2020年7月30日掲載 ICT利活用 InfoCom T&S World Trend Report

今こそ備える ~第2波/第3波および将来の感染症に向けての方策とICTの活用



今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が1月下旬に国内で発生してから約半年が経過しました。7月上旬には累計感染者数が2万人以上、死亡者数が約1千人になり、まさにパンデミックの状況となりました。4月7日に7都府県に緊急事態宣言が発令されて(4月16日に全国に拡大)から5月25日までの間、それぞれの都道府県で緊急事態措置が実施されて外出自粛や休業の要請が行われてきました。特に首都圏の4都県では2カ月近くの自粛や休業となり、3密の回避や対人接触8割減など新しい言葉が生まれ、個人個人に行動変容(これも初めて知った言葉です)が求められました。現在でも新規感染は続いていますので注意が必要です。ただ日本中の人達の忍耐と努力の結果、新規感染者発生数は4月11日の720人が、また現在感染者数では4月29日の1万211人が、それぞれピークとなって感染流行は5月の連休を境に収まり始め、5月25日に緊急事態宣言解除となりました。各地の緊急事態措置も出口戦略やロードマップに沿って緩和が進められてきました。しかし、このCOVID-19の流行がこれで終わって再び流行しないということではないことに注意しておかなければなりません。当然のことですが、感染症は人から人に伝染するので流行を何回も繰り返します。今回のCOVID-19では既にその傾向が出ています。歴史上流行を繰り返した天然痘やペスト、コレラなどの経験から、今は再流行の時期と捉えておくべきです。ワクチンや特効薬、新しい治療法の開発・発見には時間を要するので、当分の間は再度の感染拡大に備えて急ぎ対応策を講じておく必要があります。対策の選択にあたっては、これまでの感染症流行の中では残念ながら十分に機能を活用するに至らなかった情報通信(ICT、デジタル化など)を今こそ念頭に置くべきであると思っています。しばしば言われるように、デジタル新技術を上手に活用することによって社会を新しい局面に大転換できると考えます。特に、我が国の社会・経済・政治のデジタル化は世界から明らかに遅れている状況なので、まずは喫緊の課題となっているCOVID-19対策における情報通信機能の活用を日本全体で推進すべき時です。日本の未来にとっては「禍を転じて福となす」取り組みとなることを期待しています。以下に思いつくまま5項目を取り上げてみます。もちろんこれ以外にも数多くの課題がありますし、社会や産業全体ではなく個々人や個別企業の中長期の取り組みも大切ですがここでは取り上げていません。当面の課題への方策と情報通信の役割についてのみ述べます。

(1) 医療・診療体制の強靭化→ICT利活用による統制強化
  ①治療・隔離対策――重症、中等症、軽症・無症状の分離(神奈川モデルの例)
  ②検査体制――感染者の早期発見、健保組合の施策充実等

(2) 国のガバナンス整備→ICTを使った情報発信と十分な周知・アクセス
  ①統合機能の確立、政府と知事の権限と役割の明確化
  ②国民生活の維持と経済回復の両立――多方面の専門家集団の結集
  ③長期に渉る対策の持続性維持――赤字国債返済、財政再建の道筋

 (3) マイナンバーカードの普及とデジタル化促進→これこそ本命の施策
  ①電子申請、手続迅速化、署名・印鑑慣行の変革
  ②PC/スマホとの連携とシステム化――省庁や自治体ごとのシステム不統一の解消
  ③システム統合と自治・分権の利害調整――毎度繰り返す論議に終止符

(4) 恒久的行動変容の追求→ICTによって日常行動や働き方、文化を変革
  ①テレワーク、オンライン授業、TV会合など働き方や社会慣行を改革
  ②遠隔診断・医療、電子申請・手続・決済の導入
  ③対面、書面、押印などの文化を変革――トラストサービスの早期導入・普及

(5) 人材育成→医療とICT・AI人材の裾野を拡大
  ①感染症の常態化――人材育成に至急着手、医学系・看護系の新増設
  ②公衆衛生にICT・AIを活用――データ収集・分析・シミュレーションに基づく政策判断

以上、当面の感染症対策として必要と思われる事項を特に情報通信(ICT・デジタル化)関係中心に取り上げてみました。これらは今回のCOVID-19対策の中で明らかになったものばかりであり、その必要性については以前から指摘があり関係者間では十分に認識されていたもので決して新しいものでありません。しかし、実際に方策を実行・実現するとなるとまったく新しく始まるものは少なく、それまでに積み上げられてきた利害関係が絡んでなかなか進んできませんでした。その中でも情報通信関係では従来困難と見られていたことを実現することが多くあり、必ずしも全員に便益が等しく均霑する訳ではないので厳しい利害対立が生じます。

その典型例がマイナンバーカードの普及と活用の遅れとなって現在に至っていることです。今回の特別定額給付金の申請においてもマイナンバーカードの利用が言われて多くの人が殺到した結果、マイナンバーカード自体は住民基本台帳(住民票)との紐付けが進められていませんので氏名・住所等の記載を人手で確認する事態に陥り、手続迅速化に逆効果となってしまいました。これはマイナンバーカードそれ自身の不備ではなく、「国民総背番号制」との不評や懸念に配慮して住民票などの他システムやデータとの連携・接続を推進してこなかったために生じたもので、事前の取り組み不足と言うべきです。住民基本台帳のシステムは地方自治の建前からそれぞれの自治体独自のものなのでシステム的には全国的に統合・統一されていませんので、全国民一律の処理には不向きなのです。国民全体として統合・統一したITシステムがないとどうしても急場の役に立てないのが実態です。そこで政府CIOを設けて取り組んでいますが、それぞれの省庁や地方分権の壁は強固でなかなか進んでいません。諸外国と比べると相当に遅れが目立っていて国際競争力上問題となる状況であっても動きは鈍いままです。マイナンバーカードの普及率16%がそれを示しています。残念でなりません。

今回のCOVID-19流行の第2波/第3波に備えて今から実行・実施しておくべきことは多々ありますが、まずはこの5項目について情報通信分野を梃子に強力に進めて頂きたいと思っています。現下の緊急事態を踏まえると、情報通信の領域は“縁の下の力持ち”的な役割ではなく、先頭に立って全体をリードする存在となることが期待されていると思います。政府レベルの統合機能の確立においても、情報通信分野を担当する人材および組織・資金・権限を個別所管省庁の枠を越えて確保する必要があります。情報通信活用の成功事例として台湾と韓国が取り上げられますが、近隣でもあり大いに学ぶべきです。両者は情報通信先進国・地域なので、政策対応だけでなく人々の理解や反応、受容まで含めて我が国の参考となることが多いと思います。特に自粛緩和による感染の再拡大に対する緊急対応策、感染者検査のルーティン化など学ぶことは沢山あります。備えあれば憂いなしです。

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