2026.3.30 法制度 InfoCom T&S World Trend Report

アバターと司法〜サイバネティック・アバターの法律問題 季刊連載 第二期 第5回

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第1 はじめに

筆者は、統治機構の機械化に関する研究を進めており、例えば、AIと司法については、2026年1月公表のものを含む様々な論稿を公表している1。そして、「統治機構のアバター化」との関係では、選挙2、立法3、行政4について既に述べてきた。ここでは、その一環として、サイバネティック・アバター(CA)と司法について検討していきたい。

第2 司法のIT化

司法のIT化については、2018年の裁判手続等のIT化検討会「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ─『3つのe』の実現に向けて─」5を踏まえ、3つの段階に分けて進行中である。本稿校正時である2026年3月時点では、弁論準備期日、和解期日、口頭弁論期日等にオンライン上から参加できるようになった、いわゆるフェーズ2の最終段階にある6。同年5月21日からフェーズ3が開始され、訴状のオンライン提出、訴訟記録の電子化等が行われる予定である7

その他、民事執行手続、倒産手続、家事手続等のIT化8、刑事手続のIT化9等、司法全体のIT化が進んでいる。

第3 物理的な裁判所におけるアバターの利用

1 アバター参加

(1)IT化と当事者・代理人のアバター参加

ア アバター参加を妨げる明文規定がないこと

オンライン化された口頭弁論について、当該口頭弁論においてアバターを利用して参加してはならないという明文規定は存在しない。

もちろん、現在は、リアルタイムで撮影した2Dビデオ画像を利用しているところであるが、これをどこまでアバターに寄せられるか、検討しよう10

イ リアルタイムで撮影した3Dビデオ映像

まず、一番許容される可能性が高い、リアルタイムで撮影した3Dビデオ映像の利用について検討する。

民事訴訟法87条の2第1項は、口頭弁論のIT化につき「裁判所及び当事者双方が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法」とする11

まず、映像と音声であるから、映像のみや音声のみでは要件を満たさない。次に、リアルタイムで状態が認識できる必要があるので、過去に撮影されたビデオ映像等では要件を満たさない。もっとも、リアルタイムで音声と映像が送受信され、それを相互に認識できるのであれば、それが同項の定める「(相手の)状態」である限り、2Dの映像ではなく、3Dの映像を利用することを禁止するべき理由はないと思われる。よって、単に裁判所及び当事者側でそのような準備ができていないというだけであって、カメラの画像を2Dではなく、3Dにして三者が(スマートグラス等を通じて)よりビビッドな映像を見ながら口頭弁論を進めることは純粋に法的な観点からすれば、ただちに妨げられるとはいえないだろう。

そして、メガネ等の着用は当然に認められているし、実務上、イヤホンだけではなく、ヘッドセットを利用することもある。そうであれば、裁判所及び両当事者の準備ができていて、かつ、裁判所がそれを希望するのであれば、(teams等のソフト面の制約や、デバイス等のハード面の制約を考えなければ、)現行法下でも、裁判所の裁量で、全員がヘッドマウントディスプレイ等を装着して、リアルタイムで撮影した3Dビデオ映像を閲覧しながら通話するということもあり得るのではないか12

ウ 自分の顔画像をもとにした3Dアバターの利用

問題は、自分の顔画像をもとにした3Dアバター等の利用である。ここで、なぜオンライン口頭弁論で当事者の映像が必要とされるかについては、傍聴との関係で「電話会議によって当事者が手続に関与する場合、傍聴人は、その当事者の様子を映像により観察することはできない。そのため、口頭弁論の期日については、現実に出頭せずに手続に関与する方法を音声だけでなく映像の送受信を伴うウェブ会議に限定することにより、傍聴人の観察の下で手続を行うことを通じて裁判の公正や司法の独立を担保するという公開の要請の趣旨により適うようにしている」とされている13

このような趣旨からすれば、「相手の状態を相互に認識」できるとは、「その当事者の様子」が「映像により観察」可能なことを意味するとなるだろう。そのような観点からは、例えば、「顔を怪我したので表情がリアルタイムに反映される自分の顔画像をもとにした3Dアバターを利用したい」等ということであれば、その要件を満たす可能性がある(但し、そうであっても、裁判所は訴訟指揮により利用を禁止することができる)。とはいえ、表情が全く反映されないアバターであれば、電話会議の場合と同様に、「その当事者の様子」を「映像により観察」することが不可能となることから、そのようなアバターの利用は禁止されるのだろう14

エ 自分の顔画像をもとにしていないアバター

なお、自分の顔画像をもとにしていないアバター、例えば、猫のアバターであっても、中の人の表情がリアルタイムでその猫の表情に反映される、とすれば、上記の趣旨に合致する可能性はゼロではない。とはいえ、そのような猫の姿が「当事者の様子」といえるか等、課題はより大きくなるだろう。

(2)リアル法廷への当事者・代理人のアバター参加

リアル法廷でも、ホログラムやロボットでアバター参加することはあり得る。この点は、例えばどのような要件を満たす必要があるか、裁判所において設備の用意が必要か等が問われるだろう。

例えば、テレイグジスタンスロボットが自律走行して当事者席に座るとか、アシスタントがテレイグジスタンスロボットを席に置く等した結果として、裁判所として特段の対応が不要であって、かつ、テレイグジスタンスロボットの画面上に顔がリアルタイムで投影され、それをもって本人確認ができる等、上記(1)で述べたオンライン口頭弁論に対して求められている要件を満たすのであれば、ある意味では、裁判所のスクリーンの代わりに、当事者が手持ちのスクリーンを持ち込んで投影することと類似する。このような対応については、少なくとも第一義的には訴訟指揮により裁判官がこれを認めるかどうかを判断するべきことになるだろう15

2 証人のアバター証言

(1)アバターを利用して証言することが現行法上可能か

そもそも証人がアバターを利用した証言を希望した場合、現行法上そのような方法による証言は可能だろうか。証人がウェブ会議方式で尋問を受ける際にアバターを被るのであれば後述のオンライン尋問の問題となり、証人がテレイグジスタンスロボットを利用して尋問を受けるのであれば、在廷での証人尋問の問題となる。そして、少なくとも(3)イ(ア)で述べるウェブ会議方式の尋問の要件を満たすのであれば、裁判長には、法廷内に存在する者の着衣等について訴訟指揮権がある(裁判所法71条1項16、民訴法148条1項17)ところ、アバターも広い意味における着衣の一種として、そのアバターを適切と考えれば、利用を認め、不適切と考えれば、利用を認めないということでよいのではないかと考える18。とはいえ、現時点でその解釈は明確ではない19。そこで、以下、証人がアバター証言を希望する理由を踏まえてさらに検討をしてみよう。

(2)証人が、アバターで証言したいと考える場合

そもそも、アバター証言のニーズを分解すると具体的にどのようなものがあるのだろうか。証人がアバターを利用して証言したい場合の理由は様々だろう。そのパターンを以下のとおり分類してみた。

まず、プライバシーを守るための身元の秘匿である。例えば、犯罪の目撃者が証言に協力する際、犯人に恨まれたくないので、いわば「仮面で顔を隠して」証言したいというものである。

次に、身元の秘匿にも関係するが、当事者と素顔で対面・直面することにより与えられ得るプレッシャーを避けながら、自然体で、ありのままに証言したいというものである。

さらに、物理的に遠方にいるので、法廷には、テレイグジスタンスロボットというCAや、ホログラムアバター等で出廷したいというものがある。

加えて、今後のアバター社会においては、証言で問題となる過去の特定の時点において、当事者も証人もアバターを利用していたのだから、そのような当時の姿で出廷し、証言するのがむしろ自然という場合もあるだろう。

(3)プライバシーへの配慮

プライバシー配慮という点を検討するため、従来の方法(下記ア)とIT化フェーズ3施行時点の方法(同イ)を比較した上で、アバター証言によるプライバシーの配慮(同ウ)について述べたい。

ア 従来からのプライバシーに対する配慮の方法
(ア)遮蔽

民訴法203条の3第1項は「その当事者本人又は法定代理人とその証人との間で、一方から又は相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置をとることができる」20、同条2項は「傍聴人とその証人との間で、相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置をとることができる」として遮蔽を定める21

(イ)ビデオリンク

民訴法204条2号は「事案の性質、証人の年齢又は心身の状態、証人と当事者本人又はその法定代理人との関係その他の事情により、証人が裁判長及び当事者が証人を尋問するために在席する場所において陳述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合」にはビデオリンクで尋問できるとする。

(ウ)閲覧制限

民訴法92条1項1号は「訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載され、又は記録されており、かつ、第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより、その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること。」を理由とした記録の閲覧制限を定める。

(エ)原告代理人弁護士事務所所在地を住所とする

実務上、住所秘匿のため、原告代理人弁護士事務所所在地を住所とすることもかつては行われていた22。但し、執行等に支障が生じる可能性があり、限界があった23

(オ)限定的なオンライン尋問

従来から「証人が遠隔の地に居住するとき。」(民訴法204条1号)等、一定の場合にテレビ会議システムによる尋問を認めていた。

イ フェーズ3施行時点のプライバシーに対する配慮の方法
(ア)オンライン尋問の要件緩和

フェーズ3施行により、上記ア(オ)のとおり限定的であったオンライン尋問の要件は大幅に緩和される予定である。すなわち、改正法204条1号は「証人の住所、年齢又は心身の状態その他の事情により、証人が受訴裁判所に出頭することが困難であると認める場合」として、遠隔地居住以外を含む広い意味の出頭困難者のオンライン尋問を認めた。また、同条3号は「当事者に異議がない場合」もオンライン尋問を認める。そこで、改正後はより広い範囲でオンライン尋問が可能となる。

(イ)申立人の住所、氏名等の秘匿

また、上記ア(エ)の方法の限界に鑑み、既に適用が開始されている改正法133条以下は、申立人の住所、氏名等の秘匿制度を定めた24

ウ プライバシーの観点からのアバター証言の必要性

このように考えると、プライバシーの観点は、遅くともフェーズ3施行時点では十分に対応済みであるため、別途アバター証言を認めなくてもよい、という解釈は十分にあり得るように思われる。

(4)プレッシャーに対する配慮

上記の遮蔽やビデオリンク、オンライン尋問はプレッシャーに対する配慮にもなる。そして、アバターで顔を隠さなくても、証言の様子が遮蔽やビデオリンク等で見られないとか、遠隔地からオンライン尋問を受けること等により、相当程度プレッシャーが減るのであれば、別途アバター証言を認めなくてもよい、という解釈は十分にあり得るように思われる。その意味では、この点の要請は、アバター尋問を認める上で決定的とはいえないかもしれない。

(5)物理的遠方にいることへの対応

さらに、物理的遠方にいることへの対応についても、まさにフェーズ3施行により従来よりも要件が緩和されるオンライン尋問を行えばその目的は達成でき、アバター証言までは必要がないという議論はあり得る。

この点に対する反論としては、オンラインの尋問の場合には、証人の表情が見にくく、裁判官として心証が取りにくい等の課題が存在するため、アバターを利用することで、3Dでよりビビッドに表情を伝える方がよいという点が挙げられる。

ただ、本当に心証を取りたい場合は、アバターでも足りず、裁判官の目の前に出頭して尋問をしたい、という再反論はあり得る25

(6)証言の対象時点でアバターで活動していたことを踏まえたアバター証言の有用性

このように、フェーズ3施行によりオンライン尋問が緩和されることを前提とすると、なかなかアバター尋問を認めるべき決定打がないかもしれない。

しかし、ムーンショット研究・開発事業が想定する2050年のアバター社会では、多くの人の日常活動がアバターを用いて行われるようになる。もしそのようなアバター社会が到来すれば、日常生活の他の場面ではアバターを使っている以上、証言もアバターで行うことが自然であるという状態になるだろう。もちろん、単に「自然」というだけでアバター証言を特に認める理由にはならないかもしれない。(7)で述べるような課題もある。

しかし、証言の場合には、単なる発言内容だけではなく、その身振り手振り等の非言語部分も含めて信用性が判断される。例えば、第三の腕26を持つアバターを利用している証人による、「その時目の前で加害者と被害者が喧嘩を始めました。私は第三の腕で慌てて止めました。」という証言の際に、アバターを利用して、その際に第三の腕をどう動かしたかを実演した方が、信用性判断にとって有益ではないだろうか。

その意味で、筆者としては、アバターの利用率が低い2026年現在において、積極的にアバター証言を取り入れるべきとは考えない。しかし、将来的にはアバター証言を取り入れることはどこかで必要となると考え、だからこそそのような時代を見据えた法律問題を現時点から検討しておくことが重要と考える。

(7)課題

ア 信用性判断の困難性

当然のことながら、証人の表情が見えなくなるということで信用性の判断が困難になるだろう。この点は、脚注25及び下記カのように例えば本人そっくりの、手足もあるアバターを利用して、表情や身振り手振りがリアルタイムで表示されるものであれば、そのデメリットを軽減する余地はあるだろう。

イ そのアバターにおいて表情や身振り手振りがリアルタイムにリンクされることをどのように担保するか

ただ、もしそのようなリアルタイムのリンクが重要だとすると、どのように、それを確保するかが重要である。例えば、表情や身振り手振りがリアルタイムにリンクされることをアバター証言の条件とするという扱いは、十分にあり得る扱いではある。

しかし、その場合、その条件の充足性をどのように保証するかは問題となる。例えば「リアルタイムディープフェイク」のように、真実と異なるものが、まるでリアルタイムの現実の表情や身振り手振りの反映であるかのように投影される可能性は否定できない。

例えば、そのアバターの動作の元となる映像を録画させて、それを提出させる等の方法はあり得るが、その録画映像とされるものの正確性についても検証が必要である。

もしかすると「最高裁謹製アバターアプリ」や、最高裁の認証を通ったアバターアプリを通じてのみアバター証言ができるとして、この点を担保することになるかもしれない。

ウ 表情や身振り手振りがリアルタイムにリンクされるアバターを要件とする場合、当時そのようなアバターを利用していない場合どうするか

ここで、表情や身振り手振りがリアルタイムにリンクされるアバターの利用をアバター証言の要件とする場合、証言の対象となる事実関係が生じた当時においてそのようなアバターを利用していない場合どうするかという点は、新たな解決すべき問題となる。

例えば、アバター証言をする上で適格なアバターの要件を充足しているアバターを適格アバター、充足していないアバターを非適格アバターと呼ぶとしよう。そして、後に証人となる者が、非適格アバターを利用して活動を行っていた際に、ある事件の主要争点に係る事実関係を目撃したとしよう。その後、当該事件について証人として呼ばれた場合に、目撃時のアバターは非適格アバターである以上、これを利用して証言することはできないことになる。そうすると、適格アバターである別のアバターを利用して説明することになるだろうが、要するに「別のアバター」で証言することになる以上、証言の際に適切に身振り手振り等で、当時の状況を説明することに課題が生じる。

例えば、証人がその目撃時に利用していた(非適格)アバターが3本目の手があるアバターで、その証人は、民事訴訟の被告が原告を殴る様子を目撃し、3本目の手で止めたといった場合において、アバター尋問の際にその様子を実演するならば、目撃時に利用していたアバターを利用することが望ましい。この場合に備えた一つの整理として、原則として適格アバターを利用して証言するが、裁判所が許可した場合には、例外的に非適格アバターを利用することもできるという建付けがあり得るだろう27

エ 信用性判断手法が根本から変更される可能性

ここで、そもそもそのような将来の法廷においては、証言の正確性をリアルタイムでAIの支援を受けながら判別するような新しい信用性判断手法がポピュラーになり、信用性判断の上で表情等の重要性は大きく低下するかもしれない。

今後、例えばリアルタイムで関連する客観証拠他の矛盾点が示される等して、証言の信用性が他の方法で確認可能であれば、リアルタイムで表情をリンクさせることは不要となるかもしれない28

オ 複数人が中にいる場合

なお、アバターについては、複数人が「中の人」となることがあり得る。例えば、上記ウの事例において、当該アバターについてAが顔を、Bが手足を動かしていたという場合、どのように証言を得るべきか。例えば先にAについて尋問し、それからBについて尋問すべきだろうか。

この点は民訴規則118条が対質を認めている。「裁判長は、必要があると認めるときは、証人と他の証人との対質を命ずることができる」(同条1項)ことから、このような複数人アバターの場合も「必要がある」場合だと解釈すれば、ABの同時尋問が可能となるだろう29

カ ロボットアバター固有の課題

ロボットアバターを利用した尋問の場合、そのロボットの有すべき仕様等の条件を設定して、それを満たすものに限定して法廷での証言に利用させることになるだろう。

第4 メタバース裁判所

1 メタバースのみに存在する「下級裁判所」を置く?

下級裁判所は「高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所及び簡易裁判所」とされる(裁判所法2条1項38)。そして、これらの裁判所は法廷、すなわち、物理的な裁判手続、例えば、口頭弁論が可能なスペースを設けている。ここで、物理的な裁判所の建物がない裁判所、「東京地裁メタバース支部」とか、「メタバース地裁」のようなものを実現することはでできるのだろうか。

この点については、前述の裁判所法69条1項が「法廷は、裁判所又は支部でこれを開く」としていることとの関係が問題となる。そもそも完全オンライン裁判、つまり、「法廷」ではなく、メタバース上の空間で裁判を実施するという時代(第3・3(3))には、同項が改正されるか、メタバース上での審理が同項に反しないと解釈されるようになるだろう。そのような対応を行った上で、「東京地裁メタバース支部」とか、「メタバース地裁」のようなものを実現することは可能だろう。

そうはいっても、物理的な建物のない裁判所やその支部というのは当事者として違和感を持つことも多いだろう。そこで、少なくとも当初は、当事者の合意がある場合(いわば「合意管轄」として「メタバース地裁」を選んだ場合39、又は、原告がメタバース裁判所に訴えた後、被告として特に異議がない場合)にメタバース上で実施することが望ましいと思われる。とはいえ、メタバース上での裁判が一般化すれば、当事者に異議があってもなおメタバース上で裁判をすることが適切と考えた場合(相当と認める場合)には、裁判所がメタバース裁判所へ事件を移送するといったルールを法定することも考えられる。

2 すべての裁判所での裁判を「メタバースのみで実施」とすることができるか

では、当事者の意向にかかわらず、すべての裁判所をメタバース化し、すべての裁判をメタバースのみで実施することができるだろうか。この場合には、まさにメタバース裁判の強制が問題となる。例えば、裁判官として証人の顔を見ながら慎重に信用性を吟味したい事案においてもなお、必ずメタバースで実施しなければならないとすることは適切ではないかもしれない。特に、AI時代において、裁判所の重要な役割が、人間の叡智が問われる事案の審理にあると思われることから40、そのような事案においては裁判官の方がメタバース裁判を避けたいと思うかもしれない。

この問題は、第3・2(7)エのとおり、長期的には信用性判断手法そのものが変わることで解決されるかもしれないが、暫定的には重要な課題である。

そこで、例えば更なる民訴法改正として、当面は、「同意がなくてもすべての裁判所の裁判をアバターで行うことを原則とする」とした上で、いわば移行期間を設け、残存する施設を利用して、例外的にリアル裁判を実施可能とすることで、上記のように信用性判断手法そのものが変わるまでの間、裁判官のリアル裁判の余地を残したいというニーズに応えることは充分にあり得ることだろう。


本研究は、JSTムーンショット型研究開発事業、JPMJMS2215の支援を受けたものである。本稿を作成する過程では慶應義塾大学新保史生教授、情報通信総合研究所栗原佑介主任研究員に貴重な助言を頂戴した。加えて、T&S編集部には詳細な校閲を頂いた。ここに感謝の意を表する。

 



InfoComニューズレターでの掲載はここまでとなります。
以下ご覧になりたい方は公開時期までお待ちください。

第5 アバター化の課題

第6 おわりに

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開たものです。

  1. 松尾剛行「AIによる裁判官代替の不可能性 : 統治機構の機械化と法の枠組みの下におけるAIによる裁判官の支援・代替に関する西村友海『判決自動販売機の可能性』と同「『裁判官はAI で代替できるか』に対する批判的考察」一橋研究50巻3号45頁<https://hit-u.repo.nii.ac.jp/records/2061626>(2025年2月28日最終閲覧、以下同じ)、松尾剛行『生成AIの法律実務』(弘文堂、2025)360 頁以下、松尾剛行「司法のAI化と法―統治機 構の機械化と法研究の一環として―」早稲田大学Law & Practice18号(2024)155頁<https://sd6ed8aaa66162521.jimcontent.com/download/version/1740983976/module/9457671276/name/司法のAI化と法-統治機構の機械化と法研究の一環として-.pdf>、松尾剛行 「女子プロレスラー(捏造画像)事件(結果的に捏造された証拠に基づき訴訟を提起してしまった弁護士等の責任が否定された事案)~大阪地裁令和6年8月30日判決~」Thomson Reuters判例コラム346号(2025年4月8日)<https://www.thomsonreuters.co.jp/ ja/westlaw-japan/column-law/2025/250408 />及びTakayuki Matsuo&Yui Takahashi, Generative AI and International Arbitration, 6 JCA JOURNAL 102(2025)<https://www. jcaa.or.jp/en/common/pdf/publication/ browsing-jcaj_06_ 2025.pdf>等参照。
  2. 松尾剛行「サイバネティック・アバター(CA)と選挙運動〜サイバネティック・アバターの法律問題季刊連載第二期第2回」InfoCom T&S World Trend Report 438号<https://www.icr. co.jp/newsletter/wtr438-20251014-keioma tsuo.html>
  3. 松尾剛行「アバターと立法〜サイバネティック・アバターの法律問題季刊連載第二期第3回」InfoCom T&S World Trend Report 441号<https://www.icr.co.jp/newsletter/wtr441-20251225-keiomatsuo.html>
  4. 松尾剛行「アバターと行政活動〜サイバネティック・アバターの法律問題季刊連載第二期第4回」InfoCom T&S World Trend Report 443号<https://www.icr.co.jp/newsletter/wtr 443-202600226-keiomatsuo.html>
  5. <https://www.moj.go.jp/content/001322981.pdf>
  6. 脇村真治編著『一問一答 新しい民事訴訟制度(デジタル化等)――令和4年民事訴訟法等改正の解説』(商事法務、2024)268~269頁。以下、「一問一答」という。
  7. 同上。
  8. 民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律。なお、栗原佑介「家庭裁判所手続の IT 化の現状と展望 ―相続放棄、子の氏の変更を中心にとした家事 事件手続法別表第一事件の大量定型処理における AI 活用に向けた私論―」法とコンピュータ44号(2026近刊)掲載予定及び松尾剛行「家事事件に関する弁護士業務におけるAI・リーガルテックの利活用」家庭の法と裁判掲載予定も参照。
  9. 例えば、「特集 刑事手続のIT化」有斐閣Onlineロージャーナル(2025年10月30日)<https://yuhikaku.com/list/lawjournal/%E5%88%91%E4%BA%8B%E6%89%8B%E7%B6%9A%E3%81%AEIT%E5%8C%96>
  10. なお、2Dで映る画像も「アバター」に入れれば、これもアバターということになる。例えば、OEDは“A graphical representation of a person or character in a computer-generated environment”としており、かなり広くアバターを定義する<https://www.oed.com/ dictionary/avatar_n>。とはいえ、本稿ではそこまでアバターを広げて考えていない。
  11. 「裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、口頭弁論の期日における手続を行うことができる。」
  12. なお、裁判所の訴訟指揮の範囲としてヘッドセットやヘッドマウントディスプレイ以外のデバイスで視聴することを求めることは可能であるし、また、アバター認証(第5・3参照)制度が整うまでは、まずはデバイスを外した状態で本人確認をした上ではじめてデバイスを装着できるとすることで対応する余地がある。
  13. 一問一答58頁。
  14. なお、仮に表情がリアルタイムで反映されるとしても、「他人の顔のアバターで入りたい」「ロボットのアバターで入りたい」「動物のアバターで入りたい」となると、同様に現行法では禁止されるとの解釈となりそうである。つまり、他人やロボットや動物は「相手」ではないという解釈が十分に考えられるため、現行法の解釈で対応するのではなく、法改正をすべきであろう。その場合には、なりすまし等防止のため、アバター認証等の要件を満たすものであることが前提となる。
  15. 但し、その映像が小さく、裁判官には見えても傍聴人に見えない等という場合には、裁判の公開との関係で問題とされる可能性はあるだろう。
  16. 「法廷における秩序の維持は、裁判長又は開廷をした一人の裁判官がこれを行う。」
  17. 「口頭弁論は、裁判長が指揮する。」
  18. なお、傍聴人のバッジ取り外しを命じた訴訟指揮が適法とされた近時の事例参照(大阪高判令和6年12月25日2024WLJPCA1225 6005)。
  19. 松尾剛行「ロボットCA固有の問題~季刊連載第4回」InfoCom T&S World Trend Report No.431(2025)<https://www.icr.co.jp/news letter/wtr431-20250227-keiomatsuo.html>
  20. 「裁判長は、事案の性質、証人の年齢又は心身の状態、証人と当事者本人又はその法定代理人との関係(証人がこれらの者が行った犯罪により害を被った者であることを含む。次条第二号において同じ。)その他の事情により、証人が当事者本人又はその法定代理人の面前(同条に規定する方法による場合を含む。)において陳述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であって、相当と認めるときは、その当事者本人又は法定代理人とその証人との間で、一方から又は相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置をとることができる。」
  21. 「裁判長は、事案の性質、証人が犯罪により害を被った者であること、証人の年齢、心身の状態又は名誉に対する影響その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、傍聴人とその証人との間で、相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置をとることができる。」
  22. 例えば、「実務上,訴状,委任状等における当事者の住所の記載については,原告の実際の居住地が被告や第三者に知られることにより,原告の生命又は身体に危害が加えられることが予想される場合など,実際の居住地を記載しないことにつきやむを得ない理由がある場合で,その場所に連絡をすれば,原告への連絡がつく場所等の相当と認められる場所が記載されているときには,原告の実際の居住地を記載することを厳格には求めないなどの柔軟な取扱いがされている(裁判所の取扱いに関連する事務連絡として,平成17年11月8日付け「訴状等における当事者の住所の記載の取扱いについて(事務連絡)」,平成25年12月4日付け「人事訴訟事件及び民事訴訟事件において秘匿の希望がされた住所等の取扱いについて(事務連絡)」参照)。このような場合には,裁判所に事情を説明の上,訴状,委任状等の住所には,代理人弁護士の事務所所在場所等を記載する例もある。」梶村太市監修・矢野亜紀子=鈴木哲広編著『民事訴訟 最新裁判書式体系シリーズ』(青林書院、2023)304頁参照。なお、伊藤眞 (東京大学名誉教授,弁護士)『民事訴訟法 第8版』(有斐閣、2023)361頁も参照。
  23. 佐藤裕義編著『訴訟類型別 訴状審査をめぐる実務』(新日本法規出版、2018)124頁、中澤佑一『プロバイダ責任制限法と誹謗中傷の法律相談 最新青林法律相談』(青林書院、2023)99頁等参照。
  24. 被害者特定事項や証人等特定事項に関する刑事訴訟法290条の2以下も参照。なお、米国の運用につき中村真利子「証人尋問における証人の保護に関する一考察」駒澤法学24巻1号19頁以下<https://komazawa-u.repo.nii. ac.jp/records/2033769>)参照。
  25. なお、物理的に証人席に分身ロボットが鎮座し、身振り手振り等も含む非言語コミュニケーションも交えて分身ロボットを通じて証人尋問を行う方法もあると考える。松尾・前掲注19)。
  26. 第3の腕につき、同上参照。
  27. なお、適格アバターを利用して証言させた上で、釈明処分としての検証(151条1項4号)として、証人に一瞬だけその非適格アバターに入ってもらう、ということも考えられるものの、これでは完全な解決策にはならないかもしれない。
  28. なお、ブレインテック技術の進展による信用性判断の大きな変革の可能性は松尾剛行「ブレインテック手続法: 民事訴訟法、刑事訴訟法を中心に」学習院法務研究19号(2025)<https://glim-re.repo.nii.ac.jp/records/2003 053>参照。
  29. なお、対質を「法廷において宣誓をなした複数の証人を対席させた上で,それらの証人に対して尋問を実施する」とする伊藤・前掲注22)445頁も参照のこと。
  30. 一問一答60頁。
  31. 「裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、弁論準備手続の期日における手続を行うことができる。」
  32. なお、裁判官がアバターに入ることは、裁判官の匿名化につながる。フランスではAIを利用した判決分析により、個々の裁判官の傾向を導き出すことが禁止された<https://www. legifrance.gouv.fr/jorf/article_jo/JORFARTI000038261761>。このような禁止の実効性を高めるために、このような匿名化も全くあり得ない訳ではない。よってその同一性がアバター認証等で担保される限り、調書の記載に関する民事訴訟規則66条1項2号や判決に関する同157条を改正し、裁判官を匿名としても、それがただちに民事訴訟原理に反するとはいえない。とはいえ、電子調書を作成する際の書記官は、公証官であるため、書記官の記名押印は都度実名が記載されることになるのではないか。
  33. 裁判所法69条1項「法廷は、裁判所又は支部でこれを開く。」とした上で、同条2項は「最高裁判所は、必要と認めるときは、前項の規定にかかわらず、他の場所で法廷を開き、又はその指定する他の場所で下級裁判所に法廷を開かせることができる。」と定める。そこで、法改正によるメタバース裁判は、同条2項の最高裁の「指定する他の場所」と位置付ける、1項を改正する等が考えられる。
  34. なお、釈明処分としての検証(民訴法151条1項4号)も可能と思われる。
  35. 本項目につき栗原・前掲注8)が家事手続での書記官による利用に言及していることも参照。
  36. 前掲注4参照。
  37. 例えば、典型的に問題となる場合として、当事者(特に本人)が上訴期限をAI書記官アバターに尋ね、当該AI書記官アバターが間違った日を教示したため、期限を徒過した場合が考えられる。
  38. 「下級裁判所は、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所及び簡易裁判所とする。」
  39. 11条1項「当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。」参照。
  40. 松尾・前掲注1(「司法のAI化と法―統治機構の機械化と法研究の一環として―」)191頁。

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