例年だと秋から冬にかけては各種カンファレンス取材等で海外出張の機会があったのが、コロナ禍で在宅勤務中心となった2020年は日本はおろか、自宅のある新宿区内からもほとんど離れることがない日々が続き、海外ならではで得られる新鮮な刺激がないまま一年を終えることとなった。そうして迎えたお正月休み、近所を散歩途中に、すぐそこにグローバルな街があることをふと思い出した。そう、我が街、新宿だ。そもそも新宿区は人口344,816人のうち、外国人が36,959人で、約11%を外国人が占めている(2020年12月1日現在の住民基本台帳ベース)。そこで、普段は海外の街の様子をご紹介する当コラム「世界の街角から」も、今回はグローバルな街、新宿の中でも、特に異国情緒が漂う刺激的な街、新大久保をご紹介したい。新大久保はJR山手線新大久保駅から総武線大久保駅界隈の大久保通り沿いを中心に様々な飲食店、雑貨店がひしめき合うように並んで、独特の賑わいを見せている街だ。豆知識として紹介すると、実は新大久保という地名は存在しない。正式には新大久保駅、大久保駅の所在地は新宿区百人町で、新大久保駅から東側にすこし行ったところから大久保という地名となっている。とはいえ、その界隈は「新大久保」と広く呼ばれているので、ここでもその呼称を使うことにしたい。
新大久保と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは「コリアンタウン」だろう。数年前にヘイトスピーチが横行した頃は人通りが減ったが、その後、また客足が増えてきている。街には数えきれないほどの韓国料理屋が立ち並ぶ。昔は韓国料理といえば、韓国焼肉、そして締めの冷麺が定番であったが、現在では、それらに限らず韓国食文化の浸透とともに、ビビンバ、チーズダッカルビ等々豊富なバリエーションの料理を楽しむことができる。

【写真1】賑わいを見せる大久保通り沿いの店(左)
立ち食いを楽しむ若者たち(右)
(出典:文中掲載の写真はすべて筆者撮影)
ちなみに、我が家にはティーンエイジャーの娘がいる。あるとき、「最近の女子中高生はどこに遊びに行くか」という話になったことがある。そのとき彼女たちに一番人気の場所がなんと新大久保だと教えられた。時代錯誤は承知の上だが、てっきり女子中高生は原宿でクレープでも食べているのかと思いきや、娘曰く「原宿はちょっとおませな小学生の街」だそうで、中学生以上のおねえさん組は新大久保へと向かうそうだ。雑然とした街が女子中高生の人気スポットとは、自分としては意外だったので、「新大久保の何が楽しいの?」と聞いてみたところ、路面で売っているスイーツを食べ歩いたり、チーズダッカルビをみんなでつついて、その熱々のチーズが伸びているところをインスタにあげたり、韓流アイドルグッズの店を覗いたり、韓国コスメを試してみたり、比較的お手頃で様々な楽しみ方があるそうだ。

【写真2】韓流アイドルグッズ店(左)と化粧品店(右)
新大久保のなかでも、そうした十代の女の子たちの関心を集める場所は、確かに新たな流行や文化を発信しているように感じる。例えば「ハットグ」と呼ばれる韓国風のホットドックはいまだに人気だ。ハットグは棒に刺したチーズを小麦粉で作った生地で巻いたものを油で揚げて、最後に砂糖とケチャップ、マスタードをつけていただく。油、砂糖、塩分の悪魔の組み合わせで味覚をダイレクトに刺激する。食べているときは確かに美味しいものの、アラフィフの胃ではしばらく胸やけと付き合う覚悟が必要だ。さらに街を歩くと、おじさんには名前すら分からない、マカロンらしきスイーツを売る店が大盛況しており、そろそろ下火なタピオカミルクティーの地位を淡々と狙っているように感じられた。

【写真3】筆書がトライしたハットグ(左)と
大人気のマカロンらしきスイーツ店(右)
そんな、コリアンタウンとして名高い新大久保だが、その街の賑わいを支えるのは韓国関連のお店だけではない。中華はもとより、インド、タイ、ベトナムといったアジア各国の本格的なレストランや食材店も確実に以前より増えており、自分としては「コリアンタウン」という名称よりも、「ごった煮アジアンタウン」という方がしっくり感じる。さらに特にここ数年で目立って増えたのは、イスラム教徒向けのハラル食材を扱う店だ。こうした店はハラル食材だけでなく、マスクといった日用品の他、中古パソコンやスマートフォンといった日常生活で必要なありとあらゆるものを取り扱っているところが多く、そのごちゃごちゃ感は見ているだけでも楽しい。

【写真4】ハラル、アジア・アフリカ食材店(左)と
店頭に中古スマホを置くハラル食材店(右)
刺激的な異文化を感じるこの街で見られる特徴あるサービスに海外送金がある。海外送金専門で店舗を持つものもあれば、多くは先ほどのハラル食材・雑貨店の一角で提供されていたりする。外国人労働者の方々が日本で頑張って働いた稼ぎがこうして提供されているサービスを活用して自国の家族らに送金されているかと想像すると何やら感慨深い。

【写真5】海外送金専門店(左)と海外送金を扱うハラル食材店(右)
海外渡航がままならなくなり、何か刺激不足を感じるみなさん、新大久保界隈で今どきの女子中高生をも惹きつける独特な異文化体験をされてみてはいかがでしょうか。
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前川 純一(退職)の記事
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