2023.12.13 InfoCom T&S World Trend Report

世界の街角から:出張について考えさせられた3年ぶりのラスベガス

Image by lindsayascott from Pixabay

「仕事」で久々にラスベガスへ

米国最大級のモバイルカンファレンス「MWCラスベガス2023」に参加するため、実に3年ぶりとなるラスベガスに出張した(写真1、2)。筆者はコロナ禍前、家電見本市CESや放送業界見本市NABなどに参加するために、毎年「仕事のために」ラスベガスに出張していた。読者の中には、ラスベガスに出張できることを「羨ましい」と思う人もいるであろう。無論、筆者もラスベガスは魅力的な街だと感じており、できればラスベガスを観光したい気持ちが強い。ただし、「仕事」で行くラスベガスは、魅力的な街から一変して、誘惑が多い非常に「厄介な街」になる。筆者は、この誘惑に惑わされないために、出張前にラスベガスの観光やエンタメ情報を見聞きしない、といった方法を採っている。

この方法により、今まではラスベガスの誘惑に負けることなく仕事に専念できたが、今回はこれが大きな後悔につながってしまった。以下では、今回の出張で痛感することになった後悔とそれに伴う改悛をもたらした体験について報告する。

【写真1、2】MWCラスベガスが開催された「ラスベガス・コンベンションセンター」

 

【写真1、2】MWCラスベガスが開催された「ラスベガス・コンベンションセンター」

【写真1、2】MWCラスベガスが開催された「ラスベガス・コンベンションセンター」
(出典:筆者撮影)

マッカラン国際空港……ではない?

MWCラスベガス2023への参加は実質2日間と短期間だったことから、これまで以上に同カンファレンスの事前調査に集中した。そのため、ラスベガスの観光やエンタメ情報のみならず、フライト情報でさえ詳細に見ることができないまま出発することになった。

例年、ラスベガスへのフライトでは、羽田空港からサンフランシスコ国際空港を経由してマッカラン国際空港に着陸していた。今回、フライトの詳細を見ていなかった筆者は、いつも通りサンフランシスコ国際空港を経由し、夜にラスベガスに到着するとの認識があっただけで、当然、これもいつも通りマッカラン国際空港に到着すると思い込んでいた。その勘違いに気付いたのは、実にサンフランシスコ国際空港に到着してからである。同空港の電光掲示板でマッカラン国際空港行の便を探しても見当たらないのだ。フライト番号で照らし合わせると、そこにはラスベガス「ハリー・リード国際空港行」と表示されていた。後で分かったのだが、実はマッカラン国際空港は2021年12月にハリー・リード国際空港に名称変更されていたのだ。同空港は、1968年にネバダ州出身の初の上院議員であったパトリック・マッカラン氏に因んで名付けられたが、同氏が人種差別主義者であったとの史実が問題となり、同州出身の著名な政治家であるハリー・リード氏の名前に変更されたのだ。その事実を知らない筆者は、疑問に思いつつも、カジノのネオンが夜空を照らすラスベガスに到着。ラスベガスの誘惑に惑わされないように、脇目も振らずホテルへ移動した。空港名の変更に気付かなかったことは些細なことではあるが、今思えば、今回の失敗の前兆だったかもしれない(図1)。

【図1】名称変更に気付かなかった「ハリー・リード国際空港」

【図1】名称変更に気付かなかった「ハリー・リード国際空港」
(出典:ハリー・リード国際空港HP、https://www.harryreidairport.com/)

謎の球体形建造物「スフィア」

翌朝、筆者はカンファレンス会場に向けて移動中、今まで見たことがない驚きの光景を目にした。それが巨大球体アリーナ「スフィア」である。ラスベガスに関する情報を仕入れていない筆者は、もちろん、目の前にある球体形の建造物が何であるか全く知らなかった。ラスベガスには、パリのエッフェル塔、古代ローマのパルテノン神殿、さらにはエジプトのピラミッドまで模した奇抜な建造物を多く目にする。そのことから、最初にこの球体形の建造物を見たとき、筆者は「またラスベガスらしい奇抜な建物を建てたなぁ……」としか考えていなかった。そして、球体を眺めていた次の瞬間、突然その球体の表面に様々な模様や映像が映し出されたのだ。よく見ると、なんとその球体形の建造物はLEDモニターで埋め尽くされていた。奇抜な建造物が多いラスベガスであっても、その存在感は圧倒的であった。観光願望が湧き上がるなか、「仕事で来ている」ことを思い出し、カンファレンスに直行した。カンファレンス期間中に足を運ぶことも考えたが、終わるまで足を運ぶことができなかった。結局、この巨大球体形建造物が新アリーナ「スフィア」であることが初めて分かったのは、実に帰国前日の夜だった(写真3)。

【写真3】新アリーナ「スフィア」の外観

【写真3】新アリーナ「スフィア」の外観
(出典:spherevegas、Instagram)

「スフィア」は、ニューヨークのMadison Square Garden Companey(MSG社)とラスベガスのカジノ「ベネチアン」を買収したApollo Global Managementが総工費23億ドル(約3,500億円)をかけて作った最新アリーナだ。世界最大の球体形建造物と言われており、その大きさは、高さ112m、幅157m、延べ床面積81,300㎡に達する。また、スフィアは外側だけでなく、内側もLEDスクリーンで埋め尽くされている。実際にスフィアの内部を見に行った人のネットでのコメントを見ると、全体がLEDスクリーンとなっているため、VRゴーグルなしで仮想空間にいる感覚を覚えたと語っている(写真4)。

【写真4】新アリーナ「スフィア」の内側

【写真4】新アリーナ「スフィア」の内側
(出典:spherevegas、Instagram)

このスフィアが正式にオープンしたのは、奇しくも帰国日の翌日29日であった。オープンイベントでは、ロックバンド「U2」が公演。筆者としては、VRやメタバース等を調査・研究している観点でスフィアを体験したかったが、ロックバンドの中でも特に好きなU2が見られなかったことも含め、悔やんでも悔やみきれない気持ちとなった。スフィアのことを知っていれば、1日出張をずらせたかもしれない……筆者は今でも自問自答を繰り返している。

帰国時にまた新たなラスベガス情報を聞く

帰国の当日、筆者がスフィアの件で意気消沈のまま、タクシーに乗りハリー・リード国際空港に向かっていると、朝4時にも関わらず渋滞に捕まってしまった。賑やかなラスベガスであっても、この時間に渋滞することは殆どない。そこでタクシーの運転手に渋滞の原因を尋ねたところ、レーシング・コースの敷設工事が原因であることが分かった。なんと、ラスベガスで「F1グランプリ」が開催されるのだ。スフィアのこともあり、恐る恐る運転手に開催日を尋ねた。回答は「11月中」。何故か「ホッ」とする自分がいた(図2)。

【図2】11月に開催される「ラスベガスF1グランプリ」

【図2】11月に開催される「ラスベガスF1グランプリ」
(出典:https://www.f1lasvegasgp.com/)

市街地でのF1は、これまでもシンガポールやモナコで実施されてきた。ラスベガスでのF1は、これに続く新たな市街地戦として注目されている。なお、同グランプリは、モバイル分野の観点でも注目されている。米国のT-Mobileが同グランプリの5Gネットワークを提供する予定となっているためだ。T-Mobileといえば、世界で初めてネットワーク・スライシングの提供(ベータ版)を開始した通信事業者だ。現時点で、同社はラスベガスF1グランプリでどの様なネットワークを提供するのかを公表していないが、筆者はネットワーク・スライシングが活用されるのではないかと考える。その視察として、ラスベガス出張を企画したいところだが……他の仕事の関係上、残念ながら参加するのは難しそうだ。

出張における「仕事」と「観光」

筆者は、今まで出張に関しては、国内であろうと、国外であろうと「仕事」をメインに据え置いてきた。もちろん、仕事で行くので、それは当たり前のことだ。では、「観光」は単なる「遊び」なのか。今回の出来事を考えると、観光の中にも視点を変えれば仕事に関連するものは多くある。今後も、出張に対する意識は仕事をベースにするつもりだが、もっと広い視野を持ち、観光へ目を向けることも取り入れて行きたい。その結果は、いずれ「世界の街角から」で報告できるだろう。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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