2024.2.14 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

ICT雑感:生き続けるアナログ

Image by chiến nguyễn bá from Pixabay

新しい年を迎えて既にひと月ほどになりますが、本年も本誌「InfoCom T&S World Trend Report」および当コラムを御愛顧いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。新年早々大きな災害や事故がありましたが、被災した皆様にお悔やみ、お見舞いを申し上げるとともに、自分ができる支援を行っていきたいと思います。

年末に一つ趣味の買い物をしました。下の写真のレコードプレーヤーです。若い頃に買ったレコードコレクションはそれなりにあって、今もリビングの棚のそれなりの部分を占めていますが、レコードプレーヤーやアンプ、スピーカーなどのステレオセットは、引越しの際に置き場所の問題などもあって処分してしまいました。その後は、皆さんの多くもそうだと思いますが、日常の音楽の接し方としては、パソコンにCDや音楽配信サービスから曲を取り込んで、スマホで聴くようになりました。昔のアルバムでまた聴きたくなったものは、CDを買い直しています。

【写真1】今回購入したレコードプレーヤー

【写真1】今回購入したレコードプレーヤー
(出典:筆者撮影)

一方で、ブックオフなどの古書店や中古レコード店でレコードを見ると、見覚えのあるジャケットに惹かれて、家で聴くわけでもないのに買ってしまうことがあり、コレクションは次第に増えていました。たとえ音は聴けなくても、ジャケットやライナーノーツを眺めるのは楽しいですし、「レコードを持っている」こと自体に何となく満足を感じるのです。

報道によると、音楽へのアクセスの方法が日本よりさらにデジタル配信にシフトしている米国においてレコードが復権し、三十数年ぶりにCDの売上げを上回り、特に新譜が売れているとのことです。新たな買い手である若い世代に、なぜレコードを買うのか聞いてみると、「音楽を物理的に所有したい」「レコードを眺めていたい」「ライナーノーツを読むのが好き」などの回答が多くあり、およそ半数はプレーヤーを持っていないのにレコードを買っているのだとか……おじさんもその気持ち、よく分かります。私と同じような心持ちで買い求めている人が、海の向こうにもたくさんいるんですね。

とはいえ、やはり持っているだけではなく、そのうちちゃんと音を出して聴きたいなぁ……と思っていたところ、オーディオメーカーのクリスマスキャンペーンの広告を見て、衝動的に購入に至りました。

早速、家に届いたキットを組み立てて電源を入れ、音を出しました。かけてみたのは、井上陽水とオフコースのそれぞれのデビューアルバム、いずれも50年以上前のレコードです。かつてのような立派なアンプやスピーカーはないので、やむを得ずCDプレーヤーと一体になった卓上用のステレオにつなぎました。音響が貧弱なのは仕方ないですが、それでも心なしかデジタルよりもふっくらとして暖かい音のような気がします。

次にドーナツ盤(シングル盤)も聴いてみました。棚から出してきたのは、ベッツィ&クリス、フィンガー5、アリス、石川さゆりなど。ドーナツ盤だと、チャチな音響機器でもそれなりにサマになりますね。なお、これらのLPやシングル盤は、いずれもここ何年かの間に中古レコードとして入手したものです。

また、最近のプレーヤーには、これらレコードの音源をデジタル変換してパソコンに取り込む機能も備わっており、これも試してみました(音源は、ピンクレディーの「UFO」)。CDやデジタル配信のような高品質の音というわけにはいきませんが、昔のFM放送やカセットテープを聞いているような感じで、これはこれで味わいがあります。

【写真2】レコードの音源をパソコンに取り込んでいる様子

【写真2】レコードの音源をパソコンに取り込んでいる様子
(出典:筆者撮影)

ひととおり試してみて、かつてはプレーヤーに円盤を乗せて音楽に聴き入ったり、音質を調整したりというのが心の安らぎを得られるひとときでしたが、デジタル時代の聴き方に慣れてしまった今では、音楽にアクセスするまでの手順が結構な手間にも感じられます。レコードに手を伸ばすのは、心にゆとりのある時がいいかなと感じました。いずれにせよ、一時期は古くさいもの、消えゆくものと思われていた媒体がデジタルの力も借りながら、これからも生き残っていきそうなのは、面白い現象ですね。

そういえば、カメラの世界でも、デジタルの技術を使いつつアナログの風合いを生かしたインスタントカメラが、若い世代を中心に人気のようです。撮影したその場で写真をプリントアウトして仲間で楽しむ様子が動画で紹介されていますが、昔のポラロイドやインスタマチックのようなノリですね。こちらも試してみましょうか……。

(イラスト出典:イラストAC)

(イラスト出典:イラストAC)

このように、デジタルとアナログを融合させた楽しみ方などを考えつつ、ふと手元に視線を移すと、秒針が動いている腕時計が目に入りました。これこそは、時間的経過の中での時刻や、前後の時間との量的関係を視覚的に把握するのに適したアナログ機器ですね。きっと未来永劫生き残ることでしょう。

(参照記事等)
  • 「聴けなくてもレコード買いたいZ世代の所有欲」(日本経済新聞電子版2023年2月12日)
  • 「米国でレコード人気、CDの販売枚数上回る35年ぶり」(日本経済新聞電子版2023年3月11日)

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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