行だったこともあり、八菜さんに敬意を表して、オペラ座には着物で行くことに。装いは、フランス人が大好きな春を呼ぶミモザ柄の京友禅で、堺映祥さんの作品。帯は30年前に母からもらったものに、自分で組んだトリコロールの帯締めを合わせて。ホールに入ると、何人もの人に写真撮影を求められたり、着物について質問されたり、また、何度も来日されているご夫婦がシャンパンをご馳走してくださるラッキーもあったりと、フランス人の日本文化への関心の高さと知識の豊富さを目の当たりにした。荷物が増えて大変ではあったが、少しは着物文化を伝える機会にもなったかと思い、着ていってよかったとしみじみ思う夜となった(写真30)。
今回の旅では、フランス第2の都市であるリヨンにも行ってみた。リヨンは美食の街として有名だが、繊維の街であることは、日本ではあまり知られていないのでは? そこでも様々な出会いがあり、西陣とリヨンのつながりなど、文化的な深い交わりを体験することができた。
この続きは、次回に!
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